本を買う男

一爪琉青

傘を持たず、きのみきのまま

 大気が水を含んだ夏への序章、人はそれを梅雨と呼ぶ。

私も梅雨と呼ばせてもらい、この話を紡ぐとしよう。


 身にまとわりつくような梅雨の時期、とある本屋へと足を伸ばした。

どこをどう歩いたのかは定かではない。

ただこの季節特有の気だるさと焦燥感が私の足を赴くまま、道と言う道を好きなように彷徨わせた。


一見普通な舗道を歩き、ねずみ色の空と同然の石壁を見ながら歩く。

時折こちら側を覗き込むように、窓ガラスが閉じたり開いたりと突然で規則正しい動きをする。

パラパラと空から雨水が零れ落ち、天井を眺めては鈍雲の髭がなびくのを見て、雨音が強くなる事に気付く。手には何も無し。


 きのみきのまま外に出た事が悔やまれて舌打ちをした。

チッと口から洩れる言葉は火花のように散る水音と交じって、アスファルトに砕けると千切れては消えた。

足音もついでとばかりカツカツ鳴る。

頭上から降り注ぐ雨と周囲の喧騒が激しくなり、顔を辺りにめぐらせては人が忙しそうに走るのをみた。

彼らと同様に自分の行動を合わせる。


 ふと自分の足が自分の足でない幻覚に囚われて、ある商店街の本屋に飛び込んだ。自動ドアが開かれて再び閉じる。

大きく開かれた建物の口に飛び込む。

運命に逆らえない弱者のように感じた。

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