第9話 相当なベテラン

 深夜の寺の境内、この寒空の下、研一は来るなり早く帰りたくなっていた。

 不気味すぎる。

 目の前を歩く猫人間トラ男。

 なんにも気にしてなさそうな足取りで暗い細道を進んでいくが、こっちは心中穏やかではなかった。


「いたいた、おーい」

「にゃー」


 トラ男が声をかけたのは野良猫の一団。

 みんな一斉にこっちを向いたときに、光る無数の眼を見て、研一は震えあがった。

 怖っ!

 ネズミ退治のために仲間に話を通すと連れてこられたのだった。


「仲間は人間にあんまりいい印象を持ってないんだ。出来るだけ好印象を与えるように頼むよ」

「それ、俺よりちょっと可愛いあの子の方が適任じゃないのか?」

「俺もそう思ったけど、夜に出歩くのはいけない事だからと真由美に断られたんだ」

「そういうことか」


 とても真由美の代わりが務まるとは思えなかったが、ここまで来たし腹を括ることにした。


「目を合わせるな。大きな声を出すな。急に動くな。この三つは守ってくれ」

「分かった。気をつける」


 群れの中からひときわ貫禄のある毛並みの悪い猫が出てきた。


「にゃーお」


 不細工できったない猫だな。野良猫の中でも相当なベテランみたいだ。


「こら、じろじろ見るな」

「そうだった」


 慌てて不細工な猫から目を逸らす。


「にゃーお、にゃーお」

「にゃーお、にゃーお」


 これで何か意思の疎通ができているのか?信じられん。


「なんて言ってんだ」

「今日は寒いなって」

「なんだ、まだそんなところか」

「人間と一緒だよ、核心に入る前に外堀を埋めていくんだ」

「にゃーにゃー」

「にゃーご、にゃーご」


 さぶい……。

 もうかれこれ一時間近くトラ男と不細工な猫は話し込んでいた。


「はー」


 白いため息が出た。


「おまたせ」


 話の流れが全く分からなかったので突然終わりがやってきた。


「どうだった」

「上手くいった。ここにいる全員でアパートのネズミを一網打尽にする」

「そりゃ凄い!」


 思わず大きな声が出てしまい猫たちが跳んで逃げる。


「馬鹿、声が大きい」

「すまん、つい……」


 驚いて逃げ出した猫たちが、警戒しながら戻ってくる。

 そこへ一匹の猫が黄色い目を光らせてこちらに近付いてきた。


「にゃー」


 ん?なんだ?


「にゃー」


 こいつどこかで見覚えが……。


「まずいな」


 トラ男がぼそりとつぶやく。


「あいつだよ。お前がゴミ捨て場で睨んで追っ払ったトラ猫だ」


 トラ男と大勢の猫が見守る中、研一とトラ猫、因縁の二人?が再び相まみえる。

 宿命の二人?が出会ったとき何が起こるのか?運命だけがその結末を知る。

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