想いの雫
金森 怜香
第1話 きっかけ
『私』はとある田舎に住む、無名作家だ。
元々幼い頃から読書が好きである。
どうやら、私は同じく読書好きだった両親に即発されたようである。
「今日は何を読もうかなー?」
いつもの日課である連載の執筆を終えたあと、ぎっしりと詰まった本棚とにらめっこをする。
私の仕事部屋❲自室とも言う)は、以前父の部屋であった。
小学生になった時に父から譲られた部屋である。
先程少し触れたが、父も読書好きで、特に赤川次郎先生の本が好きらしく、部屋には『三毛猫ホームズシリーズ』などが収納されている。
また、母の蔵書も一緒に収納されているので遠藤周作先生や五木寛之先生の本もある。
父が若い頃購入した蔵書は粗方読み終え、私が25を超えた頃に追加で置いたはずの5段ある本棚が満杯近くになるまで文庫本を買い集めてしまった。
さらには、古書も数冊あるが、蔵書は近代文学が大半を占め、たまに現代作家の本がある程度だ。
なぜだか私は近代文学が非常に好きなのである。
そのため、読む本には事欠かない。
「今日はこれだ!」
私が手を伸ばしたのは、何度も読み返したが今でも一番好きな本。
『恩讐の彼方に』、著者は菊池寛先生だ。
数多くの本を読んできたが、一番好きな作家と言われたら私は迷いなく菊池寛と答えるだろう。
現代作家に限定されたら、話は別だが。
私は特に、『恩讐の彼方に』の後半が大好きだ。
男の心境の変化、そして青の洞門を掘り進めていく過程から学ばせてもらえた物、これは私にとっても宝物だと思っている。
《続けること、それは必ずいつしか花開く》
そう背を押されている気がするから、私はこの話が大好きなのだろう、と思っている。
「いつかは、行きたいなぁ……。青の洞門にも、菊池先生縁の地にも……」
私はポツリと呟いた。
うちから最も近い縁の地は、隣県である。
私は思いついた数日後、突如旅に出た。
海辺に建つ文学館に向かって。
そこには、何か成長への手がかりがあるような気がした。
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