転生したおじさんですが生意気なガキをわからせる事にしました
赤べこフルボッコ
転生
第1話 転生
「じゃあこの問題の答えはわかるか?」
「え?え〜と……37!!」
「残念、4×9は36なんだな」
俺の名前は
小学校教諭として教鞭を取るアラサーのおじさんである。
「って事で俺の勝ち〜」
「うぜぇー!!もう一回!!もう一回!!」
「よかろう、かかってこい」
今は宿題忘れ、遅刻の常習犯の生徒の居残りに付き合っている。
文面だけで言えば残業もいい所、と思われるだろうが俺は元々子供を
……変なルビが付いているような気がするが、あくまでも真っ当な教育者である。
今も掛け算が苦手なこの生徒になんとか算数に興味を持ってもらおうとゲーム形式にして勉強して貰っている。
「くっそ〜!!普通のゲームならせんせーなんてボコボコにしてやるのに!!」
「は?負けないが?」
「いーや、俺の方がうまいね!!なんなら試してみるか?」
「いや、先生は仕事で忙しいから」
「逃げんだ?」
「あ?」
「逃げんのかって」
「はぁ〜?逃げないが?先生は大人だからゲームぐらい余裕なんだが?負けないが?」
「じゃあ決定な!!格ゲーじゃ可哀想だから別のにしてやるよ!!あっ!!同じゲームを同時に始めて先にクリアした方が勝ちにしようぜ!!」
「あっ、てめ、学生特有の自由時間の多さがものを言うルールにしやがって」
「俺が負けたら一生宿題も忘れねーし遅刻もしねー!!」
「言ったな?絶対だからな!?」
……と言う事があり、暫くぶりにゲームショップに足を運んだ。
実際勝負に乗らなくても良かったのだが、これであの子の遅刻が少しでも減ればと言うのが半分、そしてそれなりに流行っているゲームらしいので生徒との会話の種になるだろうと言うのが半分で俺もそれなりに楽しみではある。
「えぇ〜と、『ルーンファンタジー5』……これで合ってるよな?」
件の生徒が提示したゲームは『ルーンファンタジー5』。
恋愛要素ありの剣と魔法のファンタジー作品らしい。
「最近のゲームは何というかすごいな……こんなにグラフィックも綺麗なのか!!」
パッケージイラストやグラフィックの綺麗さ、それからそれなりにするお値段に驚愕しつつも購入。帰路に着く。
「あいつには悪いが、あらかじめ情報ぐらいは仕入れさせて貰うぜ……先生には時間がないんでな……」
パッケージとスマホ画面をシゲシゲと眺めながら歩く。
主人公の性別は選べるらしく、パッケージでいかにもな笑いを浮かべているご令嬢が共通の悪役ポジションらしい。
「内容に関してはあんまり触れないように調べてるけど、この子、色んなサイトで散々叩かれてるな……」
どうやらそのご令嬢はかなり嫌われているらしく、調べても調べてもそのキャラに対する悪口しか出てこない。
「しかしそれなりの教育を受けてる筈のご令嬢がそこまで歪むか?いや、きっと何か理由がある筈だ。家庭環境がよっぽど悪かったのか?俺だったら……」
『ルーンファンタジー』シリーズでも屈指の最凶の精霊を従えていると言うそのご令嬢。
しかし俺から見ればまだまだ子供だ。
悪事を働くにしてもきっと何か理由がある筈なのだ。
職業柄、いや個人的にも子供が悪い道に進むのは止めたい、
「自由度が高いゲームらしいし、ひょっとしたら救済ルートがあるんじゃないか?」
もしそうだとしたらやらない手はない。
年甲斐もなくワクワクとゲームを抱え帰宅。約束の時間と同時にゲームスタート。
流れるオープニングムービーを眺めていると、件の令嬢の幼い頃と思しき回想、そしてその後にその令嬢が高笑いしながら街を炎で包む映像が流れていた。
時間にすればわずか数秒ではあったが、俺は見逃さなかった。
回想シーンの令嬢が確かに涙を流していた事に。
「やっぱりな」
俺は自分の心が燃え上がるのを感じた。
やはりこの令嬢は何らかのやんごとなき理由により悪役の座に着いてしまったのだ。
「俺が必ずお前を
自然とコントローラーを握る手に力が入る。
教師として、男として、俺はこの世界の全てを救ってみせる!!
……結果として、救えなかった。
大見得を切っておきながら何とも情け無い話だが、最終的には件の令嬢、フレイにトドメを刺し、エンディングが流れていた。
俺の目からも涙が流れていた。
感動では無い。怒りによるものだ。
「何でだよ!!これがハッピーエンドな訳無いだろう!!」
気がつけば夜は明け、出勤時間が迫っていた。
急いで支度をし、職場に向かう。
生徒とのゲーム対決には勝利したが、俺の胸には棘が刺さったままだった。
それからはもう連日連夜、フレイを救う為だけに数々の分岐を総なめし、攻略サイトに載っていないような情報まで自力で調べ上げた。もはやデバッガーのようである。
それでもなお依然フレイを救うには至らない。
何故なのか?これがそう言うストーリーだからと言われればそれまでなのだが納得が行かない。
大人を舐めるなよ、ガキが……幸せにしてやるからな……
いつにも増して寝不足のその姿はまさに幽鬼のようであったが、心には謎の活力が湧いていた。
そしていつものように学校に向かう途中、例の生徒が走っているのを目撃した。
最近では約束通り遅刻をしないどころか、いち早く学校に来て予習をするほどの優等生っぷりだ。先生は嬉しいぞ、ガキが……
「あ!!せんせー!!」
生徒は俺を見つけると笑いながら走り寄ってくる……のだが
「待て!!」
生徒が横断歩道を渡る途中、点滅していた青信号は赤になってしまった。
今から引き返せば助かるだろう、しかし生徒の顔には迫り来る自動車への恐怖の色が刻まれており、動けずにいた。
「間に合え!!間に合え!!間に合ぇえええええええ!!」
考えるより早く俺の足は動き出し、生徒を抱き抱えながら思いっきり跳ぶ。
生徒を犠牲にしてなるものか。
運転手を罪人になどするものか。
生徒を庇うように民家の塀に後頭部を強かに打ち、世界から音が消えた。
腕の中の生徒の無事を確認すると、意識が薄れていく。
そんな中でも俺が考える事はただ一つ。
「まだ……まだあの子を……あの子に……人は幸せになるために生まれてくるんだって……
全ての子供に教育を。
全ての子供に幸福を。
ただそれだけのために生き続けた男の心臓は静かにその鼓動を止めた。
──筈だった。
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「わからせ……ん?」
頭が酷く痛む。
全速力で後頭部から塀にぶつかったのだ、無理もない。
力の入らない身体を起こし後頭部をさするが、タンコブ一つできていない。
「何だ…?」
髪質が全然違う。
何だこのキューティクルは?
「何だこの部屋!?」
恐る恐る目を開くと、そこは病室でも自室でもない、見覚えのない部屋が広がっていた。
壁には剣が掛かってるし、全体的に何というか古い。別に汚れているわけでは無いが年代的に古そうだ。
「はぁ!?」
姿見が無造作に置いてあったので被せてあった布を取る。
そこに写されていたのは疲れ切った小学校教諭ではなく目つきの悪い小憎らしい顔のガキだった。
「な、何で……何で俺がルーンファンタジーのモブになってんだ!?」
どうやら俺はルーンファンタジーのモブキャラに転生してしまったらしい。
それも、フレイの性格を歪めてしまう一端を担う最低最悪のクソガキに。
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