神父と拳闘士③

♢♦♢


~ローロマロ王国~


 グリム達がジニ王国でローゼン神父とカルと出会う3日前――。


「中には入れないのか?」

「いやはや、それはかなり厳しいですな。何せ邪神イヴの魔力感知は精度と範囲が異常ですよ。今は私の魔法で全てを遮断をする異空間に身を隠していますが、これ以上近づくと確実にバレてしまうでしょうな」


 ローゼン神父とカルの2人は、あれから荒地を後にしたグリム達を追っていた。勿論気付かれない様に。


 ローゼン神父の上級魔法で特殊な異空間に身を隠してグリム達を追っている2人であったが、イヴの驚異的な魔力感知を前に流石のローゼン神父もこれ以上は踏み込めないと察知していたのだった。それに加えてここはローロマロ王国の国王がいる城。親衛隊の警備が厳重の為、下手に動くのは得策ではなかった。


 仕方がないと状況を呑み込んだ2人は、それからグリム達がウェスパシア様と話し終えて城に出て来るまで、静かに身を潜めて待っていたのだった。


 そして……。


「来たか――」


 グリム達を待つ事1時間弱。

 再び姿を現したグリム達は城を出るなり、そのままの足でローロマロ王国を後にして行く。そんなグリム達を見たローゼン神父とカルは直ぐに彼らを追い、邪神の目的を探るべく後を付けた。


「多分あの城にいたのはこの国の国王だろ? こうなってくるとやはり国絡みで邪神と繋がりがあるのか」

「分かりませんがその線は一気に濃厚になってきましたね。邪神の力ならば国1つぐらい洗脳するのは容易いでしょうからな」


 グリム達の動きにより一層不信感を抱くローゼン神父とカル。


 しかし、ローロマロ王国を出た後のグリム達の行動に、2人は思いがけない戸惑いを受けるのだった――。


**


~ジニ王国の直ぐ側・道中~


「ハァ……ハァ……! なぁ、また特訓が厳しくなっていないか?」

「グリムもフーリンもほぼエネルギーの流れを会得したわね。後は呼吸をするぐらい自然に扱えれば完璧よ」

「正直グリム君達には驚かされている。こうも早く“気”のコントロールを会得するとはね」

「ヘラクレスさんのお陰ですよ。まだ安定はしていないけどかなり手応えは感じてます。ありがとうございます」

「こら! だから何度も言わせるんじゃないよ! 口より手! 体を動かしな馬鹿者──」


 グリム達がローロマロ王国を出発してからというもの、ローゼン神父とカルは己が抱いていたイメージとはかけ離れた邪神達の行動に戸惑いを隠せずにいた。


「今日でもう“3日目”か」

「いやはや、邪神と言うのは考えがまるで読めませんな」


 グリム達を尾行する事早3日。

 ローゼン神父とカルはグリム達の行動にいまいち確信が掴めず戸惑いが生じている。


「その前に、そもそもアイツら何処に向かっているんだ? 邪神が何かあの子らに特訓しているのは分かるが、確実に移動もしてるな」

「確か直ぐそこにジニ王国とか言う国がありましたな。もしかするとそこが次の行き先かもしれませんよ」

「ジニ王国……あそこは魔人族の国だったな。何故そんなところに」

「相手は邪神、もしや魔人族まで洗脳して仲間にしているのかもしれませんよカルさん」

「成程な。でも昨日魔人族っぽいのが奴らに襲い掛かっていなかったか?」

「そう言われてみればそうですな。アレは何だったのでしょう。ホッホッホッ」


 笑いながらそう口にしたローゼン神父。カルもグリム達が魔人族と繋がっている可能性があると確かに思ったが、そんな彼には同時に“ある光景”がフラッシュバックしていた――。


**


<“終焉を退けるのは私達七聖天ではありません……。この終焉の手から世界を救うのは……他でもない、彼らなのです――”>


**


 カルの脳裏にフラッシュバックした何時しかの光景。

 それは鉄格子の奥で鎖に繋がれていたユリマ・サーゲノムの姿であった。


 彼女は事もあろうか邪神の陰謀を担いでいた王国の反逆者として罪人扱いされ、デバレージョ町を訪れたヴィル達によって身柄を拘束された。カルがユリマを見た時には既に彼女は城の1番厳重な地下牢に閉じ込めらた後。傷だらけで魔力もほぼ感じない。抵抗する気力も体力も残っていなければ、意識すら朦朧としている様子だった。


 国王は見せしめと言わんばかりに他の七聖天や団長達に捉えたユリマの姿を晒し、引き続きグリム達を仕留めるよう鼓舞をした。国王の言葉に反応した多くの団長達は士気が高まり勢いよく声を上げると、一瞬にして場が湧くのだった。


 しかし場が湧くその中で、僅かに意識を取り戻したユリマ・サーゲノムが静かにそう呟いた。


 檻の直ぐ近くにいた国王とカルを含めた七聖天達は確かにユリマの言葉が聞こえていたが、誰も彼女の言葉の真意を知る者などいなかった。


 ただ1人、国王を除いて――。


 この時はカルも当然ユリマの言葉など真剣に捉えていなかった。それはヴィルや他の七聖天も然り。彼女が捕まってから早くも数日が経過し、誰もがその瞬間の出来事などとうに忘れ去っていた。それ程までにユリマの一言を誰も気に止めていなかったのだ。


 だが、ここにきて何故かカルはその時の事を鮮明に思い出していた。


(終焉の手から世界を救う……。アイツらが……?)


 そんな事は有り得ない。真っ先にそう思ったカルであったが、この時から彼の中では何かが引っ掛かってしまった――。


「なぁローゼン神父、アンタこの間ユリマが言っていた事覚えているか?」

「ユリマさんが……? はて、何の事でしょう」

「そうか。ならいい。それより奴らを追うのももう止めにしよう。行動もまるで理解不能だ。後は奴らを仕留めて直接吐かせる他ない」

「ホッホッホッ、そうですな。早く邪神を仕留めて国王から褒美を貰わねば。いやはや私は余生が楽しみになってきましたよカルさん。

邪神達を確実に仕留めるとなればやはりタイミングが重要です。本当に奴らがジニ王国に向かっているとするならば、魔人族まで味方にされては相当厳しい戦況になりますよ」

「ああ。一先ず奴らがこのままジニ王国とやらに行くまでは待とう。もし王国を通り過ぎるのならそこで始末。魔人族と接触しようものならその瞬間始末だ。

ローゼン神父の言う通り、邪神2体とあのヘラクレスとかいう奴を同時に相手するのはそこそこ難しいだろう。そこに更に魔人族まで加わったらかなり不利だ」


 遂にグリム達を仕留める算段を練ったローゼン神父とカルは、来るべきタイミングが訪れるまで再び身を潜めるのだった。


(国王は邪神が全ての元凶だと言っていた……。だが実際目の当たりにした奴らの行動は不可解。

俺のこの妙な胸騒ぎも払拭する為にも、最後は直接奴らに真意を問う他ないだろう――)

 

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