第2話 事件
この雑貨屋は中々売り上げも良く、客も従業員もとても活気があるように見える。
特別変な客が来る事もなく、従業員同士もよくコミュニケーションがとれている。
一般的に見ても良い店であり良い職場ではなかろうか。
ぶち猫は上に立つ者としては少々頼りない気もするが、職場としては、やはり「雰囲気がいい」というのは、それだけで及第に値するだろう。
つまり、特別やな奴はいないのである。
いつも通りに時間は過ぎていき、外はもう暗くなり帰路に発つ猫達も歩いている。
相変わらず雨はしとしと降り続いている。
気づけばもう閉店の時間である。
店を閉め残りの仕事を片付け帰り支度を始める。
このぐらいの時間から、雑種猫の目がギラリと変に光り始めるのである。
表情のみの笑顔で「お疲れ様です」と言い、雑種猫は帰路に発つ。
帰り道を歩きながら雑種猫はこう考える。
「もういい加減嫌だな」
「いつまでこんな生活を続けなければならないのか。そろそろ狂いそうだ」
雑種猫はイカれている訳ではない。
これだけ平和な環境で生活していれば、普通なら十分楽しく生きていけるだろう。
しかし雑種猫は、そうはなれない訳のわからないものを心に抱えている。
こういったものは、例えばトラウマとか育った環境など過去によるもの、もしくは病気もあるだろうが、先天的にそういうふうになってしまうものではないだろうか。
雑種猫もやはり、先天的にそういう猫のようである。どうにも相容れないのである。
家に着く。
適当にご飯を食べながら寝るまで何をしようか考える。
本を読み音楽を聴き、文章を書いたり創作的な事もやる。
そう、雑種猫は創作的な事を生業にしたいと考えている。
やりたいとかなりたいとか好きというよりも、もはや自身を救う術はそれしかないと雑種猫は悲しく思い込んでいる。
時間も遅くなり、どうでもいい明日の仕事を気にして、雑種猫は寝床に就く。
目を閉じる。
しかし、疲れているにもかかわらず眠れない。
やがて望まないのに一日を振り返ったりする。
この振り返りが、一日で済まなくなると相当性質が悪い。
仕事中には一切見せない鋭い目をして、雑種猫は天井を見つめている。
どう考えてもこれから眠りにつこうとする者の表情ではない。
どうしようもない寂しさと孤独感と恥ずかしさと悔しさと虚無感と、根拠のないわくわくが入り混じったよくわからない気持ちになる。
いつのまにか外はもう明るい。
今日は昨日と違い晴天のようである。
普通、晴天というとそれだけでも気持ちの良いものだが、慢性不眠の者にとっては、むしろイラっとしたりするものである。
雑種猫も例外なくイラっとしている。
でもそのイライラは、眠れない事よりももっと別の事だろう。
外からは生活の始まりを告げる音が聞こえる。
鳥達の爽やかな朝の会話が、雑種猫には、やけに耳にうるさく聞こえる。
今日もまた昨日と同じように雑貨屋で働く雑種猫。
しかし今日はこの雑貨屋である事件が起こった。
本日勤務予定の黒猫が来ないのである。
そのせいで、しかもこういう時に限って、店は変にいつもよりも忙しく、他の従業員はもちろん雑種猫も、今日ばかりは頑張らざるをえない状況だった。
この日から黒猫の音信は完全に途絶え、もう二度と姿を見せる事はなかった。
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