第15話 後日談
王女御一行がカーリンを去ってから、二ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。
カーリンには再び平穏が訪れ、ユイは求むべき平和を得たとばかりに怠惰という言葉を体現する。
しかしそんなある日の朝、ユイは唐突にエルンストの下へと呼び出された。
「すまんね、朝早くから呼び出して」
「……いえ、構いません。それでなんの用でしょうか?」
普段ならば起きてさえいない時間であり、自らの言葉とは裏腹に、ユイは完全な寝ぼけ眼でエルンストの前に立っていた。
このような形で早朝に呼び出されるのは実に二ヶ月ぶりのことである。
そしてその事実が前回の事件との関係性を物語っているようで、ユイはこの呼び出しに何か不吉なものを感じていた。
「実は用件は二つあってね……あまり君は喜んでくれないかもしれないが、イスターツ五位」
「昇進……ですか」
五位への昇進を示唆するエルンストの言葉に、ユイは思わず嫌そうな表情を浮かべる。
「昇進を告げられてそんな表情を見せるのは、王立軍にあっても君だけだろうね」
「昇進なんてものは、仕事や気苦労が増えるのと同義ですよ。それで、もう一つの用件とは何なのですか?」
苦笑いを浮かべるエルンストに対し、弱った表情を浮かべたユイは頭を掻きながら先を促そうとする。
「ふむ……実はこれがもう一つの用件だ」
エルンストは机の引き出しから一通の封書を取り出すと、ユイに向かってそっと手渡す。
「……手紙ですか」
「開けてみたまえ」
エルンストのそのやや硬い表情から、ユイは何とも言えぬ不吉な予感を覚える。
そして封筒を開封すると、中には一枚の羊皮紙が入っていた。
その紙を取り出して書かれている文面へと視線を落とした瞬間、彼は途端にその表情を歪めた。
「……そういうことだ。君への転属命令だよ。至急、王都へ帰還するようにとのことだ」
自分をどのような表情で見つめられているか予想がついたため、エルンストは敢えて目をつむりながらそう口にする。
「軍務長……この辞令は断れませんか?」
「君のことだから、たぶんそう言うと思っていた。だが、それは難しいだろうな。なぜならその封書の差出人を見てみたまえ」
エルンストの言葉を受け、ユイは封書を裏返すと差出人の名前を確認する。
するとそこには、可愛らしい丸みを帯びた字で「エリーゼ・フォン・エルトブート」というサインが記されていた。
そのサインを目にした瞬間、ユイはいつもの様に頭を一つ掻き、そのまま天井を仰ぐ。
そしてこれから待ち受けるであろう未来を憂うと、彼は限りなく深い深い溜め息を虚空へと吐き出した。
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