Column.5 ドレスを探しにインターネットの海へと泳ぎだす(お呼ばれワンピースっていうのやめた)
~Sakura's story~
布団の上でゴロゴロしながら、例の友人の結婚式に着ていくカラードレスをネットで探していた。
「何見てるの?」
夫が隣に寝転がりながら訊いてくる。
「ほら、こないだ高坂ちゃんが結婚したって言ってたでしょう」
「ああ、あの
「そそ。その子の結婚式に着ていくためのドレス探してるの」
「なるほどね! 何色が良いとかあるの?」
「様々な制約条件の元、最適解を見つけるって感じだから、正直色の希望なんて言ってられないかも。ほら、やっぱり条件は少ない方が選択肢広がるでしょう」
「それはそうだけど、そういうのってなるべく選択肢は少なくした方がいいもんじゃないの?」
「それが、そうでもないのよねー」
私は夫にスマホの画面を見せた。
「お呼ばれワンピースの極意七箇条。一、白はダメ。一、黒もダメ。一、ミニ丈ダメ。一、でもマキシ丈もダメ。あ、マキシってのは、くるぶしくらいまであるロングドレスのことね。maximumのマキシ。一、目立つ柄が入っているものや、ツートーンカラーのものもダメ。一、アニマル柄、動物の毛皮が付いているものはダメ。フェイクファーも見分けがつかないのでNG。一、露出が多すぎるのもダメ」
私はそう言いながら、ファッションサイトのドレスカテゴリを選択し、各条件を入力していく。
「白は花嫁の色だからダメなんだっけ? なんで黒もダメなの」
「葬式を想像させるからだって」
「しないよねぇ。だって、アクセサリーとかもつけていくんでしょ?」
「まあね。……あと、揺れるようなデザインのイヤリングはダメらしいよ? 『家庭が揺れる』ことを連想するからだってさ」
夫が苦笑する。こういう行事に関するルールって、半ば言いがかりみたいなものもあったりするけれど、ググれば複数のサイトに記載されているようなメジャーなルールに関してはクリアしておくのが無難である。
「こういうの全部設定すると、とりあえず六百件ほどに絞られるんだけど」
「十分だよ!」
「いや……まだ重要な要素を忘れているぜ」
「なんだい」
「価格だよ……」
「確かに。予算はいくらなんじゃい」
「一万円から二万五千円」
夫は何も言わなかったけれど、おそらく服一枚に結構使うじゃん、と驚いたと思う。彼は普段ファストファッションしか着ない。一張羅は、彼の父親(私にとっては義父)からもらったという、有名ブランドのビンテージデニム。しかし仕方がない。CAや女医の友人の結婚式に、一人だけ普段着のようなワンピースで出席なんてしたら、逆に浮いてしまって花嫁より目立ってしまう可能性がある。
「そして、もっと重要な要素を忘れているぜ、坊や」
「サイズだねぇ」
「そうだ……九号以下は入らねえ」
これら全部を設定すると、二百五十件ほどに絞られた。
「こういうファッション通販サイトって、消費者に衝動買いを起こさせるために、条件に合ってないものも平気で提示してくるんだよね。……ほら、こういうのとか、完全にただのオフィスカジュアルでしょう? 信じられる? これドレスカテゴリなんだけど」
「迷惑じゃん」
そう、非常に迷惑である。こういうカテゴリ違反を犯しているものは、どんなに可愛くて安いものであろうと買わない主義である。
「さらに、この中でも、例えばこのピンクのドレスみたいに、極端に色が薄いやつは白と勘違いされる可能性があるから避けた方が無難。……ってのをやっていると、実質何もなくなる」
私はため息をつきながら、これはダメ、これもダメ、とスクロールしていく。これらの条件に加え、やはり「二十代半ば相応の華やかさ」とか、「でも既婚者として適切な」とか、そういう要素まで加わるから大変なのだ。最近、「上品な肌見せ」を称して袖がやたらと透けるものが流行っているけれど、いったい何のために袖付きのドレスを選択しているのだと思ってんだ、といった気持ちになる。流行って、こういうときにマジで不便。
「……サイトで探すの難しそうだからさ、今度一緒に買いに行かない?」
夫が瞳をキラキラさせながら提案する。
「絶対その方がいいよ! やっぱりこういうのって、実物を見て買った方が咲良ちゃんのテンションも上がるでしょ」
「まあ、確かにそれはそうだけれど」
おそらく、夫はデートをしたいだけである。私もウィンドウショッピングデートは大好きだけれど、実際に買うべきものが決まっている場合は相手に迷惑をかけそうであまり気が進まない。試着しようとして、「あ、やっぱり入りませんでした」みたいなことになったら恥ずかしすぎるし。
とはいえ、久々に夫と外でショッピングするのも楽しそうだな。私はスマホの画面を切ったのだった。
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