第12話 奴隷売買組織殲滅ーフィリップ視点ー
私はこのウルレインの街の領主。フィリップ・ブルガルドだ。
ここ最近私の街で人攫いが横行しているという報告が上がってきていた。
なんと嘆かわしいことだ。
私はこの街の民は宝だと思っている。
民の生活を第一に考え、民に慕われる領主であろうと代々当主から受け継いできている。
……それなのに、このような報告があるとは。
「すぐに調査をしろ。見回りの衛兵も増員し怪しい奴がいたら聴取するよう伝えろ」
私は執事のクロスにそう告げる。
この案件はすぐに解決しなければ民の安全が確保されない。
「なんだと!? また攫われただと!」
3日後に同様の報告がクロスからされる。
なんてことだ。
すでに10人以上が被害に遭っているらしい。
そして相手もなかなか足取りを掴ませず、捜査も難航している。
やはりこういう仕事を生業としている奴は一筋縄ではいかないようだ。
被害対象者に共通しているのは子供か若い女性だという。
そのものたちが攫われてどのような目に遭っているのか想像もしたくない。
早く誘拐事件が解決することを切に願うが、現実はそう甘くなかった。
その後も事件は続いていったが、ある時好転した。
「なに! 犯人を捕らえただと!」
捜査は難航していたが、とうとう犯人を捕まえることができた。
犯人は衛兵の詰所に連行されたとのことで、夜分遅かったが私自ら赴いた。
「こいつらか……」
詰所に着くと、そこには3人の黒いマントを羽織った男達がいた。
他にも3人いたそうだが、冒険者によって殺されたとのことだった。
……その冒険者には感謝しないとな。
「こいつらを捕まえた冒険者は今どこに?」
私は衛兵に向かって尋ねた。
「事情聴取だけしてすでに宿に戻られています」
「そうか、その者は高ランクの冒険者だったのか」
「いえ、つい最近冒険者登録をした、ヒナタという若い女性でした」
なんと。彼女も狙われてしまったのか。
この街に来たばかりなのにこんな目に遭わせてしまって本当に情けない領主だ。
娘も救ってくれた大恩人であり、娘はもちろんだが私も気に入っていた女性だ。
あのような女性までにも手にかけるこいつらは許せん。
「そうか。彼女には後で礼をしないとな」
「え、領主様は彼女を知っているんですか」
「あぁ、つい先日盗賊に襲われた娘を助けてくれた女性だ。昨日まで私の屋敷に泊まっていたんだ」
「そ、そうだったんですね。しかし、6人の男達に囲まれても無傷で撃退したと聞いた時は信じられませんでしたが、領主様の話を聞くとかなりの実力者なのですね」
実際私も戦闘しているところを見たことはないが、娘から聞いてみたら、魔法がすごかったとしか言っていなかったからな。
「そうなのかもな。それよりこいつらから何か情報は洗い出せたか」
「かなり難航しています。ですが、彼らは住民を攫い他国に奴隷として売買しているようでした。そして、まだこの街に組織の一員はいるとのことです」
奴隷だと!?
なんてことだ。
このサンドラス王国では奴隷制度が禁止されているが、他国ではそうではない。
そこまで腐った連中だったか。
「こいつらのアジトはどこにある」
「それが、誰が指揮をしているかアジトがどこなのかについては契約魔法によってしゃべられないみたいなんです」
なるほど。
こういう連中は捕まった場合を考慮して、契約魔法を使って口封じをするからな。
そうなれば、もうこいつらは用無しだ。
「そうか、こいつらのアジトを突き止め、この街にいる犯罪者連中どもに報いを受けてもらわねばな」
私はいったん屋敷に帰り奴隷売買組織の殲滅に向けて、作戦を考えていた。
まず、アジトを見つけるのは簡単ではない。
なぜなら今まで見回りの衛兵を増やしたところで組織の足取りも掴めなかったからだ。
そして、今回のことで連中もヒナタに報復するべくさらに活発に動くだろう。
かなり危険な状況だ。早急に解決できる手はないのか……。
その後も夜遅くまで考えていて、気がついたら私は机で眠っていた。
朝起きて、私はすぐに冒険者にも手助けしてくれるか確認するため冒険者ギルドに向かった。
ギルマスの部屋に案内され入る。
「ようこそ、いらっしゃいました。領主様」
「すまんな、朝早くから突然お邪魔して」
「いえ、来られた理由は存じております。最近巷で起こっている誘拐事件のことでしょうかね」
「さすがだな。そうだ、そこで冒険者にもこの調査を依頼しようと思ってな」
「もちろんです。こちらの不手際もありましたので」
「不手際とはなんだ」
冒険者ギルドの不手際だと。
そんなことは報告に聞いていないぞ。
「いえ、今回、ヒナタさんが捕まえた中にランツという冒険者が混ざっていたんですよ。ランツは冒険者ギルドでヒナタさんに決闘を挑んで魔法一発で気絶させられたそうです。その報復で組織に頼んで彼女を攫うように依頼したみたいでした」
なるほど。
そんなところで繋がっていたのか。
まさか冒険者にも組織の仲間がいるとはな。
「ということで、冒険者ギルドとしても協力は惜しみません。それで調査方法についてはこちらで考えたほうがよろしいですか」
「いや、事は急を要する。ゆっくり調査する時間もないため、ヒナタさんを貸してもらいたい」
「なんと、彼女は今危険な状態ですよ。いつ殺されてもおかしくない状況です」
「そこを利用できないかと考えている」
「つまり囮にすると……?」
「そうだ」
ギルマスは受付嬢を呼んでヒナタさんが来たら部屋に来るよう指示する。
「しかし、それは彼女の意見も聞かなくてはなりません」
「わかっている。私が頼むと強制になってしまうから、ギルマスで説得をたのむ。私からは今回の作戦の概要を説明する」
そうしていると、部屋の扉がノックされた。
開いた扉に目を向くとヒナタがやってきた。
「失礼します。ご無沙汰してます。フィリップ様」
ヒナタは礼儀正しくお辞儀をしてきた。
「あ〜、構わん。楽にしてそこの椅子に座ってくれ」
ヒナタが席につくと、ギルマスが話し始めた。
「君がヒナタさんだね。私はウルレインで冒険者ギルドマスターをやっているガレオという。よろしく頼む」
「こちらこそ、セレナさんにはお世話になっています」
「さて、君を呼んだのは、他でもない。昨日に続いて今日も命を狙われたということで、なぜそのようなことになったのか話そうと思ってな」
「それについては、私から説明しよう」
私はヒナタが狙われた理由について話し始める。
「ヒナタさんが昨日捕まえた連中は、ここ最近この街で人攫いをしていた組織の一味だ。あいつらは、女子供を攫い他国に奴隷売買をしているみたいだ。このサンドラス王国では奴隷制度が禁止されているから、他国でやっているみたいだ」
付け加えるようにして、ギルマスも話す。
「君が昨日、ギルドで戦った男もそれに関与していたみたいでな。本当に恥ずかしい限りだよ。今までも何人かの女性冒険者が行方を眩ましていたがランツが関係していたとは思わなかった」
「なるほど、事情はよくわかりました。それで私を呼んだのは?」
「君はまだ命を狙われているかもしれない。そのため、警戒をしておいて欲しいという注意喚起をしたくてね」
「なるほど、確かにそれは危険ですね。夜道とかは1人で出歩かないようにします」
「それで、このままだと君だけでなく街の住民にも被害者が増えることになる。なんとしても奴隷売買組織を見つけ出し、殲滅する必要があるのだ。君はまだ冒険者になったばかりだが、6人の男達に囲まれても暗殺者に狙われてもそれを撃退する力を持っている。それに冒険者になる前に討伐難易度Bランクのポイズンスネークも倒していると聞いている」
ヒナタに畳み掛けに話し始めた。
私がヒナタの顔を見ると引き攣っていた。
状況を察したみたいだ。すまないヒナタ。
「そこで是非、君にもこの街にいる奴隷売買組織の殲滅に協力願えないだろうか。もちろん報酬も支払うし、冒険者ランクもDランクは約束する」
ヒナタは悩んでいるようだ。
それはそうだ。二度も襲われ怖がらない女性はいない。
「ヒナタさん、無理を言っているのは分かっている。だが、この街の治安維持のため協力してもらいたい。この通りだ」
私は精一杯頭を下げた。
それに続きギルマスも頭を下げた。
「はぁ〜、わかりました。私も毎日警戒しながらこの街にいるのも嫌なので協力します」
「「感謝する」」
ヒナタからの協力も得られたことで作戦内容を説明する。
「今回の作戦で最も重要なのはヒナタさんだ。組織のアジトがわからない以上、現状狙われやすいヒナタさんを囮にして敵のアジトを探ろうと思う。まず、ヒナタさんには夜に1人で外出してもらい、連中を誘い出して欲しい。近くに騎士を配置するから、そのまま攫われるフリをしてくれればいい。そのまま騎士に尾行させアジトを見つけ、騎士団で制圧しようと思う」
ヒナタが何か思い詰めたような顔をしていた。
それはそうか、自ら囮になり、危険を犯すんだ。
不安にならないわけがない。
「なるほど。しかし、それだと私の動きが不自然になります。すでに2回も襲撃されているのに1人で夜道を歩くなんて敵に罠だと教えているようなものです。それに制圧できたとしても万が一にも敵のアジトに隠された逃げ道があった場合、逃げられることもあります」
……なんということだ。
この子は肝が座りすぎている。
本当に15歳か。
「ほう。それならどうするべきだと」
「敵に罠だと悟られないように私は宿にいます。狙うなら多分夜に寝込みを襲ってくると思います。私の宿に見張りの騎士を置いてもらい、私が攫われたら尾行してきてください。私は、そのままアジトの中で囚われておきます。その間に騎士団を集めてもらい、外から制圧してください。私は騎士団が来たらすぐに内部から制圧に動きます。これなら確実に組織の全員を捕らえられると思いますので」
彼女には本当に驚かされる。
さっき話を聞いたばかりとは思えないほどの柔軟性。
そして自分を犠牲にしてまでもこの街の治安のために確実に組織を殲滅する作戦内容だ。
「素晴らしい意見だ。しかし、それだとヒナタさんにかなりの危険を背負わせてしまうことになる」
「構いません。このままだと私以外の住民の方にも被害が及びます。そうならないためにも危険は承知の上です」
「そうか。本当に感謝する。敵がいつ襲ってくるかわからないが、ヒナタさんが宿にいる間は必ず騎士に見張りをさせる」
「はい、よろしくお願いします」
作戦内容は決まった。
あとは、敵が動くのを待つだけだ。
次の日の夜にそれは起こった。
予定通りにヒナタが攫われたという報告が入る。
私はすぐに騎士団を準備し、奴隷売買組織のアジトに向かう。
ヒナタ無事でいてくれ。
アジトに到着した。
そこはすでに廃業した飲食店だった。
2階建てで食料保存として地下室もある建物だ。
すぐに出入り口を塞ぎ、制圧にかかった。
1階にいた敵は全部で8人くらいだ。
すぐに騎士たちが拘束していった。
……すると地下から来たであろうヒナタが奥からやってきた。
「フィリップ様!」
下着姿のヒナタが私に話しかけてきた。私はすぐに目を逸らした。
未婚女性の肌を見てしまうとは本当に申し訳ない……。
「え、どうしましたか?」
どうやらヒナタは自分の格好に気が付いていないみたいだ。
それともあまり気にならないのか。
「いや、服を着てくれ……」
「あ、ごめんなさい。服を脱がされていたのを忘れていました。今見たことは忘れてくださると助かります」
ヒナタはすぐに自分の身体を手で隠した。
よかった。肌を晒しても気にならないような女性ではなかったようだ。
それにしても忘れるのはちょっと無理だな。
ヒナタには悪いが、見えてしまったものはしょうがない。
「善処しよう。とりあえずこの衣服を羽織れ」
私は自分が羽織っていたトレンチコートをヒナタに貸した。
「ヒナタさん、奴隷売買組織の殲滅に協力いただき感謝する」
「いえ、こちらこそ。地下に組織のボスを気絶させていますのでご案内します」
「そうか、ありがとう」
地下に行くとボスが階段付近で倒れていた。
すぐに拘束し、ヒナタは宿に帰った。
地下には子供が3人おり眠っていた。
子供たちを保護し、騎士団へ預けた。
その後は、奴隷売買組織の連中は地下牢に連れて行き、犯罪組織連中から金を受け取り、捕まえた女子供を素通りさせていた門番の衛兵も捕まえた。
奴隷売買組織及び協力した衛兵は即処刑した。
奴隷として売られた人たちは、他国に行ってしまっている可能性が高いので私は助けることができない。
本当に悔しい。
私は二度とこのようなことが起きないよう誓った。
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