第9話

 ウズマの鵺殺しの話は伝聞となり噂となって尾ひれがつきながら、瞬く間に広がった。


 鵺の死骸は朝廷に運ばれた。

 鵺退治は犬豪が遠い昔に倒した話を除き、奇跡の様なものと思われていたのだ。


 そして、狼や虎退治の武勇伝よりも格上の誉れとして扱われた。



 事の顛末を求めて、フジは早速ウズマと参考としてキヨアキラを呼んだ。


 かくかくしかじかと、キヨアキラの方がよく喋り、グモヌシノカミの話をした時、フジは眉根を強くした。


「グモヌシノカミが、あろうことか帝様を狙っていると?」


「はい。」キヨアキラは深刻な顔をした。


「一刻も早くグモヌシノカミを封印するか、討たねばなりません。」


「神を討てるのか?討てぬ存在として貴族がカミと称するくらいだぞ?」


 フジはカミと呼ばれても、それに傲慢する人間ではなかった。寧ろ、白狐の民に生まれた宿命の様なものと思っている。




「御神体ごと封印すればよいかと。とはいえ、ランパチが鵺に自分を食わせて受肉した様に、グモヌシノカミもまた、受肉していることは否定できません。」


「カミが、肉体をもつ…」ぞっとする話にフジは恐怖した。神通力や超能力をもつ神代の神々が肉体をもつとなると…。




「すぐに人員を揃えて風穴に派兵しよう。グモヌシノカミ、討たなくては。」


「フジツチカノカミ様。是非某を…」ウズマは正座から胸に手を置いて言った。


「某を人員に加えて頂きたく。」


「分かっている」フジは頷いた。


「鵺殺しのウズマをおいておくほど、私は愚かではない。隕鉄銀の野太刀が一振、家宝に保管してある。お前への特別な贈り物だ。それをもっていけ。」


「あ、あの、か、家宝の剣を、某に!?」


 動揺するウズマにフジはニヤリと笑った。鵺ほどの大物を退治しても根は変わらない。


「毎日何千と生木を打っては大太刀を扱うのに励む犬豪を、私は知らぬ。名前改めで犬豪ミナモトノウズマサを名乗る日はすぐそこになったと言うことだ。」


「けけけ、犬豪、おとと。」ウズマは感激で漏れでた言葉を口元で押さえた。


「山賊討伐から帰ってきたシラカワライゴウやナカムラゲンシンらを大将格とする。これは国家の一大事と受け止めた。」


「私も参ります。」キヨアキラが礼をした。


「陰陽師殿が?」


「鵺退治では、不思議な術で加護を貰い、鵺を討つことが出来ました。」ウズマは推薦するつもりで、キヨアキラとフジを交互に見た。


「分かった。討伐隊に加えよう」


「ありがとうございます。」キヨアキラは再び礼をする。




 隕鉄銀の大太刀は、刀身が緩やかなカーブを保ち、真っ直ぐな刃波があり、見た目は武骨だが、どこか繊細に磨かれた造りをしている。

 ウズマの運命の一振りであった。




 夜、フジから太刀を貰い受けた後、鞘から抜いて眼を輝かせ、庭で軽く振ってみた。


「軽い…」片手で振れそうな程軽く、それでいて木の葉が止まるだけで切れそうな程の鋭さがあった。




 これは持つものを選ぶ危ない太刀だ




 ウズマは、鞘にしまうと息を吐いた。


 妖刀の類ではないかと思った。


 これを扱えるか?扱ってみせる!


 心に誓った。

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