第十二章 ドイツ訪問(上陸編)

戦いの後で

 一九五五年十一月二十三日、キューバ共和国、グアンタナモ基地。


 ユカタン海峡における海戦を制した船魄達は、信濃と大鳳を除いて一先ずグアンタナモ基地に戻り、暫くアメリカの出方を窺うことになった。月虹の船魄に加えて扶桑・山城・愛宕は地上の施設に居候させてもらっている。


「ゲバラ、どう? アメリカは何か言ってきた?」


 瑞鶴はチェ・ゲバラに尋ねた。が、ゲバラは静かに首を横に振った。


「いいや、何も反応はない。アメリカに和平に応じるつもりなんてないだろうね」

「あっそう。勝ち目が益々薄れたって言うのに、よく戦争を続ける気が出るわね」


 アイゼンハワー首相が国内の主戦派に苦労していることを知っている者など、月虹にもキューバ軍にもいはしない。


「ああ。僕達は多少楽になったが、それだけだ」

「そろそろ反転攻勢に出てアメリカを殲滅とかできないの?」

「そんな戦力はない。こちらから攻勢に出られるほどの余力はないんだ」

「そう。だったら、私達にできることはもうなさそうね。もちろん南海岸への援護は続けるけど」

「頼んだよ。それだけで十分助かる」


 キューバの北側はドイツの勢力圏内だ。月虹もドイツにかなり借りがあるので、そう自由に動くことはできない。現状やれることはほとんどやり尽くしたが、それでもなおアメリカ軍を撃退することは叶わないのである。


 ○


 瑞鶴が真面目な話をしている一方、妙高・高雄・愛宕は別室で一堂に会していた。妙高は船魄としての愛宕とはこれが初対面である。愛宕は高雄と同じ茶色の目と髪をしているが、スカートは短く切り詰められて、肩も大胆に露出させた格好をしている。


「あ、あなたが愛宕さんですか……」

「ええ、私が愛宕よ。この間はよくやってくれたわね。感謝してるわ」

「そ、それはどうも……」


 妙高はどこか遠慮しているかのように受け答えする。


「ふふふ。照れてるの?」

「いや、その、愛宕さんの格好が、目に毒です……」

「そういうこと。可愛いわね」


 愛宕は妙高の頭を子供をあやすように撫でる。


「ちょっと、愛宕、初対面の方に近過ぎますよ」


 高雄が妙高と愛宕の間に割って入った。


「嫉妬かしら?」

「普通は初対面の人にそんなことはしないと言っているだけです」

「まあいいわ。けど……」

「愛宕?」


 愛宕は妙高から離れたが、今度は神妙な顔をして高雄を見つめている。


「お姉ちゃん、お姉ちゃんから妙高の匂いがするわよ? これはどういうことかしら?」

「に、匂い……?」


 高雄が困惑する後ろで、妙高は顔を真っ赤にした。


「ふふ、妙高は意味がわかってるみたいだけど。お姉ちゃん、妙高と寝たわね?」


 愛宕が低い声でそう言うと、高雄もようやく愛宕の言わんとするところを理解した。


「えっ……そ、それは…………」

「そう。お姉ちゃんったら、私をさしおいて他の子に初めてをあげるなんて……。もう私が嫌いになってしまったのかしら?」

「そ、そんなことはありません! 愛宕の事はもちろん好きです。ですがそれは、姉妹愛的な意味であって……」

「姉妹愛ねえ。もっと深く好きになってくれたら嬉しかったのだけれど、まあ、お姉ちゃんがそういうことに興味を持ってくれたのなら、悪くはないか」

「そ、それはどういう……」

「何でもないわ。二人ともお幸せにね」


 と言って、愛宕は部屋を出ていってしまった。高雄は呼び止めたが適当にあしらわれてしまった。


 ○


 さて、月虹に何かできることはないかと、瑞鶴とツェッペリン、扶桑と山城、そしてゲバラは引き続き話し合いをしていた。


「――やはり、わたくし達にできることがあるとは思えませんね。航空母艦の方々であればキューバの北側まで攻撃することはできるでしょうが、空爆だけで戦争を終わらせることなど不可能です」


 扶桑は言う。アメリカ軍の拠点は嫌らしいことにキューバの都市に置かれており、それを空爆することはゲバラが絶対に許さなかった。移動中の部隊を空爆しても大して意味はないだろう。


「都市から出てきたアメリカ人を皆殺しにすればよいではないか」


 ツェッペリンは言った。が、瑞鶴がすぐに馬鹿にするように否定する。


「あのねえ、どんだけ大量の爆弾が必要だと思ってるの? そんな大量の爆弾をどこから仕入れるつもり?」

「そ、そういうことはお前が考えよ!」

「考えた結果どうやっても無理って分かったのよ」

「な、なれば、この案は取り下げだな」

「はいはい。でも……結局ロクな案はないわね」

「無理なものは無理なのよ。そろそろ諦めたら?」


 山城は暗い声で言った。瑞鶴も正直言って山城の意見に賛成だった。が、そこでツェッペリンが再び何かを思いついた。


「そう言えば、国連でドイツが拒否権を発動しなければ、アメリカへの軍事制裁が行えるのであったな?」


 ツェッペリンはゲバラに問う。


「その通りだね」

「であれば、そうすればよい。ドイツをアメリカ討伐に賛成させればよいのだ」

「あのねえ……。具体的な手段はあるの?」


 瑞鶴はどうせ何も考えていないだろうと、馬鹿にしたように言った。が、ツェッペリンは自信満々な顔をしている。


「我が総統に頼めばよいのだ! 我の願いならば、我が総統は必ずや聞いてくれよう」

「はぁ。どっからその自信が湧いてくるのかしら。いや、もう、突っ込みどころが多過ぎて何から言えばいいか分からないんだけど」

「なれば我に問うがいい」


 ツェッペリンはやけに得意げであった。

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