第46話 勇者ゼクトのやり直し⑪ 芋掘り



勇者とは一体どんな者の事を言うのでしょうか?


前は凄く悩んでいました。


出世欲が強く、女癖が悪そうな顔だけが良いだけの人間。


そんな人間が勇者なんて、女神は何を考えているのでしょうか?


本当にそう思っていました。


『俗物』その言葉が良く似合います。


以前、あった大司教は『勇者とは世界を救う人物』なのです。


そう言われていましたが『この様な人間に世界など救えるのですか?』


そこ迄思えてしまう俗物。


幼馴染三人と陰でイチャついている様子も何回か見ました。


有能な幼馴染を自分の我儘で追い出した無能。


それが私の知るゼクトという人物でした。


婚約者候補だから何回かお茶をしましたが、話も面白くない、ただただ自己の自慢しかしない人物。


それが、何故此処迄変わったのでしょうか?


今のゼクト…いえゼクト様は見ていて凄く心地よく、戦わないのに『勇者』に見えます。


◆◆◆


「それじゃ行くぞ、うりゃぁぁぁぁぁー――」


「うりゃぁ…」


「あのゼクト様、今日は何を?」


「何をって、芋掘りだが? さぁマリンもやってみようぜ!うりゃぁぁぁー-ってな」


今日の俺達は芋掘りに来ている。


流石にルナやマリンじゃ、冒険者の仕事の狩りは出来無い。


だったら冒険者のもう一つの側面『何でも屋』に近い仕事をして手伝って貰おう、そう考えたんだ。


俺はこれでも村で暮らしていたから畑仕事は一応は出来る。


芋掘りなら、ルナやマリンも出来るし、楽しみながらやれそうだから、これを受けた。


最も、二人は真面に出来ないだろうから、事前に『1人分』の報酬しか要らないという話をギルドを通してしてある。


まぁそれなら文句は出ないだろう。


「うりゃ…」


「うらやぁぁぁぁー-っ、こうですか?」


別に掛け声まで真似なくても良いが、まぁ子供時代の俺位には出来るな。


別に監視も居ないし、かご12個分で銅貨7枚(7000円位)の仕事だ。


俺が頑張って二人には仕事に慣れて貰い、仕事を楽しんで貰えれば良いだろう。


「なかなか二人とも筋が良いじゃねーか」


「お芋掘り…楽しいから」


「こういう体験は初めてです、ですが何故ゼクト様は、雑用をされるのですか?」


元は農夫の息子だからな。


「勇者なんて言っても、元は農夫の息子だぜ!貴族でも何でも無い。だから体を動かすのはそんなに嫌いじゃない! 親友のおかげで勇者を辞めることが出来た。勇者を辞めたなら他に出来ることをしたい。それだけだな!」


「それなら、騎士などになる。そう言う事は考えなかったのですか?」


俺が騎士?


無理だな。


「俺は一人で城位簡単に落とせるんだぜ、そんな奴が傍に居たら、王様も宰相も貴族も気を使って大変だろう? ネズミの中に1匹だけ狼が居る、幾らこちらが手を出さなくても内心はきっと怖いと思う筈だ」


俺がマモンを恐れた様に、一般人から見たら俺もマモンも同じだ。


「確かにそうかも知れませんね」


「ルナは怖くない…」


この二人は凄いのかどうか解らないが、俺を普通の人間と変わらず接してくる。


この距離感が気持ち良い。


「ルナありがとうな!王族のマリンがそう思うんだから間違いじゃない筈だ…今の俺はもう勇者じゃない! 戦いの中に生きる必要が無いなら『普通に生きる』それも良い気がする…どうだ?」


「そうなのでしょうか?」


「普通…解らない」


「今の俺は自由だ、自由と遊び惚けるは違う…と俺は思うんだ。ルナは勿論の事、マリンも王女じゃ無いから『好きに生きて良いんだ』」


「自由ですか?」


「ああっ、なりたければパン屋の店員にもお針子だってなれるんだ、まぁ、なる必要は無いが『なる事も出来る』選択肢がある事は結構良い事だぜ」


「あの私は貴方の妻です」


「ルナも…」


「マリンもルナも一緒に生活をしているからそれも、勿論有りだ。だがマリンもルナもまだ永く一緒に居るわけじゃ無い、本当に『好き』その気持ちが固まった時に本当の意味で『妻』になってくれれば良い、例え妻でなくてももう家族だとは思っているから『守る』そういう気持ちは変わらない」


「ゼクト様…」


「ゼクト」


これで良い筈だ。


多分俺は恋や愛という事に疎い。


だが、短期間で築けるものじゃないのは解る。


セレスとの絆も時間を掛けて出来たものだ。


セレスは俺があんな事をしたのに最後まで味方だった。


ちゃんとした絆が出来るにはまだ時間が短か過ぎる。


「とりあえず、手を動かそうぜ」


「そうですね」


「…うん」


今はただ、この心地よい時間を一緒に過ごせるだけで俺は幸せだ。













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