お返し
星埜銀杏
#01 僕と彼
…――僕は、お返しをしなくてならない。絶対に。
だからタイムマシンを完成させた。
あとは過去へと戻るだけだ。繰り返しになってしまうが、お返しをする為に……。
一体、何故、タイムマシンなのか?
……詳しくを語るには話を過去に戻す必要がある。
今から3年と少し前へと。僕は、ある研究者と共同でタイムマシンを作る事になった。ただし、共同研究者は、名ばかりで、お金を出資してくれるだけの男だった。つまり、お金は出すが、研究の一切合切は僕任せという人間だったワケだ。
いや、逆に、そういった共同研究者であったからこそ、僕は、自由に研究できた。
僕は僕のペースで研究を進める事ができたワケだ。
むしろ、
お金を出してくれて、一切、口を挟まない彼には感謝していた。もちろん、研究に必要な、お金は、どんな大きな金額だろうと、ぽんと出してくれた。完成までの期限も決めず、とにかく頑張れと励ましてもくれた。そんな人間は、めったにいない。
その意味でも感謝していた。だから彼の心意気に応えたいと僕は必死で頑張った。
ただ、そんな僕らの関係で一つだけ不満が在った。
それは、
彼が、タイムマシンは、お金になる、と考えていた事だった。
実は彼がお金を出してくれる時は、出資と、いつも念を押していた。もちろん彼が出資という言葉を使った以上、タイムマシンが完成した暁、研究開発した僕と彼とで利権は折半する予定でいた。ただし、利権を折半にしようと提案した時……、
彼の冷たい目が、とても印象的だった。恐いとさえも思えた。
ゾクッとした。背筋が凍った。初めて感じる何かに心が抉られたような気がした。
彼は、単にタイムマシンが完成したあとに利権が欲しいだけのような感じもした。
「まあ、カネになるならば文句は言わないでおこう」
とまで言われてしまった。
対して、
僕は単純に時間旅行の可能性と科学の発展を考えていた。そして、お金の話は苦手だった。だからこその折半の話だったのだが、どうやら彼には、それが気に入らなかったようだ。ただ、その場では、お互いが納得して折半という話で落ち着いた。
まあ、あれも、と今になって思う。
だからと言っては、おかしいが、僕は、お返しがしたいのだ。
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