第29話「魔獣使いとの闘い」
引き続き、サードリアン・デスワームとの闘い
デスワームが動きを止めたかと思うと、口からは炎を吐き出すとともに、
雷が飛んできた。複数の異なる属性の攻撃を同時に使ってくるのは、
強い魔獣の特徴でもある。もちろん一つの属性を極めているものもいる。
ともかく属性の併用の際、防御するときは気を付けないといけなくて、
今回は、回避しきれずに防御しようとして、
自然と二つの属性に対応する防御スキルを使用した。
そして攻撃を防御すると、上の方から拍手が聞こえた。
上を見ると、ワイバーンに乗ったララさんが拍手をしているようだった。
嫌味とかじゃなく、彼女は本気で賞賛してるように思えた。
(なんなんだ、あの人は刺客じゃないのか?)
そんな事を思いながらも、攻撃を防御し隙を見て、
引き続き、ショットブレードを突き刺し、
引き金を引いて、内部で発砲するというのを繰り返す。
そうこうしていると、炎と雷の攻撃が途切れるが、
今度は、デスワームは地面へと潜った。動きの変化は弱っている証拠でもある。
まあララさんが操ってるから、そう命令したとも考えられるが、
サーチを使ったところ、弱っているのは事実だ。
まあ魔獣が弱ってくると、操る側も制限を受ける。
いくら魔獣使いでも、魔獣が肉体的にできなくなっていることを、
強制することは難しい。もちろん無茶をすれば出来なくもないとは聞くけど。
ともかく次にどう出るか容易に想像はついたのと、
足元に何かが向かってくるのが、鎧の力なのか、自然と分かったので、
今回は僕の意思で、右側に回避した。すると土煙を上げて、デスワームは出てくる。
そしてすぐに引っ込む。下から襲って、丸飲みにしようという魂胆だろう。
(そんな事はさせないけどね)
僕は動きを止め、相手を引き付ける。動き回っていたら、出てこないからだ。
そして飛び出した所を、回避しつつ同様に刺して発砲する。それを繰り返す。
そんな中、ふと思ったことがある。
(ララさんは、ずいぶん正々堂々とした戦い方をしているな)
魔獣使いにとっての正々堂々とは、敵の強さに合わせて、
最低限の数だけ使役し、命令で攻撃対象を指定するだけで、本人が連携をとり、
攻撃を仕掛けたり、危なくなったら回避させたりとはするけど、
基本的に魔獣の攻撃自体は、その個体が自然に行う攻撃のみだという。
魔獣に命令を下し、自然界ではやらないような、
おかしな事をさせて、相手を翻弄させず、
真っ向勝負させるという事で、正々堂々と言う事になるらしい。
(本人は高みの見物で、何かしてくる気配はない)
本人が連携してこない分、こっちのが有利と言う感じで、
なんだか、手を抜いているようにも感じる。
ただ、こっちを見下しているようにも見えないし、
先の小手調べとは違う気がした。
それ以前に、
(この人は、本当に刺客なのかな……)
ただ僕と言うか、「黒の勇者」と戦いたいだけで、
ここに来た人で、偶然にも魔獣使いだったとも考えられる。
もし本物の刺客が来たら、この人に迷惑をかけることになってしまう。
一方魔獣は弱って、防御スキルもなくなった。
僕は動きを止め、その時を待つ。鎧の力かは分からないけど、
足元に魔獣が近づいているのを感じる。
(来た!)
僕の体は、自然と空へと跳躍してた。その直後、下から口を開けたデスワームが
飛び出してくる。そのまま、これまた自然と剣を下の方へ向け、
開いているデスワームの口へと落下していき、
そのまま口の中に剣を突き刺し、そして何度も引き金を引いた。
数発の銃撃の後で、魔獣は動きを止め、地面に見せていた部分が、
力をなくして地面へと叩きつけられた。
僕は体が勝手に動き、動きが止まった時点で、
剣を抜き、足場を蹴って宙を舞って、魔獣が倒れた側に、着地した。
するとララさんも、ワイバーンを着地させて、
ギガワームの側にやってきて、腕輪に触れながら呪文を唱えると
魔獣は姿を消した。
「死んだ魔獣は、生きている魔獣の、餌にする事にしているの。
こいつが得てきたものを引き継がせるためにね」
魔獣の多くは、「捕食」と言うスキルを持っていて、
他の魔獣の肉を喰らうことで、そのスキルを得ると言われている。
ただ得るだけで使役自体は出来ないことが多いと聞く。
しかし、魔獣使いはそんなスキルを魔獣に使用させることができるらしい。
おそらく彼女いう引継ぎと言うのはデスワームが得てきたスキルの事と思われる。
あとサードリアン・デスワームは毒を吐くが、スキルによるものなので
肉には毒はないので食べても問題はない。
それはともかく、どうにも気になることがあったので、彼女に問う。
「アンタは、俺の命を奪いに来た刺客か?」
この時、違っていたらどうしようか悩んだが、その返答は、
「確かに私は、依頼を受けてあなたを殺しに来たわ」
との事で、一応彼女が刺客には違いないらしい。
そして彼女は楽し気に、
「次は数で勝負よ」
彼女はさらなる魔獣を召還する。
「サモン、タペタリオン!」
「えっ!」
彼女の後ろの方に、無数の蟻の人型魔獣が出現する。
タペタリオンは、遠い国の森林に生息している魔獣で、
耐久力は人間並み、武器は鋭い牙と爪。
個体によっては毒針とか、酸を吐くのがいると言われる。
この魔獣の恐ろしさは群体で襲ってくること。
聞いた話じゃ、訓練を受けた兵隊と戦うに等しいと言われている。
何年かに一度大移動する時があるが、その際には、通り道の動植物を
食い荒らして、後には何も残らない。
(ドラゴンでさえも、骨になると言われてるからな)
もはや逃げるしかないとまで言われるほど。
故に各個体は攻撃力を加味しても中級魔獣だが、集団で動くことも鑑みて、
上級魔獣扱いとなっている。そんなのを数百体も召還している。
そして彼女は、いつの間にか、ワイバーンに乗り込んでいて、
「勇者と名乗るならば、これくらいの数は倒して見せなさい」
と言って空に上がる。僕は、
「勇者を名乗ったつもりはない!」
言うまでもないが、周りの人間から、そう呼ばれているだけ、
鎧の力に頼っている身としては、「勇者」と呼ばれるのは本意じゃない。
しかし、ララさんは、僕の言葉など、お構いなしというのか、
魔獣たちはこっちに向かってくる。
とにかく戦うしかない。
僕は武器をカノンタガーに切り替えた。ヴァイブナイフでもよかったが、
毒針による遠距離攻撃も使ってくるだろうから、
銃撃が使えるこっちを選んだ。まずは先制攻撃として、
銃撃をしながら突っ込んでいく。
耐久力は、ほとんど人間と変わらないから、
数十体が倒れていく。途中弾切れになったので銃撃はやめ、
そのまま群れに突っ込んでいき、片っ端から切り裂いていく。
連中も爪と牙と毒針と酸での攻撃を仕掛けてきたが、
爪は避けつつ、腕を切り落とした。牙は刃を振るい、口のあたりから切り裂いた。
毒針と酸は鎧が耐えれるか分からないが、本能的に避けつつ、
銃弾が補充されたので銃撃で攻撃する。
そうやって攻撃をしながら、群れの中心に向かう。
中心近くになればなるほど魔獣は密集し、攻撃も激しくなっていくが、
同時に範囲攻撃魔法を使えば、多く巻き込むことが出来る。
敵の攻撃を避け、そして倒しながらも中心に向かい、到達と同時に、
「ウォーティ・エクスプロージョン!」
水系の上位魔法で、ファイヤー・エクスプロージョンの水版で、
周辺に水を発生させ、対象を溺死させる。なお魔力による水もどきなので、
飲めないし、一定時間がたつと消えてしまう。
タペタリオンの弱点は水で、かつて大移動したときは貯水池を決壊させて、
洪水を起こし倒したと言われている。そして魔法により周囲は一気に水浸しになり、
多くのタペタリオンが溺死した。数少なくなった魔獣を、
斬撃と銃撃で倒していく。
余談だが、タペタリオンが大移動の時に川とかに差し掛かった時、
簡易的だが、橋や船を作って渡るという知恵はある。
ただ突然の洪水には対処できない模様。
すべてを倒し終えたところで、彼女は再び降りてきて、
デスワームと同じように、魔法でタペタリオンを消した。
「まさか水系の上位魔法魔法が使えるとはね。ちょっと拍子抜けね」
向こうは範囲魔法を使わず、カノンタガーで各個撃破を望んだのだろうか。
「まあ、許容範囲かな」
と言いつつ、またブレスレットに手を触れる。
また新たな魔獣を呼び召喚しようとしているのは分かった。
この瞬間は、大きな隙なので、絶好の好機と言えるけど、
そこを狙う気にはなれなかった。
この人には、そんな卑怯な真似をしたくはなかったからだ。
そして彼女は、
「サモン!シュテンドウジ!」
巨大な角が有名な人型魔獣オーガ、
現れたのはその中でも巨大な個体で、赤いオーガ、
もともとはクリムゾンオーガと呼ばれる魔獣だが、
いつも間にか、そう呼ばれるようになった。
異界人が言いだした事で、由来が彼らの世界の伝説らしい。
あとこの名で呼ばれるのは雄だけで、雌の個体はイバラキドウジと呼ばれる。
出現したシュテンドウジは巨大で筋肉隆々で、
そして現れると同時に、その手に巨大な鉄の棍棒を出現させる。
これは、シュテンドウジが持つスキルによって生み出されるもので、
シュテンドウジが自然に行う事でもある。
そして、その棍棒を振り上げ、攻撃を仕掛けてきた。
「!」
素早く避けて、今度はチェインモアを装備する。
魔獣は金棒を素早く振るうので、避けきれない時は、チェインモアで防御する。
大きさには差があるものの鎧の力の所為か、うまい具合に受け止める。
正確には、体が勝手に動いている。
まあここまでの戦いは、殆どそれだ。
一応、武器と戦いの方向は僕が考えたけど、カノンタガーの装備し、
タペタリオンの群れの真ん中で、ウォーティ・エクスプロージョンを使ったのも、
僕の考えだ。それを考えると体が勝手に動き実行されていく、
カノンタガーを装備し、群れの真ん中に向かっていき魔法を使う。
こっちの考えをある程度は反映してくれているとはいえ、
自分が動いているという感じはしないから、
いつもの事とは言え、いい気分はしない。
今も同じだ。チェインモアを使って戦うというのは僕の意思だけど、
その後の戦いは、防御も含め体が勝手に動いている状況。
魔獣は振るう巨大な金棒と打ち合いを続けた後、
隙を見て防御スキルが弱い場所、脇腹を切りつける。
だが敵は怯むことなく金棒を振るってくる。
そして防御スキルの弱まりを感じ、次の部位である両腕に移ろうとしたとき、
チェインモアと金棒が、ぶつかり合う。
鎧のお陰か、体格差がある中でも、踏ん張って耐えることは出来ていたが、
それでも押されてくる。
(こいつ、デモスゴードよりも強い気がする)
シュテンドウジは上級だが、デモスゴードよりは弱いはずだった。
するとこっちの心を読んだようにララさんが、
「そいつは、私が丹精込めて鍛えてきたわ。
通常のシュテンドウジよりもずっと強いわよ」
とどこか自慢げにいう。この時、ワイバーンはいなくて、
地上に残ってこの状況を見ていることに気づいた。
だからと言って、魔獣使いである彼女に攻撃しようとは思わなかった。
卑怯だという事もあるけど、危害を加えることで、
魔獣の暴走を促してしまう可能性もあるからだ。とにかく、戦いは続くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます