Chapter 1-3

 夕暮れも沈みかけた黄昏たそがれ時。

 車から降りると、すぐそばに首輪をつけたからすが一羽、地面に倒れ伏していた。

 京太きょうたは烏のそばに駆け寄り、開いたままの目を閉じてやる。


「あとでとむらってやるからな。今はゆっくり休め」


 立ち上がり、振り返ると強面たちが揃っているのが確認できた。


「よし。行くぞ!」


 京太は号令を上げ、彼らとともに廃工場へと駆け出す。


なつめ

「うっす!」


 不動ふどうに促され、棗が入口の鉄扉をこじ開けた。そのまま中に飛び込むと、彼は両目を見開く。

 あとに続いた京太の目に飛び込んできたのは、死屍累々ししるいるいの地獄絵図だった。


 そして少年たちが横たわるその奥に、三人の少年が向かい合っているのが見える。


「う、うわああああああああっ!!」


 その内の一人、山下健司やました けんじがナイフを振り上げて地面を蹴った。

 彼が飛びかかった相手は吉田轟棋よしだ ごうき

 腕をクロスさせて防御の体勢を取る轟棋の身体は、すでに傷だらけだった。


「やめろ!!」


 そこへ瞬時に割って入った京太は、健司を蹴り飛ばす。

 壁に叩き付けられた彼は、ナイフを落としてそのまま気を失った。


「……山下!」

「大丈夫だ。タマまで取っちゃいねぇよ」

「……あんた、は」

「よう。吉田だっけか? 昨日ぶり」

「……なん、で、ここに……?」

「お前らに付けてた『眼』から、やべぇことになってるって報告受けてな。――んで、てめぇは?」


 京太が視線を向けた先。廃車のボンネットに腰かける細身の青年がいた。

 ほくそ笑んでこちらを見つめるその顔に、はっきりとした見覚えはない。

 が、その笑みの奥に潜む悪意は、京太からすれば一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


「ウチの『眼』を殺ってくれたのは、てめぇだな」

「ご名答。まあ、この状況じゃあそれしかないだろうがね。思ったより早くきてくれてよかったよ」


 強面たちが青年に銃口を向ける。が、彼はまるで意に介した様子もなく、人を喰ったような笑みを浮かべるばかりだ。


「俺は黄泉。天苗黄泉あまなえ よみだ。よろしく」


 黄泉はスッと右手を差し出してくる。


扇空寺せんくうじ京太だ。わりぃが左利きなんでな。握手は遠慮させてもらうぜ」

「あら。それは残念だ。君とは仲良くできそうだと思ったんだが」

「そいつぁ結構。冗談はそこまでにしときな。てめぇの目的は?」


 その質問に黄泉はあからさまに表情を変えた。笑みを消してため息を吐く。


「せっかちだな。そう焦るなよ。暇つぶしにちょっかいをかけたら、大将が釣れただけのこと。

「意味がねぇ……、だと? 意味もなくこれだけの死人を出したってのか」

「いや? 殺し合わせたのは俺の趣味だが、死人が出ることにはちゃんと意味があるさ」

「そうかい。なら、てめぇが死んでも文句はねぇ……なっ!」


 京太は瞬時に距離を詰め、黄泉へと殴りかかった。

 が、その拳は彼奴に当たるその寸前で止まってしまった。


「……なんだ、そいつは」

「そこに転がってるやつらの魂さ。傷付けたら元には戻せないぞ?」


 黄泉が掲げたのは、淡くにじんだように燃える火の玉だった。

 彼奴はこれを、人から抜き取ることができるとでもいうのか。


「仕切り直しといかないか? 俺は多勢に無勢。お前は。だろう?」

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