第26話
夕食の後、ニーデズが俺の勉強部屋へやってきた。
「豪華な食事に驚きました! デザートまで付いていたんですよっ!」
昨日まで俺と一緒に食べていた物とは絶対に違うはずなのにニーデズは文句も言わない。俺もニーデズもこの世界の爵位や立場はよく理解しているし、それに不平を言ったり壊したりするつもりはない。だからこそ、学生の時だけでもニーデズと友達として過ごしたかった。
「もう! フユルーシ様は気にし過ぎです。時々食べる超豪華な食事より、毎日のちょっと豪華な食事の方が僕の栄養になるって思ってください」
「時々でしたら、こちらで超豪華な食事もいただけますよ。私もウルトもフユルーシ様とここでお食事をいただくことがあるのです」
「高待遇過ぎて怖いくらいです」
ニーデズもメッセスも笑っていた。
家庭教師が入ってきたのと入れ替わりにメッセスが退室する。
俺はいつものように課題が出され、ニーデズは実力を知るためにテストをした。
「これでしたら、キチンと復習していけばAクラスになれるでしょう。気を抜かないようにやっていきましょう」
家庭教師からお墨付きをもらいニーデズはホッとしていた。
勉強の後、二人でお茶をする。
「フユルーシ様は学園以上のお勉強をなさっているのですね」
「うん。うちの方針だよね」
「僕のクラスや下のクラスにも高位貴族子女様はいらっしゃいますからここまでなさっていたことに驚きました」
「食うには困らないからって勉強しない者も確かにいるよねぇ」
学園には公爵家侯爵家の後継者でないという理由で勉強せず、Cクラスにいる者もいる。その中には武術に力を入れ騎士団入りし、将来は領地の自警団を率いる者もいるので勉強しないことが悪いとも言い切れない。
しかし、勉強も武術もやらない寄生虫になる事しか考えていない者も少なからずいるのだ。ダンスや酒などにばかり詳しくて社交だけは得意だが、領地のための社交でない事が多い。
女性でも着飾り媚びることが社交であると思っている者もいる。初めから金持ち貴族の妾か独身謳歌を考えているのだろう。高位貴族に嫁ぐつもりには見えない。
「前にも言ったけど、俺は商会を貰う予定だった。どんなものがどんなところで必要とされているか、どんな風に情報を集め使うか、効率的な運搬は何か。そういうことを知らないと商会を大きくすることはできないから。
今は目標が見えているから楽しいよ。何がガルフ事業に役立つのかわからないから勉強は続けていく。
両親も兄弟も俺が困ったら助けてくれるだろうなとは思っているけど、それは俺が頑張っていればって話で、ぐぅたらしていたら助けてはくれないよね」
「立派なご家族ですね」
「ニーデズの家もそれぞれがちゃんとしてるじゃん」
「うちはギリギリ貴族ですから」
男爵家というのはどこでもそんな感じだと聞いている。
「家族に手紙は書いた?」
「はい。メッセスさんに頼みました」
「会わなくていいの?」
「元々長期休暇でなければ会いませんので」
「寮生ってそんなもんか。とにかく、何でも遠慮なく言ってよね」
「ありがとうございます」
すぐにニーデズは退室した。これからメッセスと剣の訓練だそうだ。
俺は公爵領の地図を広げた。
「なんだこれ??」
前世を思い出して初めて広げた地図はとてもわかりにくいものだった。これまでは違和感なく見ていたはずなのに。
「この辺がタァサス地方? たぶんこれタァサス湖? これ山なんだよね? 高さは? 川は合ってるんだろうなぁ?」
それはおそらくこの国を表している俺は地形調査の必要性も感じてしまった。
「いや、その前に地図の書き方からか?」
思わず頭を抱える。いつかコースは作れるのだろうか??
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