最終話 お前が環奈を殺したんだぞ!?
「……クソッ。いい家に住んでやがる」
「菅野さん、ですね? 今回はどのようなご用件で?」
リビングで環奈の父親は問題の男と向かい合う。彼の態度には申し訳ないとか悪いことをした、という雰囲気は一切感じ取れない。
「すっとぼけるな。娘の環奈を殺しておいてどうしてそんな態度をとれるんだ!? 娘を殺したことに対して最低限の謝罪をしろ!」
環奈の父親が殺意をも思わせる怒りをぶつけるが相手は「ひょうひょうとした態度」で受け流す。
「環奈? ああ、あの環奈さんですね。環奈さんの
ですが100%の確率で防げるとまではさすがに言い切れません。ほんのごくわずかな確率ですが、防げないことはあります。環奈さんのケースはそれです」
「ふざけるな! お前が環奈を殺したようなものなんだぞ!? 何が学術論文にも載っているだ!? あんなの完璧なインチキなんだろ! 証拠だってある!」
菅野は詐欺師にセミナーで紹介した論文がデタラメの
「あー、これは政府の息がかかった者たちによる妨害工作ですね。よくあるんですよこういう根拠のない誹謗中傷って。本当に迷惑しているんですよ。
私たちは政府の陰謀を暴いて世のため人のために正しい方向に導いているっていうのに……」
悪びれる様子もなく、詐欺師は被害者の父親に対してそれが当然のことだ。と言わんばかりの態度でたしなめる。そこには自分は悪いことをしているという様子は一切ない。
「なにを言ってるんだお前! 自分にとって都合の悪いことは全部
「落ち着いてください。私だって環奈さんを助けたかったんです。ですがどうしても救えない人というのは一定数出てしまいます。
我々の提唱する高カテキンとイベルメクチンによる予防でもそうです。それは仕方のないことなんです。どうしても救えないことに私も心を痛めているんですよ」
「人が死んでるんだぞ!? 俺の娘が死んでるんだぞ!? 人を殺しておいてなんだその言い方は!? ふざけるのもいい加減にしろ! じゃあこれは何だ!?」
環奈の父親は探偵事務所から渡されたデータを自前のボイスレコーダーで再生する。探偵から聞かされたあのインチキだらけのセミナーが再生された。
「こうやって日夜嘘をばらまき続けて何でそこまで平然としていられるんだ!?」
「確かに私は「イベルメクチンと高カテキン緑茶でコロナを『ほぼ』防げる」と言いました。ですがあくまで「ほぼ」防げると言ったんです。
100%確実に防げる、と言ったら詐欺になりますが「ほぼ」100%といったので完全に防ぎきることはできないのです。その点はご理解いただけるでしょうか?」
こんなの慣れてるよ。と言いたいのかあらかじめ受け答えを用意して暗記しているかのようにすらすらと酷い言葉が男の口から出る。
そんな彼に対し環奈の父親は「奥の手」を出す。
「……お前、ワクチン接種を受けてるんだろ? それも3回目を、だ。証拠だってあるぞ」
そう言ってその証拠である画像が印刷された資料をテーブルにぶちまける。
さすがにこれは想定してなかったのかペテン師の顔面から血の気がさぁっと引く。少し黙った後……。
「……いくら欲しい? 言い値で良い」
「そう言うってことは、認めるんだな?」
「そう思われてもかまわない。で、いくらでいいんだ? カネならいくらでもある」
「カネの問題じゃない! 罪を償え! 環奈を殺したのを誠意をもって謝罪しろと言ってるんだ!」
「人様が
「よくもそん口がきけるな! 人が下手に出てればだと!? もういい!」
環奈の父親は立ち上がり、帰っていった。
「おい! 待て!」
詐欺師は環奈の父親の腕をつかんで止めようとするが……
「うるさい! 離せ!」
彼はその手を振りほどいて帰っていった。
電車に乗って帰る途中、彼はポケットに忍ばせていた「録音用の」ボイスレコーダーを取り出し、撮れていたか確認する。
『「……お前、ワクチン接種を受けてるんだろ? それも3回目を、だ。証拠だってあるぞ」
「……いくら欲しい? 言い値で良い」
「そう言うってことは、認めるんだな?」
「そう思われてもかまわない。で、いくらでいいんだ? カネならいくらでもある」
「カネの問題じゃない! 罪を償え! 環奈を殺したのを誠意をもって謝罪しろと言ってるんだ!」』
バッチリだ。
後日、菅野の訴えにより警察が動き、反ワクチンセミナー主催者をはじめとした関係者4名が逮捕された。
調べに対し終始「政府にハメられた」と容疑を否認しているという。
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