第3話 預り所のシステムってどうなってんの?
3人は預かり所の扉を開けて中に入った。そこは通路になっていて、どうも男性用と女性用に分かれているようだ。なんというか、スーパー銭湯か温泉のような造りになってる。
壁面に何となくそれっぽい表示があるので、多分あっちが男性用でそっちが女性様だろうということで二手に分かれて、着替え所に向かった。
着替え室の中はまさしくスーパー銭湯か温泉の脱衣所だ。何となく見慣れた風景に少し緊張が和らぐ。鍵付きのロッカーが沢山並んでいるので、好きなところを使っていいみたい。シンヤとトオルはそれぞれに適当なロッカーを使って着替えを開始した。
渡された冒険者セットの中身は、布製の上下と腕輪が一つ、あとは腰に装着するポーチが一つ入っていた。布製の上下だが、何というか探検服のようなデザインで格好よくはないが別にみすぼらしいというわけでもない。結構しっかりした厚手の生地で丁寧に作られている。色はベージュに近いかな。
ふたりはそれに着替えると、荷物と普段着をロッカーにしまって、鍵をかける。この鍵はどうすればいいのだろう? 多分説明されるのだろうということで持って出ることにした。
周辺のロッカーを見てみると、いくつか鍵のかかっているものが見受けられるので、自分たちと同じようにこの世界に来ている人もいるのだろうと、仲間の存在に勇気づけられる。
そうそう、腕輪だったな。と、二人で確認しこれを装着して、部屋を出る。
しばらく通路で待ってると、反対の通路奥からサラの姿が現れた。サラの服装もほとんど、いや、全く同じものだった。
3人は腕輪の装着と鍵を持っていることを再度確認しあって、席に戻ることにした。
――――――――
3人が預り所から出てくるのを確認したエルフ族の店員フィーリャが3人に向かって声をかけた。
「あ~、お客さ~ん、着替え終わったね? じゃあ、説明始めるよ~」
その声に促され3人はそそくさと席に戻ると、何となく居住まいを正してフィーリャの準備ができるのを待つ。
「はい、では改めまして、私は「バウガルドの冒険者酒場」店員のフィーリャと申します。エルフ族の243歳、ぴちぴちのギャルです。よろしく~」
フィーリャは片目をパチリとやって、小首をかしげ、少し舌を出す。
反応に困った3人を尻目に、フィーリャは推し進めてゆく。
「で~は~、バウガルド旅行についての“インスト”をはじめるわよ? あ、その前に預り所のロッカーの鍵は預かっておきますね――はい、ではお預かりいたしました。では始めますね?」
「「「よ、よろしくお願いしま~す」」」
“インスト”というのはボドゲカフェでよく使われる言葉で、もとは“インストール”という言葉から来ているらしい、ということを3人は後で知った。
要は、「読み込む」ということを意味しているらしく、ボードゲームを始める前に遊び方を知るために説明書を「読み込む」というところからきているらしい。ほんとかどうかはよくわからない。
「はい、ではまず第一に、何といってもその腕輪。これは、あちらの人がバウガルドに来た時に必ず渡されるマジックアイテムです。あちらというのはあなたたちの世界のことね。で、ぜ――ったい失くさないでくださいね。帰れなくなっちゃいますからね。まあ、冒険の途中で例えば腕を切り落とされちゃって、腕輪失くした~ってなっても、あきらめちゃだめですよ? ここまで帰ってくれば、ちゃんと再支給しますからね」
今、腕切り落とされて、とか言いました?
「次に腕輪の使い方で~す。これは超簡単です! 腕輪を装着している状態で、あちらへ連れて帰って! と叫ぶだけです。 簡単でしょ? あ、今言っちゃだめですよ? あっちへ戻っちゃいますからね? いいですか? 一回練習してみましょうか? ではいったん腕輪を外して――、はい、せ~の!」
「「「あちらへ連れて帰って!」」」
「大丈夫ですね? もう覚えましたね? あちらへつれてかえって、ですからね。じゃあ、腕輪をつけましょうか」
3人はそそくさと腕輪をつけなおす。
「はい、次は~。あちらの世界とこちらの世界の時間差のことです。私はあちらの世界に行ったことがないのですが、聞くところによると、時間の流れる速さが違うらしいです。その差約10倍という事です。どういうことかというと~、こちらの10分はあちらの1分、こちらの10日はあちらの1日ということになりますね。なので私フィーリャは243歳ですが、あなたたちの世界で言うと24歳ってことになるわけですね。ほらギャルでしょ?」
いやいやいや、ならねーだろ? と突っ込みたくなったシンヤはぐっと抑える。隣のトオルからの無言の圧力があったからだ。
「は~い、次に~。こちらの滞在時間には時間制限があります。ログイン――こちらの世界に入ることね――してからこちらの時間で48時間となります。ちょうど48時間きっかりに、あちらの世界へ強制送還されますのでご注意ください。これはいわゆる安全装置ですね。この際、腕輪がなくても強制送還されますので、安心ですね」
なるほど、一応、安全配慮はされてはいるわけだ……。
「あと――」
フィーリャさんの説明はもう少し続きそうだ。
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