限定無双のダンジョン探知師
宮杜 有天
第1話 探知師
八角錐にカットされた黒水晶が尖った方を下にして揺れている。ゆっくりと右回転。黒水晶の底面からはきらめく糸が伸びていた。それは
「うん。やっぱりここで……コホッ、間違いないね」
咳き込みながらオーランが言う。くすんだ灰色の髪の毛をした青年。血色が悪く、不健康そうな肌をしているが見た目は若い。二十歳前後だろうか。簡易的な鎧である
旅人といった出で立ちだ。
灰色の瞳が見ているのは自らが持つ
中心からは黒水晶が垂れていた。
「位置は特定できたのか?」
木々の間を縫って頭上から、羽ばたく音と共に声が降りてきた。黒い鳥がオーランの肩に止まる。
「うん。ファルサの方はどうだった?」
「半径二キロ以内には
「ならこの辺りに発見済みのダンジョンは……コホッ、なさそうだね」
肩に止まった鳥が話すことを不思議がる様子もなくオーランは言う。
一人と一羽が立っているのは森の中だった。獣道しかないような深めの森。
「とりあえず
「おいおい。しんどそうだな。俺の
「大丈夫。この辺りは
「少しでも足りないと思ったら、遠慮無くもってけよ」
そう言うと、ファルサと呼ばれた黒い鳥は近くの枝へと移る。
「ありがとう。ホント大丈夫だから」
オーランは伸ばしていた腕を引き戻す。同時に探知杖の先から垂れていた黒水晶が、二叉に別れた弧の中心へと収まった。
杖の先、蜘蛛の巣状に張られた
オーランは探知杖を一振りした。杖の先からいくつもの
杖から伸びた
門を閉じる扉には
「よし。
オーランが木の上にいるファルサに声をかけた。ファルサが再びオーランの肩へと降りてくる。
「街で冒険者雇って、またここに戻ってきて調査ってか? わざわざ手間かけて、お前ェも物好きだな」
「せっかくダンジョンを見つけても、調査しとかないと
呆れた物言いのファルサに、オーランは苦笑を浮かべ言葉を返す。
「だからそんな山師みてぇなことしなくても、ふつうに
「依頼は色々と条件が多いから、窮屈で嫌なんだよね。それに……コホッ」オーランが咳き込む。「
言いながら、オーランは森の外へと歩き始めた。
☆
「あの……パーティーをひと組……コホッ、雇いたいんだけど」
冒険者ギルドの受付に向かってオーランは言う。
森を出てから一泊。翌日の夕刻には、一番近くあるガラオの街に着いていた。そこから更に街で一泊して、次の日の昼前にオーランは冒険者ギルドを訊ねたのだ。
「あ、はい。クエストのご依頼ですか?」
受付に立つ女性が笑顔を浮かべて言う。
「新規ダンジョンの調査なんですが……経験者が……コホッ、いれば一番いいです」
「ダンジョン探査ではなく調査……の経験者ですね?」
「なら俺たちを雇わないか?」
背後から男の声が聞こえた。オーランが声のした方を向く。
そこには赤毛の偉丈夫が立っていた。立派な体躯を革鎧で包み、腰にはブロードソードをぶら下げている。三十代くらいの男性。
その姿を見たオーランの瞳が見開かれた。男はニヤリと笑ってみせる。
「ルーファス! なんでこの街に。クエストか何かで?」
赤毛の男――ルーファスに向けて、オーランは親しげに話しかけた。
「ちょっと別件でな。それよりお前、まだフリーランスで
「ははは。その方が……コホッ、気楽で」
「あのー」
二人の会話に割り込むように受付嬢が話しかける。
「ああ。すみません。この方たちに依頼しますので、手続きをお願いします」
オーランが言うと受付嬢は頷いてみせる。
「では依頼書を作りますのでこちらへ。あとそちらの方は――」
「ルーファスだ」
「ルーファスさんは認識票を出しておいてください」
それだけ言うと受付嬢は奥へと引っ込んだ。
ルーファスは首もとから細い鎖を引っ張り出した。鎖はペンダントになっており、ペンダントトップは長方形の小さな金属板だった。金属板は取り外せるらしい。金属板を戻って来た受付嬢に差し出す。
金属板は認識票と呼ばれる、冒険者の情報が書き込まている魔導具だ。
「えーと……オーランさんはパーティをご希望とのことですが、ルーファスさんが代表で依頼を受けるんですね?」
受付嬢はてきぱきとした様子でオーランの依頼書を作り、認識票の確認を行う。
「おう。俺たち〝赤嵐〟で受ける」
時間にして二十分くらいだろうか。オーランがギルドの取り分である仲介料を払い、手続きが終わった。
「報酬のやりとりは二人の間で行うという契約ですので以上で完了です。終了時に報告だけください。それと何か問題が起これば遠慮無くご連絡ください」
受付嬢が二人に笑顔を向けた。ギルドは冒険者への依頼を仲介し、仲介料を貰う。その代わりクエストの内容や依頼主との間に問題があった場合、ギルドが間に入って対応してくれる。
それが冒険者ギルドのシステムだ。
「よし。さっそく打ち合わせしよう。お前はどこに泊まってるんだ?」
ギルドを出てすぐにルーファスが訊ねた。
「〝山吹色の布亭〟だよ」
二人は話しながら街中を歩く。
オーランも長身だが、並ぶとルーファスの方が頭半分くらい高い。痩躯のオーランと偉丈夫のルーファスの組み合わせは石像と木が並んで歩いているみたいだ。
「俺たちは〝竜の酒蔵亭〟だ。部屋はまだ空いてるはずだからこっちに泊まれよ。せっかくだから今夜は呑もうぜ」
「君たちに付き合うと……コホッ、体が持たないよ」
「ああ。やっぱ
咳き込むオーランを見てルーファスが真面目な調子で訊く。
「いや、普通に生活する分には大丈夫。ダンジョンだって探し回れるくらいには元気……コホッ、だよ。杖だってあるしね」
そう言ってオーランは腰の後ろに刺してある杖を触った。彼の言葉に応えるように杖の先に張られた
「そっか。まぁ宿を移すのは考えてみてくれ。アイツらも久しぶりに会えて嬉しいだろうしな」
「分かったよ」
ルーファスの言葉にオーランは苦笑してみせた。
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