陰キャでボッチですが高校生活はそれなりに充実しています
@kakukakkun
1.1 部活動とは?
窓から差し込む優しい光に包まれ重たい瞼を持ち上げる。
大きな欠伸をしながらゆっくりと延びをして上体を起こすとスクランブルエッグと思われる優しい香りが鼻先くすぐる。春らしい心地の良い朝だ。
朝食の香りに誘われるように二階の自室から出て一階のリビングへと辿り着く。
いつも通りの椅子に腰を下ろし、手元に置かれたリモコンを押すと爽やかな笑顔のアナウンサーの流暢な声が一人だけのリビングに響いた。
『おはようございます!9時になりました!今日も……』
よくこんな笑顔でいられるもんだ。視聴者に偽りのものと思わせないこの作り込まれた表情はもはや職人技だろう。
……いや、ちょっと待て……
「……9時……っ!?」
反射的にグリンと首を回し壁掛け時計を見る。長針と短針はきれいに90度。
「やっべっ……!」
まだ一口しか食べていない朝食を乱暴に冷蔵庫へ突っ込むと爆速で身支度を済ませ家を飛び出した。
まったく……高校2年の初日がこれじゃあ先が思いやられる。
***
職員室。ちなみに新潟では殆んどの人が教務室と呼ぶ。そんなところに俺は登校初日から呼び出されていた。
「なぁ柳橋。初日からこれじゃあ困るんだよ」
「はい……」
去年から引き続き俺のクラスの担任となった女性体育教師の田辺明先生、32歳独身は呆れたようにため息をこぼした。
教員としてはまだ若年層ではあるが同世代とは一線を画す貫禄。これは体育教師である故かは分からないが、普通の男なら一歩引いてしまう。
しかも今日は入学式がありスーツを着用しているため尚更だ。
「何で遅刻したんだ?寝坊か?」
「……まぁ……そうですね」
ここで「自転車が壊れてて……」とか適当な言い訳をするのもありだが、この人を前にして成功するとはとても思えない。ここは黙ってやり過ごすのが正解か。
「次から気を付けろよ」
……あれ?……ああそうか!
今日は始業式で始まりは通常より遅く、式にはギリギリ間に合ったということもあっていつもより優しいのか。さらに午後には入学式を控えている為午前放課。こんな楽な日はそうそうないな。
「ああ、そういえば──」
田辺先生は何かを思い出したようにごそごそと机の上を探り始めた。
そして1枚の紙を取り出し俺の前に置く。そこには我が城北高校の部活動一覧がイラストつきで鮮やかに紹介されていた。
「何ですかこれ」
「城北高校の部活動紹介パンフレットだよ」
「……」
いや、見れば分かりますけど。と、反論しようとしたが目の前で胡座をかく極道風女教師の圧力に負けパンフレットに目を落とす。てか、教員が椅子の上で胡座は駄目だろ。
「これを俺に見せてどうしろと」
その質問を待ってましたとばかりに田辺先生は食いぎみで、
「お前部活動に入ろうって気はないか?」
──やはりそれか。
うちの学校は仮にも文武両道を唱える自称進学校。新潟県内の偏差値ランキング5位付近をうろうろしている、そこそこのレベルの公立高校だ。
しかしまたこの話が来るとは……。去年の春にも2度3度話はされていたがその度に断って来たのだ。こんなとこで折れる筈はない。
「ないです。そもそも去年から帰宅部だった奴が2年から入る部活なんてありませんよ」
「そうかぁ。お前は入った方が良いと思うけどなぁ」
意味ありげな台詞を吐き出しパンフレットをまじまじと眺める。
「どうゆうことですか?俺以外にも帰宅部なんて何人もいるでしょう。なんで俺なんですか」
田辺先生は不思議そうな顔で俺を見上げる。
え、俺そんなおかしいこと聞いてないよな?
「ほら、お前って見るからに友達いないだろ?学生時代友達の一人二人はいた方が良い。だからだよ」
マジかこの人!?それ教師の口から出る言葉じゃねぇだろ!?そんな理由で俺のこと何度も勧誘してたのかよ。余計なお世話だ。
あまりの衝撃発言に一瞬返答に遅れるが、言われた内容事態は紛れもない事実。今さら反論などしない。
「……まぁ、そうっすね……」
「まっ考えておけよ。明日からはちょうど部活動見学期間だからな。気が向いたら行ってみるといい。……あともし入りたい部活がなかったら私に言え。取って置きの部活を紹介してやる」
ニヤリと不気味な笑みを向ける田辺先生。どうやら“帰宅部”という選択肢はなくなってしまったようだ。もし部活を決めなければこれはろくでもない部活に入れられるのは間違いない。
「……考えておきます」
「おう、じゃ私もそろそろ準備があるから」
田辺先生はそう言うと椅子から立ち上がり、着ていたスーツのシワをビシッと伸ばす。そしてかつかつと軽快な音を刻みながら職員室をあとにする。
俺もパンフレットを片手にその背中に続いて帰路へと足を進めた。
***
目を覚ますと調理器具がカチャカチャと音を立てていた。帰宅後すぐにリビングのソファーで寝てしまったらしい。開きづらい瞼をこすり、時刻が既に6時半であることを確認出来た。
「
「……おう」
母親がキッチンから寝起きの俺に伝えた。
鈴とゆうのは俺の一つ年下の妹だ。今年から俺と同じ城北高校へ通う。性格はかなりキツい。兄には全く似つかない。
目覚ましにコーヒーでも飲もうと冷蔵庫へ向かおうと立ち上がった時、ソファーの上に置かれていた紙束がバサバサと足元へ散らばった。
「……はぁ……なんだよこれ……」
どうせ鈴の置き忘れかなんかだろう思い拾い上げ、雑に整えているとその紙に書かれたゴシック体が嫌な事を思い出させた。
「……野球部、サッカー部、軽音楽部……」
そうだなんか部活に入らないとだったんだ。何枚もある紙束から一枚一枚捲っていくが、「あ!この部活楽しそう!」など思う筈もない。
「ちょっと、なんで鈴の貰ってきたの勝手に見てんの?」
振り替えるとそこには首にタオルをかけ半袖短パンのジャージに着替えた鈴がこちらを見下ろしていた。
明るい長髪。大きい瞳。白い肌。いかにも男子受けしそうな容姿だ。欠点といえば貧相な胸くらいだろう。なぜ兄妹でこうも異なるものか。悲しくなるわ。
「悪いさっき落としたから拾ってたんだよ。……お前部活とか決めてんの?」
「うーん、まだ悩んでる。まぁバレーは小学校からやってるし入ろうかなって思ってたけど、この学校のバレー部強いし人多いから試合出れないのは嫌だから……」
「ふーん」
こいつにも色々あるのか。中学の時はいいところまで行ってたたみたいだがそう簡単にもいかねぇのか。
「お兄部活なんて入ってないよね?なに?今更スポーツでもやりたくなったの?」
「んなわけねーだろ。俺にも色々事情が出来て入らないといけなくなったんだよ。……ったく、俺が部活なんて……」
「でもうちの学校部活動自由でしょ?なんで?」
「俺に聞くな」
てか、それ以上聞かないでくれ。妹の前で「友達いないから部活動入れって言われた!」とか口が避けても言えん。
紙をまとめて、もとあったソファーへと戻すと調度夕飯が出来上がったらしい。俺と鈴は食事の並んだテーブルへ移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます