第66話 魔力計測器に使われていたもの クローシェの**?
魔力計測器に利用されている素材の特定。
ステラが頭を悩まされいたこの難問が、意外なところで解決の手がかりを得ることができた。
エルヴン・アトリエが抱える科学者、サレム博士の本領発揮である。
核磁気共鳴(NMR)装置をはじめ、原子発光を分析するICP発光分析装置、イオンクロマトグラフ分析装置、ガス成分分析機、エネルギー分散型蛍光X線分析装置などなどの分析手法を用いて、魔力計測器に使われている素材の特定を行ったのだ。
それぞれの分析法には、得意とする素材が違う。
また、分析には試料として素材が必要になるものが多い。
ということで、魔力測定器のうちの一つは、分析のために使われることになった。
ステラは最初、自分だけの力で解決しようとしていたのだが、難しそうだと分かると、すぐに協力を求めた。
ステラの中の優先順位は、問題が解決して渡の役に立つことが最上位に設けられていて、自分の存在価値を低く見積もっているからこそできた決断だ。
「ワタル様、解析結果がでマシタ」
「特定できましたか?」
「ハイ、そしてイイエ。詳しく説明しマス」
電話で報告を受けた渡だったが、サレム博士の口調はやや歯切れが悪い。
「一つは、これはポーションの原料である、タメコミ草の溶液であることが間違いありません」
「タメコミ草がここでも利用されているんですか」
「タメコミ草は魔力に反応して吸収する性質がありますぅ。言われてみてば、測定器に用いるには最適な素材でしたねぇ。どうしてわたしは気づかなかったんでしょう……」
報告にステラが悔しがる。
その表情は、まるで自分の不注意を責めるかのようだった。
渡はそっとステラの柔らかな手を握って、落ち込みそうなステラを励ました。
ハッと瞳を揺らして、ステラが渡を見つめる。
「もう一つは、どうも生き物の体毛ではないか、としかワカリマセンでした」
「そこまで分かっただけでも助かります。普通の動物では該当しなかった、ということですか?」
「ハイ。似ているとすれば犬、あるいは狼でショウカ。しかし、データベースに登録されている一般的な犬種や狼とは該当しません。それに、オカシな点もあります。なんだか人の組成ニモ似ているんデス……。あるいは狼人間トイウノガ、もしいれば……。ボクの推測デス。そんな生き物がいるわけナイデスよね、ハハハ……」
「狼人間みたいな成分、か……。ありがとうございます。非常に参考になりました」
「中途半端なお力にしかナレズ、申し訳ありません。他にも該当がないか、調べてみマス」
「いえ、本当に助かってます。こちらも進捗があれば報告しますね」
サレム博士の困惑した声を聞きながら、渡は額に汗が吹き出した。
いる。
魔力に適正があり、狼人間みたいな人物は、思い当たる。
「主様、どうかされましたの?」
渡の視線の先、会話の内容に理解が及んでいないのか、キョトンとした表情を浮かべるクローシェを眺める。
黒狼族と呼ばれる獣人。
「もしかして、今更わたくしの魅力に気づいて、魅了されてしまっているとか?」
クローシェが頬に手を当てて、いやんいやん、と分かりやすい照れ方をして見せた。
エアが呆れた目でじとーっと見ているが、周りはあえて誰も指摘しない。
狼と言えば月と魔力、変身だ。
クローシェ自身もステラほどではないが、魔法に対して適性があった。
黒狼族に限らず、狼系の獣人の体毛を素材に使っていても、まったくおかしなことではないかもしれない。
電話を切った渡は、無言でクローシェの前に立った。
さすがに何かがおかしいと気付いたクローシェは、ぎょっと目を見開いて、わたわたと慌てだした。
目がキョロキョロと左右に慌ただしく泳ぎだす。
ぶらん、ぶらんとゆっくりと振られていた尻尾が、今はぶわっと膨らんでいた。
そんなに慌てなくても、別に怒ったりするつもりはないのだが。
「ど、どうされましたの? わたくし、今日は何もやらかしておりませんわよ?」
「知ってるし、別に責めたいわけじゃない」
「そ、そうですのね? それは良かった? ですわ……」
いや、なんでホッとしたような、残念そうな態度を出すかね。
本当は折檻を受けたいのか?
「魔力測定器の素材の一つに、狼系の獣人の体毛が使われている可能性が高いことが分かった」
「わたくし達の体毛が?」
「ああ。それで試しになんだが……。悪いがクローシェの毛を本当に数ミリでも良いから、切って貰えないかな」
「わ、わたくしのけ、け、毛を……!?」
驚愕したクローシェが、大きな声を上げる。
そして驚くほど早い動きで、バッと股間を押さえだした。
「い、いくら主様のお願いでも、それは困りますわ! わたくしにも恥じらいというものがありますのよ!? そ、それにこの前のお仕置きで剃ってから、ま、まだ生えて」
「違う違う違う! どこの毛を想像しているんだ、どこの毛を! 髪の毛だよ!」
「髪の毛ですの!?」
「そうだよ! 他に何がある! いや、言わなくて良い、言わなくて良いぞ!」
この発情駄犬が!
頭ピンク色すぎるだろ!
クローシェはものすごく髪の毛を長く伸ばしている。
それはとても艷やかで、長年一切手入れを怠っていない。
だから、そんな髪を切ることには、渡としては抵抗があったのだ。
それをまさか、下の毛と間違えるとは……!
「それを早く言ってくださいまし! 枝毛の処理とかで出たのをお渡しすれば良いだけですわ!」
「最初からそう言ってるんだよなあ……!」
恥ずかしそうに叫ぶクローシェに、渡は頭を抱える。
最初の出会いから、思い込みの激しさはまったく変わっていない。
「主……いつも大変だね」
「ご苦労さまです、ご主人様」
「わ、わたしのために、ありがとうございますぅ……」
「いや、いいよ……。これもまたクローシェの一面だから。俺は受け入れるよ」
なんだか同情されてしまって、ガクリと肩を落としてしまう。
はあ……、次の折檻の内容は決まったようなものだな。
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記念すべき400話目がこれで良かったのだろうか。
更新が長らく途絶えていましたが、本当にお待たせしました。
先月に祖父が亡くなり感情が落ち着かず、今月は初めてのお盆ということもあり、色々と忙しくしておりました。
次次回で、第六章が終わります。
どういう締め方にするか、そして次の章はどう進めていくべきか悩んでいましたが、ようやく形になりました。
皆さんマジでびっくりして、ワクワクすると思います。
第67話 魔力計測器の試作品
https://kakuyomu.jp/users/hizen_humitoshi/news/16818792438170282403
第68話 世紀の大発見 第六章完
https://kakuyomu.jp/users/hizen_humitoshi/news/16818792438811492932
といつも通り、二話先まで限定公開です。
あと、近日中にエアのお仕置きイラストも公開予定です。
お楽しみに。
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