第8話

 ドライバーとボールの制作契約を交わし意気揚々と馬車に乗り込む。

 帰宅途中で学園に寄り寮生活のニーデズを降ろした。

 ニーデズが馬車に乗っているときは従者二人は一人は馬に、一人は馭者台にいる。馭者台にいた従者の一人メッセスが乗ってきて俺と向かい側に座る。


「フユルーシ様。今日は何をご契約なされたのですか?」


「遊び道具を作ってもらうんだ。道具ができたらメッセスもウルトも一緒にやろうねっ!」


 ウルトは馬に乗り周りの安全を見て付いてくれている従者だ。


「いえ、我々はフユルーシ様のお供をさせていただくだけです。

ですが、危険な遊びではないのですね?」


「クリケットより安全だと思うよ」


「そうですか。それはよかったです」


「でね、父上が昔使っていたクリケット場ってどうなっているかな?」


「領地にあるタァサス湖の隣の球場でございますか?」


「うん」


「新しい球場を作られてかれこれ五年になりますから、恐らくは荒れ地となっているかと思われます」


 父上はクリケットが大好きでそこに相手チームを呼んで試合を楽しんだりしていたが、もっと楽しみたいと言って、領地の中でも王都に近い南側に新たにクリケット場を作った。

 そこは王都から馬車で二時間ほどの場所なので人気があり、他の貴族に貸したりしている。


 タァサス湖の球場は王都から六時間ほどかかる。


「父上から使用許可が出たら整備を頼むよ。草を刈って芝の長さを三センチくらいにしておいてほしい。クリケットをするわけじゃないから線とか穴とかクリケット道具とかはいらないし、走り回らないから凸凹があっても問題ない。」


「かしこまりました。客席はいかがいたしますか? 客席も荒れていると思います」


 客席といっても貴賓席以外は座りやすいように石が並べてあるだけだ。


「とりあえずは俺とニーデズが遊ぶだけだから芝面だけでいいよ」


「かしこまりました」


 メッセスは俺の指示をスラスラとノートに書いていった。


「木工職人も革職人も二週間くらいって言ってたから、まずは球場の真ん中を幅三十メートル、距離百メートルくらいなら間に合う?」


 クリケット場は大体直径百メートル以上の円形だ。


「そうですね。庭師に確認しておきます」


「距離は百メートルはほしいから、時間的に難しいなら幅は十五メートルでもいいよ」


「わかりました。ふふふ。余程楽しみのようですね」


「ん?」


「フユルーシ様がそこまで積極的なことは珍しいので」


「珍しいじゃなくて、初めてって言っていいよ。手数かけて悪いね」


「何も問題ございません。フユルーシ様にご指示いただけることは嬉しく思います」


 メッセスは本当に嬉しそうに眉を下げた。


「そう? もしかしたら、大事業になっちゃうかもしれないよ」


「それは頼もしいですね。是非ご協力させてください」


 メッセスとウルトは俺の将来の秘書になる予定で、俺が貴族学園の幼少部に入学した時に付けられた従者だ。貴族学園の幼少部は十歳から十五歳までの五年間。

 つまり、二人とはすでに六年の付き合いになる。俺の従者になったとき二人は二十二歳だったからすでに二十八歳。二人ともうちのメイドと婚姻して屋敷の使用人家族部屋で暮らしている。子供はまだ小さい。


「大事業になったら、二人の給料もアップしてあげるからね」


 メッセスはクスクスと笑った。あー、信用してないなぁと俺も苦笑いした。俺も本気ではない。


「そうしていただいた暁には一軒家でも買いますね」


「うーん、拠点はまだ決まっていないから買う前に相談してね」


 俺が本気かもしれないと思ったのか、メッセスは一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔に戻る。


「かしこまりました」

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