第14話 首都ライブは終了しました。
「きっとあの紳士ね……」
怒濤のライブが終わり、私はベッドでくつろぎながら、ラインハルトの持ってきた新聞記事をじっくりと眺めていた。彼はきっと評論家だったのだ。
「ありがたやぁ。
私はその新聞記事を抱きしめるようにして、眠りについた。
それから私たちは大忙し。評判が評判を呼び、劇場には人が押しかけた。初めはライブ中はいつもみたいに騒いでいたのだけど、臨時で人を雇っても手が回らないので、私も手伝いに回るくらい。
「きゃーっ、険しい! 険しい!」
これは嬉しい悲鳴! 絶対に余るってくらい物販も多めに持って来たのに、最終日には早々にグッズが枯れてしまった。
「――これで、私たちの初首都ライブは終了です。よかったら、モンブロアの定期ライブにも来て下さいね! それではまた会いましょう。ありがとうございました~~~~!!」
「わぁああああああ!」
大熱狂の中で、『めろでぃたいむ』首都ライブは無事に終了した。
「はい撤収~。来た時よりも美しく~!」
「はい!!」
ああ、いつかのライブ後が嘘みたい。私は言いようのない達成感を胸に抱きながら、会場のゴミ拾いをしていた。
「あのー……」
「何? どうしたの、スージー」
「リリアンナ様にお客様です」
「私に? 客?」
誰だろう。ここに私がいるということは公にしてないはず。それに変装しているし。
私は誰かが待っているという、劇場のロビーに向かった。
「……久しぶりだな」
「ええっ!?」
そこで私が目にしたのは、まさかの人物だった。
「ロイド王子……」
「まさか、首都に戻っているとはな。『療養』はどうしたんだ、リリアンナ」
「一時的によ。それにしてもどうしてあなたがここに……」
どの面下げて、という言葉をなんとか飲み込んで、私はロイド王子を見つめた。生まれつきの銀髪によく似合う、白地に銀糸の刺繍のスーツ。筋の通った鼻梁に、赤い唇。
黙っていればヴィジュアル系も真っ青のイケメンなんだけど。黙っていれば。でも、黙ってないのよね。知ってるわ。
「婚約破棄をしたくせにこんなことをしているとは」
「そっちが言い出したのでは!?」
「モンブロアで女の子を追いかけ回してこんなことをさせて……」
「なんでそこから知ってるのよ」
私がびっくりしていると、ロイド王子はふっと皮肉な笑みを浮かべ、前髪を後ろになでつけた。
「そんなことは私の手に掛かれば造作もないことだ」
「えーっと、それって……」
見張っていたってこと? ええ?
私が戸惑った顔でじっとロイド王子を見つめ返すと、彼は大きく咳払いをした。
「……で、いつ帰ってくるのだ」
「は?」
「だから、首都にはいつ帰ってくるのかと聞いている」
「そうですね……」
『めろでぃたいむ』が軌道に乗って、私と王子の婚約のことが風化して……と考えると、三から四年くらいかしら。でも、念のため多めに見積もって……。
「五年後かしら」
「馬鹿かお前は!」
「馬鹿ってなんですか!」
「そんな五年も田舎でくすぶっているより、先にやることがあるだろう、他に!」
他に……なんだろう。ちょっと考えてみたけど思い浮かばないわ。あ、そうか。
「『めろでぃたいむ』の妹グループを作らなくっちゃ……!」
「そうじゃないだろ、まず私との婚約を結び直すのが先だろう」
「え、嫌です。私、今は理想のメンバーとアイドル事業をするっていう使命を負っているんです。とっても楽しいし、まだこれからってところで婚約なんてする訳ないじゃないですか」
なんだ、ロイド王子は以前の言葉を撤回しに来たのか。でも、嫌。王妃になってMIX打てなくなるくらいなら、私は一生田舎にいた方が良い。
とっとと帰れってどう丁寧に言ったらいいのかしら、と私が考え込んでいると、劇場からロビーに続く扉が開いた。
「あら、ラインハルト」
「リリアンナ、そろそろ完全撤収だ」
ラインハルトはそう言いながら、ロイド王子を睨み付けている。
「殿下、我々は用がありますので」
「リリアンナ、まだこんなのとつるんでいたのか」
「ロイド王子、ラインハルトは私のパートナーなんです。侮辱しないでください!」
もういい加減にして欲しい、と私がはっきりもの申すと、ロイド王子の目が大きく見開かれた。
「パ……パートナー……!? 嘘だろう」
「いいえ、嘘ではありません」
「……今の言葉後悔するなよ」
「はい、後悔しません」
じっと私たちは見つめ合った。見えない火花が間にバチバチと音を立てているかのようだ。
そんなにらみ合う私たちを制するように、ラインハルトが間に入った。
「とにかく、もうここは出なくてはならないので後日にしていただけませんか」
「くっ、今日はここまでにしてやる。またな!」
王子はそう言い捨てると、ロビーから出て行った。もう、何しに来たのかしら。
「大丈夫? ラインハルト」
私はラインハルトが気を悪くしてないかと声をかけると、彼は笑顔を返してきた。
「大丈夫だよ」
「そう、なら……よかったわ」
「むしろ好都合だ」
「何か言った?」
「いいや。それよりほら、撤収撤収!」
そうだ急がなきゃ。私たちは慌てて劇場を後にした。
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