【2.6万】Lovely Dear Underground 〜ひかりの王と地底の国〜
平蕾知初雪
女王の夢
――ええ、
はい。幽深先生との御縁と言いますか、お会いしたきっかけと言うのでしょうか。先生のお子さんと私の姪の子が同級生だったのです。当時は家族ぐるみのお付き合いでいらしたようですね。気さくな方でいらして、作家先生とは思いもしませんでした。はい、てっきり学校の先生とばかり。
姪の家は近所でしたので、子どもたちが小さい頃はよく飯炊き婆をしに通っておりました。そうしてたまたま幽深先生のご家族とバーベキューをするという時に私が居合わせたのです。はい、女王の話を先生にお聞かせしたのはその時でございます。
いいえ、こたつの上にホットプレートを二つ載せましてね。そうなんです、寒くて。姪の下の子が幼稚園に上がる前でしたから、十五年以上は前でしょうね。
そういえば、今日は送って頂いたお手紙を持って来たのですが、ええ。読みやすくまとめて頂きありがとうございます。こんなに似通った体験談が全国にあるとは驚きました。
こちらの「女王の夢」の内容は、どれも私には覚えがないものばかりでございます。もちろん夢ですから、すっかり忘れてしまっただけかもしれません。
ですが私の夢に出てくる女王といえばウシオさんでございますから。
そうなのです、彼女たちの夢に出てくる女王とはあまり特徴が合わないのですよ。
そもそも、女王の夢を見た女学生たちが相次いで亡くなっているという点も不思議でございます。私が女王の夢を頻繁に見ていたのは中学生の頃でしたけれど、この通りしぶとく生きておりますでしょう。そうしますと、彼女たちの夢と私が見ておりました夢とは、僭越ながらほぼ共通項がないように思います。
ええ。ですが、このお話はどれも私より年の若い方の体験談ではないでしょうか。
実は、幽深先生にこれを申し上げたかどうか忘れてしまったのですが、私が学生の時分にもあったのでございます。
はい。その美しい女王を夢に見たら死ぬと、そう言われていたのです。
とはいえ、それが中学生の頃だったか、それより前か、働き始めの頃に寮で聞いたのだったかは私もすっかり忘れてしまいました。ですが五十年も以前から、死をもたらす美しい女王の噂がまことしやかに語られておりましたのは間違いありません。もちろんそんなお話を嬉々として喋っていては、目の端を吊り上げた大人達にピシッと折檻をされてしまいますので、本当にひっそりとではありましたが。
恥ずかしながら、今でもウシオさんに想いを馳せることがございます。そういう時の私は、時も忘れて夢物語のような妄想にぼうっと耽ってしまうのでございますが……実のところ私が生まれるよりもずっと以前から、夢の中でだけ会うことができる「女王」という何かは存在しているのかもしれませんね。
女王に選ばれ、女王に焦れた少女達だけが女王に連れて行かれてしまうのでしょうか。
いいえ、なんとなくですが。送って頂いたお話を拝読して以来、私にはそんなふうに感じられるのです。
そうですね。
私なんぞは若い頃から、地味で美人でもなく、かといって働き者でもなし、褒められたような特技もないぼんやりとした人間でございましたが、そんな私にも、ウシオさんはいつも優しく真摯に接してくださいました。
ですから、もしも死をもたらす女王がウシオさんのような女性なのだとしたら、案外と女王は日本中の少女の夢に現れているのかもしません。ええ、分け隔てなく、優しく、平等に。そんな彼女に惹かれた少女だけが、夢から醒めたあとも女王のことを覚えているのではないでしょうか。
あるいは女王ではなく、女王に導かれる先の死に惹かれる少女が、かもしれません。
ええ、もちろん私の妄想でございます。女王の夢どころか、ウシオさんの記憶でさえいまだに不可解で夢のように奇妙なことばかりですのに。
ですから私なんぞにはなんにも、わかりはしませんよ。私もだいぶん年寄りですからね。会えるものなら会ってみたいものでございます。美しい女王というひとに。
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