第25話 神の思惑

 モーリス教授が椅子に座りなおして、姿勢を正した。

 真剣に話を聞いてくれるつもりになったようだ。


 渡がマリエルやエア、クローシェたちと話し合っても分からなかったことも、モーリスが相手ならば分かるかもしれない。

 今は祠、ゲートのことをほとんど何も分かっていないからこそ、知りたいことは沢山あった。


「まずは、どうして先生と俺とで使えるゲートの数が違うのでしょうか?」

「ふむ。これはもともと神がゲートを創った理由に深く関係している」

「元々は足の遅い種族のために、でしたか」

「ちゃんと覚えているようで何よりだ」


 渡の回答に満足したようにモーリスが頷いた。

 わざわざ忙しい所に時間を割いてもらって教えてもらったことだ。

 ちゃんと覚えていたから良かったが、これで忘れていたら、かなり失礼なことだ。

 間違えないように気をつけないといけない。

 最悪の場合、マリエルたちの回答を頼みにしようと、渡は目配せをした。


 マリエルは軽く頷いてくれたが、エアはどこ吹く風といった様子で、頼りにならない。

 まあ元々こういった話に興味がないのは知っている。


 クローシェに至っては、前回同席していない。

 キョトンとした顔で後ろに控えていた。

 とほほ。頼りにできるのはマリエルだけになりそうだ。


「そのような足の遅い種族は、多くの場所へ行き来できることが多かったようだね。もとは同じ一族が分かれて支族を作り、遠く離れた場所にいて滅多に会うことができない。このようなケースでは、わざわざ他の場所に寄り道をする理由がない」

「お互いの最寄りの地点だけを利用するよう制限がかかっているわけですね?」

「そうだね。元々格差を解消させる慈悲の気持ちから始まったわけだから、足の速いものがより便利に動けるのは神も望むところではなかったんだろう」

「となると、色々な所を利用できる俺は、足が遅い種族だと思われているということでしょうか?」

「それは早合点が過ぎる。短絡的思考は良くないよ。色々な可能性を検討し、妥当性を問うた上で、もっとも答えに近いものを選択することが大切だ」

「すみません」


 モーリスに窘められて頭を下げた。

 たしかに安直な答えだった。

 それにこの理屈だと、渡以外の人間が全員利用できることになってしまう。

 少し考えればすぐに分かることに目が向かなかったのは、答えを一刻も早く知りたかったからだ。

 出来の悪い生徒に答えを導くように、モーリスが助け舟を出した。


「ゲートの利用が許された他の例があったはずだ。この前話したことだよ」

「先生、巡礼者や信徒ですね」

「よく覚えていたね、マリエル君」

「貴重なお話を伺えていたので、印象に残っていました」


 モーリスがマリエルを褒めた。

 くそ、冷静になれば自分も回答できたはずだというのに。

 冷静さを失って恥をかいてしまった。


「自分の信徒をはじめとした、何らかの神々の意思を受けて動く者たちにも、ゲートの利用は許されている。この場合は神々の思惑に沿ったゲートだけが利用できるだろう」

「つまり、神が俺に何かをさせたいと思っているということでしょうか」

「これはただの予想だがね。ワタル君、君は神に何らかの期待を負っているのではないかな」

「俺が、神に期待されてる……?」

「王都のゲートが六つも使えるというのは、なかなか考えられないことだよ」


 突然の展開に思考が追い付かない。

 だが、言われてみれば納得できる点もなくはない。

 ずっと不思議だったのだ。

 特に頭脳にも肉体にも優れているわけではない自分が、なぜこんな特別な境遇を得ているのか。

 大金を得て、マリエルたちのような魅力的な女性と出会うことができた。

 ウェルカム商会をはじめ、信頼できる人との付き合いも増えた。


 たまたま運が良いですませて良いのか。

 偶然ですませられることなのか。

 身に余る幸運に、かえって不安を感じる日もあったのだ。


 あまりにも自分の今が幸せ過ぎて、むしろ何かがあった方が自然ではないか、と考えていた。

 だが、神にも何らかの思惑があるというのならば、納得できる。


「では、先生は俺が何らかの使命を帯びていると考えているわけですね?」

「そう考えると自然な状況ではある、というだけだ。何度も言うが、短絡的に答えと結びつけるのは良くない」

「すみません。でも自分事なのですごく気になるんです。他にも考えられることってありますか?」

「たとえば君の先祖が神々に祝福されていて、それを継承しているだけの可能性もある」

「俺の先祖が……?」


 たしかに祖父母は神仏やお地蔵さんを大切にする、信心深い人たちだが、かといって何らかの神がかった体験をしたという話は聞いたことがない。

 ごくごく普通の人生を送ってきた。

 そしてこれから先も、たぶん何事もなく生きていくだろう。

 渡にとっては愛すべき大切な人だ。

 だが神々から寵愛を受けているかと言われれば疑問が残る。


 両親のことは、考えたくもない。とても神から祝福を受けるような人物ではないことはたしかだ。


「あまり考えがたいですね」

「となると、使命を帯びている可能性が少し高くなったね」

「神は俺に何を望んでいるんでしょうか?」


 渡は強い興味と不安を感じながら、モーリスに問うた。


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150万PVを突破してました!

ありがとうございます。

ちなみに100話以上になってますが、皆さんが一番好きな話はどこですか?

今後の話づくりの参考に意見を聞かせてください。

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