職業【ツリーマスター】がレベチです〜俺だけツリー解放で無双する〜

空色凪

第一章 始まりの町、囚われの姫

1 天職の儀

 俺、坂本祐一は見事に異世界転生した。神とか天使とかとは会わなかったが、気づいたら異世界で生を受けていた。今の名前はハンス・ハイルナー。木こりの父ゲルマン・ハイルナーと美麗な母アンナ・ハイルナーの一人息子だ。


 今のうちからレベル上げようと生まれたての頃は必死だったが、この世界では七歳になると行われる天職の儀にて初めて職業とステータスが授けられるのだ。待望のレベル上げもそれまでは待つしかないので、俺はひたすら毎日剣を振るっていた。


 木こりの家は村からかなり外れたところにある。それ故に、近所との付き合いも殆どなかった。だから、剣の練習相手は専らお父さんだった。


「お、ハンス。また腕を上げたな?」


 ある日の夕刻、俺はお父さんと剣を交わしていた。今はひと勝負後の休憩時間だった。お父さんがへばって尻餅をついていた俺に手を差し出してくる。俺はその手を取りながら応える。


「そうかな。それより、お父さんの膂力には勝てないよ」

「そりゃそうだ! 俺は毎日重い木を切って運んでって鍛えてるからな!」


 父は正直、技術的には拙い。だが、圧倒的な筋肉量が物を言うといった感じだった。


「このへんで終わり! 母さんが旨いメシ作ってるぞ!」

「そうだね、行こう!」


 お父さんの言うとおりに今日の鍛錬はやめにした。家に帰るといつもよりも華やかな食卓が待っていた。それにはある訳があった。


「ハンスちゃん。どう? 美味しそうでしょう?」

「うん! とっても。ありがとう、お母さん」

「いいのよ。さぁ、食べて食べて!」


 俺はお母さんが作ったグラタンやら肉料理やらを平らげ始める。


「本当に、もうすぐで七歳の誕生日だなんて、あっという間ね」

「そうだな、アンナ。もう七年か……」


 俺は七歳の誕生日が迫ってきていた。この七年。特にこれといったイベントこそなかったものの、家族水入らずでこのハイルナー家は幸せにやっていた。それもこれも今日までの話。


「ねぇ、ハンス。どうしても行ってしまうの?」


 俺がご飯を食べ終わるとお母さんが訊いてきた。


「うん。どうしても早く天職の儀を済ませたくてね」

「せっかくだし、誕生日の日までは家にいてもいいんじゃ……」


 お母さんが潤々とした瞳で言う。


「いや、それは嫌だ。ごめんなさい、お母さん」

「ねぇ、あなた。あなたからも何か言ってやってよ」

「アンナ。男というものはな、時に曲げられない物があるのだよ。それに、可愛い子には旅をさせよだ」

「うーん。困ったものねぇ」


 しばらく皆沈黙したが、俺は耐えられずに言う。


「俺、明日早いからもう寝るよ。おやすみ!」


 翌朝、俺は両親に見送られながら家を出た。


「これ持ってけ」


 父がくれたのは新品の短剣だった。いつの間に用意していたのかと俺は嬉しくなった。その短剣はもうじき七歳になる少年にはまだ少し長すぎるが、いずれ使い物になるだろう。


「いつでも帰ってくるのよ!」

「はーい。行ってきまーす!」


 目的地は村長の家だ。村長の娘が一週間ほど前に七歳の誕生日を迎えていて、彼女と一緒に近くの町タンテまで天職の儀を受けに行くことになっていたのだった。


 村の中は外界と村長の結界魔法で区切られているため子どもが歩いても危険はない。道なりを二時間程歩くと子供の頃に一度だけ十年祭で来たことのある村の中心部へたどり着いた。


「お、ここか」


 俺は村長宅を見つけてドアをノックする。すると中からハンサムな銀髪の男が出てきた。


「やぁ、君がハンス君だね?」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「私は村長のセシア・ヴィレ・ミミールだ」


 村長のセシアさんが手を出してきたので握手を交わすと、その背後から小さな可愛らしい影が現れた。


「パパ……だれ?」

「セシル。この子が君と一緒にタンテまで行くハンスくんだよ」

「よろしく。セシル」

「うん……」


 俺がセシアお父さんの影に隠れて出てこないセシルに挨拶すると、か細い声で返事が返ってきた。


「もう馬車は用意してある。君の準備次第で出発するが、どのくらい休憩したいかい?」

「あ、もう大丈夫ですよ!」

「ふむ。君の家は山道の上の方。相当な道のりだったはずだ。その体力……。君はもしかしたら戦士系の天職をもらえるかもしれないね」

「戦士系!」

「私、魔法使いがいい……」


 そんなこんなで俺らは馬車に乗って天職の儀を受けに近くで一番の町タンテまで向かうことになった。


「セシア村長の職業はなんなのですか?」

「私かい? 私は【結界術士】だよ。たいていの村長は皆そうさ。村や道を魔物から守る結界を貼らなくてはならないからね」

「ふーん。俺のお父さんは【木こり】でお母さんは【料理人】でした。俺ってどんな職業につけるのか、正直心配です……」

「【木こり】も【料理人】も立派な職業だよ」

「そうですよね……」

「私のステータスを見るかい?」

「いいんですか!」


【名 前】セシア・ヴィレ・ミミール

【種 族】ヒト

【性 別】オス

【年 齢】32歳

【職 業】結界術士

【レベル】53

【体 力】157/157

【魔 力】232/232

【攻撃力】27

【防御力】56

【知 力】81

【精神力】59

【俊敏性】28

【幸 運】54

《スキル》

 なし

《魔法》

 【結界術A】【結界術B】【結界術C】

 【上位結界術A】

《その他》


「へぇー。メモとってもいいですか?」

「いいよ」


 俺は必死にセシア村長のステータスを家から持ってきた紙に書き写す。するとセシア村長から声がかかった。


「ハンスくん。ほら、そろそろタンテだ」


 馬車は数日かけてタンテの町についた。その頃には俺も七歳になっていた。馬車はそのまま教会の前まで進み、そこで俺とセシア村長とセシルは降りた。


「一応、統治連盟のお偉いが来てるからハンスくん、お行儀よくね」

「は、はい」


 初めて聞く言葉に驚きながらも俺は頷いた。三人で教会に入ると村長はある男に迎え入れられた。


「やぁ、セシア君。久しぶり」

「レヴァン町長、お元気そうで何より」


 他でもない、タンテの長レヴァン町長だった。ひげもじゃの、とても温和そうな人物だった。


「おお、これがセシア君の娘さんか! 天職の儀、期待しているよ」

「はい、ちゃんとこの日のために毎日お祈りしてきましたから。なぁ、セシル!」

「うん……。たくさん、お祈り、した……」

「ほう。それは結構。おや、もうひとりいるのかね? 書類には一人娘と……」


 レヴァン町長が俺の方に目を向けて眉をひそめた。補足するようにセシア村長が話す。


「ハンス君は友人の息子でして。この度誕生日が娘と近いからと一緒に天職の儀を受けさせようと」

「ああそういうことだったか。君も、いい天職をもらえるといいね」

「は、はい! ありがとうございます!」

「うん。では、私はここで見守っておくから行ってきなさい」

「レヴァン町長、ありがとうございました」


 セシア村長がお辞儀をするのに合わせて俺もセシルもお辞儀をした。


「よし、行こうか。緊張してきたなぁ」


 セシア村長はどこか緊張気味であった。それもそのはず、これで娘の人生も己の人生も決まるのだから。


 セシア村長が馬車で話してくれた。何故セシルだけタンテまで行くのかと。普通は年に一度、司祭が村までやってくるのだ。そのタイミングで天職の儀をするのが習わしなのだが、セシルだけは特別だという。


 要するに、村を引き継ぐ職業を得られるかどうかということだ。職業にはランクがある。


 勇者や聖女、賢者などの英雄級のSランク

 剣聖、大魔道士などの豪傑級のAランク

 剣豪や精霊術師や結界術士などの選民級のBランク

 剣士、魔導士、弓術士などの普通級のCランク

 木こり、料理人、鍛冶屋などの庶民級のDランク


 このランクとは人間が後から勝手につけたものだが、セシルはBランク以上の職業を期待されていた。Bランク以上というのは全体の1%にも満たない程稀だという。


「では、セシル・ヴィレ・ミミールさん。目を閉じて神に祈りを」

「はい……」


 セシルが先に天職の儀を行うことになった。セシルの体がみるみる光に包まれていく。その光を見て俺はこんなものかと思っていたが、どうやら普通ではないらしい。周りの司祭もセシア村長も目を見張っていた。


「これは、もしやBランクか!」

「いや、この光ならAランクの可能性も……」

「司祭さん。どうでした?」


 光が止むのと同時にセシア村長が司祭に訊いた。


「こ、これは大変です! 勇者……。Sランクの勇者が現れました!」


 それからはもう宴が始まった。大人たちは飲んで騒いで。なにせ、英雄級の勇者が現れたんだもんね。そうだよね。仕方ないよね。俺のことすっかり忘れても仕方ないよね。


「あ、そういえばハンスくんの天職の儀忘れてたね」


 俺が宴会場の隅の方でイジケていると、セシア村長が気づいてくれた。


「あの、司祭さん。今って天職の儀できますか?」

「ああ、できるーよ? ひくっ!」


 よく見るとセシア村長も司祭さんも両方酔っていた。大丈夫か?これ。


「じゃあー、いのってー。はい!」


 俺は「神様、俺に力を」的なことを適当に祈ってみた。


「えーなになに。つりー? ツリー、ますたー? うーん。要は、木こりってことだろ? はい、終わり」


 こうして俺の天職は【木こり】となった。

 いや、違うだろ!


「ステータスオープン」


【名 前】ハンス・ハイルナー

【種 族】ヒト

【性 別】オス

【年 齢】7歳

【職 業】ツリーマスター

【レベル】7

【体 力】21/21

【魔 力】21/21

【攻撃力】7

【防御力】7

【知 力】7

【精神力】7

【俊敏性】7

【幸 運】7

《スキル》

 なし

《魔法》

 なし

《その他》

 ツリーポイント21p

【生命の樹】(未解放︙解放1p)

【技能の樹】(未解放︙解放1p)

【知恵の樹】(未解放︙解放1p)


 俺の天職は【木こり】ではなく【ツリーマスター】だった。ツリーマスター? なんだそれ? セシア村長の話でも聞いたことないぞ。


 俺はまだこのときはこの職業【ツリーマスター】のことを理解していなかった。たぶん木を操る系なのかとさえ考えていた。だが、この職業をあえてランク付けするとしたら幻の存在である、伝説級とも呼ばれるLランク……。いや、それさえ越えた人知の先を識る神話級のEXランクだ。それくらいこの職業は強い。だが、そのことを俺が知るのはもう少し先の話になる。

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