Chapter42. 東京に降り注ぐ「火」

 ザ・ロンゲスト・デイによる襲撃、そして天崎との邂逅かいこう


 だが、それらはJKをはじめ、仲間や警察関係者の活躍によって、未然に防がれ、実際、首相の千本木真琴も傷一つなく無事だった。


 警察関係者は、散り散りに逃げたTLDのメンバーを追い、何人かは逮捕されていたが、天崎は行方をくらましていた。


 ひとまず、この状況が解決したことで、蠣崎はメンバーを集め、労をねぎらっていたが。


 その時だ。


「大変です!」

 駆け込んできたのは、メンバーの中で唯一、警察と会話をしていて、集合が遅れていた小山田だった。


「何だ?」

 聞くと、彼女の顔が青ざめている。間違いなく何かが起こった証拠だ。


「テロです」

「テロ?」


「はい。それも同時多発テロ事件です」

「まさか」


「はい。都内の渋谷、新宿、池袋で同時に火の手が上がり、ビルが爆破され、多数の死傷者が出ています。さらに、市民のSNSから戦車と戦闘ヘリが出動しているという情報も得られています」


 恐れていたことが起こっていた。

 蠣崎は、すぐに気づいた。


「つまり、これは陽動だったと?」

 小山田が短く「はい」と答える。つまり、TLDと天崎による、この場での首相襲撃事件。それ自体が、ただの陽動で、敵の作戦の本筋は、こっちのテロ行為にあったのだ。


 まさにかつて、TLDが首相に出した、


「終戦100年記念式典の開催を中止しろ。さもなくば、東京に『火』が降り注ぐだろう」


 という脅迫状が現実の物となっていた。


 100年間、平和だった日本が戦火に包まれていた。それも確証はないが、恐らく犯人は同じ日本人の天崎だ。


 その後の展開は、速かった。


 首相官邸がすぐに記者会見を開き、皇居前広場から駆けつけた、千本木真琴首相自らが、


「治安出動を発動します」


 と、宣言していた。


 治安出動。それは日本において一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合に、内閣総理大臣の命令または都道府県知事の要請により行われる自衛隊の行動を指す。内閣総理大臣の命令による出動は自衛隊法78条に、都道府県知事の要請による出動は同法81条に基づく。


 その上に、「防衛出動」と言う最高の武力行使権限があるが、他国からの侵略ではないと判断されたため、今回は「治安出動」になったようだ。


 だが、もちろん、これが発動されたのは、終戦後に自衛隊が創設されてから初の出来事だった。


 何しろ、「武器の使用」を認めたのだから、異例中の異例だ。


 さすがに危機意識の高い、千本木首相の行動の速さだが、実際にそれほどの出来事が起こっていた。


 蠣崎たちカムイガーディアンズのメンバーは、皇居前広場から一番近い、渋谷に向かうことになり、警察関係者たちとは別に、彼らの車で移動した。


 その途中、あちこちから警察、消防、救急のサイレンが鳴り響き、悲鳴が上がっており、目指す渋谷方面からは黒煙が立ち昇っていた。


「まさに戦争か」

 かつて平和を謳歌していた、この日本という国と同じとは思えないほどの、テロ行為による戦禍の拡大。


 蠣崎は愕然として、ハンドルを握りながら声を上げていた。


「TLDのしわざですね。許せません」

 正義感に燃える、小山田の横顔は、まさに警察官たるそれだったが、その横顔を横目で見ながら、蠣崎は助手席に座った彼女に声をかける。


「で、お前さんはやっぱり教えてくれないのか?」

「何をですか?」


「決まってる。天崎を追う理由と、そこに俺の左腕が関わってるという話だ」

 ずっと気になっていたことを、蠣崎は追及するように口に出すが、小山田は煮え切らない態度で、表情を曇らせていた。


「それは……。天崎を捕まえた時にお伝えします」

「相変わらずお堅いことで」


「……」

 無言のまま、何かを熟考している小山田に対し、後部座席にいたシャンユエが、覗き込んできて、


「だから警察は嫌いなんですよ」

 と言い、


「あ、私もー」

 同調するようにJKが反応していた。


 残りの3人は無言のまま、遠くの黒煙や、行き交う緊急車両を見つめていた。


 そして、渋谷に着くと。


 凄惨な光景が広がっていた。


 かつて、1日に50万人が行き交い、1度の青信号で3000人もの人が行き交うと言われて繁栄と平和を誇った、渋谷スクランブル交差点。


 そこには、一般人の姿がなく、代わりにマシンガンを持ち、見たこともない、黒い迷彩服の男たちが約30人ほどいて、辺りを睥睨していた。


 そして、渋谷の象徴とも言える、駅前の大きなビルが、燃えていた。


 自衛隊の連中は、まだ到着しておらず、辺りは不気味な静けさを保っていたが。


 もちろん、そんなところに車で乗り付けた彼らは、銃撃されていた。


 だが、蠣崎は防弾ガラスに守られた車内で、冷静に口を開いていた。

「敵の人数は、1個小隊といったところか。お前ら、対処できるか?」


 その問いに、怯える者も、否定的な見解を述べる者も、その場には一人もいなかった。


「ラジャー」

「問題ありません」

無問題モーマンタイです」

「任せてー」

「Yes. I can」


 バンダリが、小山田が、シャンユエが、JKが、エスコバーが、それぞれ自信満々に回答をする。


 そして、ついに戦闘が開始された。


 防弾ガラスに守られた車内から飛び出した6人が反撃体勢に移る。


 白昼堂々、渋谷スクランブル交差点で苛烈な戦闘が始まった。

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