ニューヨーク襲撃
『ちょっと、空母がこっちに突っ込んでくるんだけど、どういうことかな?』
「そ、そんな、無駄なことを……」
第2艦隊は降伏などしないという意志を行動で示した。エンタープライズを除いた3隻の空母が全く無謀にも関わらず、水雷戦隊に突撃して来たのである。
『妙高、もう容赦はしないよ。こいつら沈めさせてもらうからね』
「はい……」
『妙高、軍艦にとって敵に投降するのが最も不名誉なことであるとは、あなたも分かっている筈です』
高雄は諭す。最初から敵が黙って降伏してくれる可能性など皆無だったのだ。
「わ、分かってるけど……」
『妙高は手を下さなくても大丈夫です。すぐに終わります』
生身の空母など敵ではない。瑞牆と高雄の砲撃によって飛行甲板はズタズタに破壊され、艦橋は破壊され、結局何の成果も挙げられず、全て航行不能に陥った。
○
「機関停止。これじゃあ自沈するしかないね。ははっ」
自殺攻撃を仕掛けた空母の一隻、フォレスタルは自嘲するように笑った。フォレスタルは既に浸水が進んでおり、沈没は免れ得ない。
「こんな自殺に付き合わせてすまない」
「気にしなくていいよ、艦長。どうせ船魄なんてパーツに過ぎないんだから」
「本当に、すまない……。自沈処理を行わせてもらう」
「ああ、どうせ私は脱出できないんだから、早くしなよ」
アメリカ式の場合、無理に艦との接続を断てば船魄は死んでしまう。艦が致命的な損傷を受ければ助かる道はないのは日本やドイツの船魄と同じである。フォレスタルを含め各艦の乗組員は総員退艦して、空母は船魄と共に沈んだ。スプルーアンス元帥ら司令部要員も当然脱出している。
水雷戦隊に無力化されていたミズーリは自沈。長門と陸奥によって無力化されていた(長門と陸奥も無力化されていたが)ニュージャージーとケンタッキーは、どちらも沈みたくなかったので見逃された。アメリカ第2艦隊はかくして壊滅したのである。
○
さて、これは所詮、道程の障害物を排除したに過ぎない。月虹にとって本当の作戦はこれからである。天弐号作戦実施を前に、瑞鶴は長門に通信を掛けた。
「ねえ、これからどうするの? 私達に付いてくる気?」
『お前達の作戦は帝国にとっても利益のあるものだ。第五艦隊はお前達を引き続き護衛する』
「あ、そう。作戦を終えたら裏切るとかじゃないの?」
『貴様、私がそのような下劣な行為に手を染めると思っているのか?』
長門は感情を露わにすることはなかったが、かなり怒っているのは声音から察せられた。
「ごめんって。じゃあ引き続きよろしくね」
『ああ。但し我々がアメリカ本土に手を出す訳にはいかん。ニューヨークへの空襲はお前達がやれ』
「もちろんよ。そこまであなた達の手を借りる必要はないわ」
戦艦2隻空母4隻の大艦隊がニューヨークに進撃するのである。アメリカ海軍にはこれを食い止められる戦力など到底残っていなかった。
○
「首相閣下、スプルーアンス元帥が、第2艦隊が、敗北しました。最早我々には、奴らをどうすることもできません」
「そうなるだろうことは予想していた。かつて我が国を滅ぼした瑞鶴と長門が相手ではな」
アイゼンハワー首相は寧ろ落ち着き払っていた。第五艦隊が月虹と協力し始めた時点で彼は敗北を悟っていたのである。
「閣下! たった今、キューバ政府から新たな声明が出ました!」
「聞かせろ」
「はい。『キューバ海軍はこれより12時間後、9月11日午前8時46分に、ニューヨークのエンパイアステートビル及びクライスラービルの民主化を行う。周辺住民は直ちに避難されたし』とのことです」
「はっ。面白いことを言うじゃないか」
アメリカ軍は建国して間もない頃から、民主化と言って何百万では済まない民間人を虐殺してきた。今や『民主化』という言葉は『大量虐殺』と同義であると受け止められている。
「既にワグナー市長は避難の準備を始めているとのことです」
「……いいや、それはダメだ」
「は……?」
誰もがその言葉を疑った。アイゼンハワー首相はこの攻撃を最大限に利用するつもりだった。
○
その僅か数十分後。ニューヨーク市庁舎にて。
早急に警察消防を動員して破壊を予告されたビルからの避難を始めさせようとしていたワグナー市長の知事室に、突如としてただならぬ様子の男達が乱入してきた。
「な、何だお前達は!?」
「市長閣下、どうか落ち着いていただきたい」
と言って、一人が市長に拳銃を突き付けた。銃を見慣れているアメリカ人はその程度で驚きはしないが。
「誰なんだ、お前達は? 目的は何だ?」
「我々は中央情報局の者です」
「CIAか。悪いが今は市民の避難活動が優先だ。政治闘争は12時間後にしてもらおうか」
CIAは国内外を問わず邪魔な人間を消すことに躊躇いのない犯罪組織であり、日本やソ連にはテロ組織と認定されている。しかも自分達にとって都合が悪いという理由だけで首相にも黙って暗殺を実行するロクでもない連中である。
「いいえ、閣下。我々の目的はまさにその避難活動についてです」
「……どういうことだ?」
「我々の要求は一つだけ。一切の避難活動を停止してください」
「な、何を言っているんだ貴様は!」
ワグナー市長は自分が殺されることは市長になった時点で覚悟しているが、市民を見殺しにするというのは考えられなかった。
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