第44話 勇者ゼクトのやり直し⑩ マリンと



「これは!凄く美味しいわ!」


「ハンバーグは正義…本当に美味い…」


ルナは兎も角マリンは王女だろう?


もっと美味しい物を食べている筈だ。


「マリンは王女だったんだから、もっと美味しい物食べていたんじゃないのか?」


「確かに美味しい物なら食べていましたが、これは初めてです」


そう言えば、この料理はセレスが教えてくれた物だ。


セレスの昔の記憶から考え作った物だから、オリジナルだ。


他には無い物だ。


だが…本物はもっと美味しい。


セレスが作るハンバーグは沢山の繋ぎを入れてとってもジューシーだ。


俺が作ったのはただ肉をひき肉にして固めて焼いて簡単な調味料とバターで焼いただけの物。


クソッ…こんな事ならちゃんと料理を教わるべきだったな。


まぁ、出来ない物は仕方が無い。


出来る範囲でやるしかないな。


「飯食い終わったら、ルナは洗濯物を袋に入れてドアの前に置いておけよ」


「大丈夫…解っている」


『ルナは決まった事をする事』それは問題なく出来る。


だが、応用は全く出来ない。


自分で考える事が全く出来ない…これはどうして良いか解らない。


ルナの個性…そう割り切って良いか、考えないとな。


「ゼクト様、私にも何か仕事をくれませんか?」


「そうだな、それじゃ、今日は良いからこれから先『掃除』を覚えてくれ」


「掃除ですか? 解りました」


とはいえ、元王女だ、そう簡単に家事を覚えるのは難しいだろうな。


◆◆◆


「ルナ、マリン、行くぞ」


「はい…」


「行くって何処に行くのですか?」


「飯も食ったし、これから何時もの日課の炊き出しと治療だ」


「炊き出しと治療…お仕事」


「お仕事って、それがですか?」


「ああっ魔族とは停戦、冒険者をしても狩るべき獲物は居ないしな、お陰様でお金には困って無いからな、まぁ暇つぶしだ」


「そうですか…」


◆◆◆


「さぁ、炊き出しだ並べ並べー-っ」


「炊き出しです…」


「ほら、マリンお前も手伝え」


「えっ、私?」


「もう王女じゃねーんだろう?」


「そうですね」


戦おうにも俺にはもう戦う意味が無い。


魔族や魔物で知性の有る奴は魔国に帰っていき、その辺りに居るのは雑魚、狩っても大したお金にならない。


竜種を狩ると彼奴が現れて制裁されるかも知れねーから狩れない。


もう討伐の仕事は実質終わりだ。


だから、こうして炊き出しと治療を半分趣味でしている。


「おっ勇者様じゃねーか! 今日は別嬪が1人更に加わっているな」


「だ.か.らー-っ俺は勇者じゃねーよ、もう、只のゼクトだっていうの」


「まぁ良いじゃねーか、俺にも一杯くれ」


「ほらよ」


「パンです…」


「マリンもほら、そこの器に盛った奴、器を持っていない人に配ってくれ」


「解りました」


始めは手間取っていたが、もう慣れた。


ちゃんと並ぶし器も相変わらず持ってない奴もいるが毎回配っていたから、持っていない人間は少ない。


かなり早く配り終わる様になった。


その後は何時もの日課で治療しまくった。


勇者では無くてもジョブは勇者、他の人間より体力も魔力もある。


全部の治療が終わるともう夕方になっていた。


「今日も頑張ったから帰り美味しい物を食って帰ろう、ルナもマリンも疲れただろう?」


「…疲れた」


「確かに少し疲れました、ゼクト様は何時もこんな事をしているのですか?」


「いつもじゃねーよ、気が向いたらしているだけだ、甘やかすといけねーからな」


「うん…週に2回か3回」


「あのルナさん、そんなにしているのですか?」


「…そう、おかげで私もゼクトも人気者…」


「他にも何かされたりしているのですか?」


「特には無いな、だが困ったという話を聞いたら、手助けしてやるそれだけだ」


「…この間は下水道に出たスライム倒した…私じゃないゼクトが」


「だな」


さっきから様子が可笑しい…


勇者に憧れていたんだから、こりゃ幻滅されたな。


そうなったら王国迄送ってやれば良いさ。











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