作戦の瓦解
「中将閣下、第二次攻撃隊は、全機、撃墜されました。戦果は全くありません……」
ルメイ中将に作戦失敗の報が入った。サンフランシスコの廃墟に数名の観測部隊を潜入させており、特攻隊の戦果はすぐに彼の手元に入ってくるのである。
「前回の倍の数を出したのにか? それに瑞鶴も無力化した筈だが」
「はい。それが、瑞鶴は地上の飛行場から艦載機を発進させたようで、瑞鶴への攻撃は無意味でした。また日本軍はコメットに備えて重厚な対空砲火を行う準備を整えております。地上の高射砲と艦艇の高角砲による十字砲火です」
「なるほど、面白い」
「また、瑞鶴にはどうも、ドイツ軍の機関砲と思われる武器が載せられておりまして、最後に残ったものもこれに殲滅されました。機関銃並みの射撃速度の機関砲のようです」
「そんな武器があれば、確かにコメットでも落とされてしまうな」
ルメイ中将は特に驚くこともなく、それどころかまるでチェスを楽しんでいるかのように言う。
「閣下、どうしましょうか? 敵はあっという間にコメットへの対応策を編み出しています。これ以上の出撃は無意味なのでは……」
「そんなことはない。コメットを撃墜できるのはあくまで、既に迎撃の準備が整っている拠点だけだ。我々がコメットを撃ち続ける限り、日本軍はサンフランシスコから出られない。よって、目下我々がすべきことは二つだ」
「はあ」
「一つは今言ったように、コメットを絶え間なく撃ち続けること。そしてもう一つは、日本軍の地上設備を破壊することだ。十字砲火は厄介だからな」
「軍事的には合理的でしょうが……」
「ああ。直ちに第三次攻撃隊の準備をさせよ」
「はい……」
ルメイ中将はすぐに次の400人の用意を始めさせた。しかしそれは、彼にとって破滅の始まりであった。
「閣下!! 一大事です!! 反乱です!!」
「何を言っているのだね、君は」
「反乱です!! 兵士達が寝返ったんですよ!!」
「誰が裏切ったのだね?」
「ここら辺の兵士が大体全部です!!」
これ以上無駄死にすることを嫌った特別攻撃部隊の志願兵(実際にはほとんど強制であった)が反乱を起こし、同情した基地守備隊なども呼応して反乱を起こしたのである。
「閣下、今すぐお逃げ下さい!! 奴らは閣下を狙っています!」
そう言われた途端、反乱発生にも動揺しなかったルメイ中将は血相を変えて叫ぶ。
「馬鹿者!! アメリカ合衆国への、民主主義への裏切り者などに屈してなるものか!! 反乱軍は全員殺せ!! 皆殺しにしろッ!!」
「し、しかし、反乱軍の兵力は多く、とても鎮圧できません!」
「……クソッ。分かった。ここは退いてやる。だがすぐに増援を連れてきて、反乱軍は殲滅するからな!」
「はっ……」
岡本大佐の狙い通り、コメットの発射基地は反乱によって無力化された。
○
一九四六年一月二十六日、アメリカ合衆国ワシントン直轄市、ホワイトハウス。
さて、反乱軍は行動を起こしたものの、その動機はルメイ中将の誤った戦争指導に反対することであり、アメリカを裏切るつもりはなかった。故に基地を占領した後はそれ以上の行動を起こすことなく、そこに留まっていた。
しかし、独立戦争くらいの草創期を除いて、アメリカ軍で史上初めてと言える反乱である。その報はルーズベルトに直ちにもたらされた。
「まさかこの現代に、反乱などという言葉を聞くとは思わなかったな」
「大統領閣下、原因は明らかにルメイ中将です。彼を解任すべきでは?」
トルーマンは提案した。が、ルーズベルトは聞く耳を持たない。
「何を言っているのだね、ハリー。彼は非常に有能な指揮官なのだ」
「部下に反乱を起こされるような指揮官のどこが有能だと?」
「彼ほど民主主義に忠誠を誓ってくれる将軍はなかなかいないからね」
「思想で人事評価を行うと……。もういいです。それで、反乱軍にどう対処するつもりですか? 交渉の余地は十分にあると思いますが」
ルメイ中将さえ排除すれば彼らはすぐ原隊に復帰するだろう。
「気に食わなかったら武力で訴えるというのは、実にアメリカ的で良いことだ。だが武力に頼ったからには、武力で叩き潰されても文句は言えないということだ。これは私と彼らの戦争なのだ。故に、私は全力で反乱軍を叩き潰そう」
「正気ですか、閣下?」
「国家を裏切った者に情け容赦など不要だよ。すぐにルメイ中将に通達してくれ。好きにしてくれて構わないと」
ルーズベルトは反乱軍を許す気などなかった。が、それはルメイ中将のように国家主義者であるからではなく、単に戦争ができるのが楽しいからであった。
○
「よーし。大統領閣下から許可が出た。全軍出撃せよ! 反乱軍を根絶やしにするのだ!」
「お、お待ちください、閣下! 基地には反乱軍に囚われているだけの者がいるかもしれません!」
「何を言っている。民主主義を防衛する為に戦わなかった者は民主主義への裏切り者である。民主主義は専制と常に戦い続けなければならない。真の民主主義者ならば戦って死んでいる筈であるから、基地には専制の手先しかいないのだ。さあ全軍、敵を皆殺しにせよ!!」
ルメイ中将は日本軍が内陸に侵攻してきた時に備えた3個師団を以て、反乱軍が占拠する基地への攻撃を開始した。中将に一切の慈悲はなく、空爆と砲撃で跡形も残らないほど基地を破壊した後、生存者は片っ端から戦車で轢き殺し、機銃で撃ち殺したのであった。
なお瑞鶴はこれを察知したが、特に手出しはしなかった。アメリカは反乱が起こるほど追い詰められていると内外に宣伝する為には、日本軍は手を出さない方がいいからである。
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