第2話長谷川結衣

 「お〜い。結衣!頼むよ!俺ら金なくてさ」

 「知らな〜い。じゃあねぇ〜」


 童顔だが整った顔立ちに金髪に所々ピンクの派手な髪をした少女は、最後まで聞かずに電話を切る。


 「あ〜。なんか面白いことないかな?」


 彼女の名は長谷川結衣(16)


 長谷川グループという大企業の社長を務める長谷川忠夫(49)の1人娘。


 現在彼女は、SNSをチェックしながら、夜の街を徘徊している。


 「うーん?コスプレしたイケメンホームレスが拾ってくださいと書かれた段ボールにうずくまってた!って、こんなの自作自演でしょ?…….でも、暇だし見にいってみるか」


 彼女は、大通りでタクシーに乗り、現場へと向かう。


 現場近くでタクシーを降りた結衣は、地図アプリを使い、噂のホームレスを探す。


 「あれ?マップだと住所はこの辺りになっているんだけど、いないな」


 30分ほど路地を探すがそれらしい人物はいなかった。


 「なんだ。やっぱりガセかぁ。帰ってゲームの続きでもするか」


 私は、タクシー降りたところとは別の道順で大通りを目指す。


 路地の角を曲がり、大通りが見えた時に視界の端にうずくまっている人が見えた。


 「ん?」


 気のせいかな?と思いもう一度確認する。


 大通りの明かりでかすかに人がいるのがわかった。


 (もしかして、SNSで話題になってたホームレスかな?)


 今の場所からではかすかに見えるくらいなので、もう少し近くに寄って確認することにした。


 近づくと男性的な体格に、SNSの画像で見た姿そのままの人物がそこにいた。


 (ラッキー!見つけた!噂のイケメンホームレス!)


 うずくまっていて顔はよく見えなかった。


 (さあて、本当にイケメンなのかな?SNSでは、何をしても下を向いているだけだってあったから、覗き込んで確認してみよう!)


 でも、念のためにすぐに走って逃げられる姿勢でそっと近づく。


 (おお!本当に近づいても何もされない。なら、堂々と覗き込もう)


 それでは、そのお顔拝見!と体をかがめる。


 「お!めっちゃイケメ……」


 その顔は本当に整っていて、芸能人やモデルなんて話にならないレベルだった。


 ただ、私が気になったのは、その顔ではなく目だった。


 その目は「どうしてこうなった?」と原因を考えながらも「自分のせいだ。自分が……」という自責の念に押しつぶされそうになっている目。


 その目には見覚えがあるなんてものではなく、10年前の私も同じ目をしていた。



 ー10年前ー


 「ママ?なんで荷物をまとめているの?」

 「……」


 母は、突然荷物をまとめ出した。


 「ママ?」

 「……」


 私のことは無視して玄関へと行き、靴を履く。


 「ママ?」

 「……」


 ガチャン!バタン!


 母の姿を見たのはそれが最後だった。


 その後、私は母を探しに町中歩いた。


 (どうして?どうして、ママは、いなくなっちゃったの?なんで?私のせいなのかな?)


 どのくらい歩いたかは、分からない。ただ、自分を責めながらも、母を探した。


 いつものスーパー、公園、コンビニ、レストラン、服屋さん。


 それまでの思い出を辿るように歩いた。


 でも、母は一向に見つからなかった。


 私は、最後に母とよく一緒に来た商店街の駄菓子屋へと行ってみた。そこだけが、最後の頼みだった。


 いつも楽しく母と笑いながら歩いた道。


 駄菓子屋に着くと、お店は閉まっていて、母の姿もなかった。


 私は突然立っていられなくなり、駄菓子屋の前にある電柱に座り込んでしまう。


 (どうしてこうなったの?ママは私のことが嫌いだったのかな?パパが帰ってこないのも私のせいなのかな?みんな私のせいなのかな?)


 そんな答えの出ない問いが頭をぐるぐる回る。


 「そっか。私が消えれば全部元に戻るんだ。私がいなくなれば……」


 そう思い、何処かへと歩いて行こうとした時だった。


 「あら?結衣ちゃんじゃない。こんな時間にどうしたの?」


 駄菓子屋のおばちゃんが買い物袋を持って立っていた。


 私は一瞬「ママ…」と思い振り返るが、母じゃないことがわかると、自分が捨てられたことを幼いながらに実感した。


 もう全てがどうでもよくなった私が歩き出そうとすると、おばちゃんに腕を掴まれて、おばちゃんの腕の中に抱かれた。


 「大丈夫。大丈夫だよ」


 おばちゃんは私を抱きしめて、頭を撫でてくれた。


 「うっ!」


 涙が流れた。


 涙と共に胸につっかえていた栓のようなものがとれた瞬間に涙が止まらなくなった。


 長い間泣いていたと思う。でも、おばちゃんはずっと抱きしめてくれていた。


 あの時、おばちゃんに抱きしめてもらえなかったら……



 (はぁ……)


 「ちょっと一緒に来い!」


 私は気がつくと、ホームレスの手を取り歩き出す。  


 そのまま大通りに出る。


 魔王「トール」は、(なんだ?この女は?)と疑問に思うが、なされるがままに歩く。


 大通りに出ると、


 「ねぇ、見てあれ」

 「何あの男、汚ーい」

 「お!あれってSNSで話題になってた……」

 「ああ!へぇ。拾われたんだ」


 噂された。


(ああ、私何やってんだろ……でも、あの頃の私と同じ目をしていた。放っておけばきっと……そう思うと体が勝手に動いてしまった)


 タクシーに乗り、父が所有するマンションの1つで、現在は私だけが住んでいる自宅へと連れて行く。

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