第8話 いざ、冒険者ギルドへ


 おはようございます。ヒナタです。


 朝起きると目の前にサーシャの顔があり、危うく性別という壁を越えそうになりました。

 精神的には男女のはずなんですが、残念ながら私には息子がありません。一線を越えずに済みました。


 朝食をいただきながら昨日の盗賊について話を聞かせていただきました。

 てっきりどこかの権力者が闇組織に依頼してサーシャを亡き者にでもしようとしているのかなと思いましたが、ごく普通の盗賊で馬車に乗っていたサーシャを慰み者にしようと襲ったみたいでした。

 許すまじ、盗賊風情が。下賤な連中が私のサーシャを卑猥ひわいな目で見るな。


 そんなこんなで、いつまでもお邪魔するわけにもいかないので、そろそろ冒険者ギルドにでも登録しに行こうかなと思います。

 森で倒した魔物も無限収納にしまっているし、売却したいしね。


「そろそろ冒険者ギルドに登録しに行こうと思いますので、これで失礼しますね」

「あぁ、そうだったね。これから大変だと思うが困ったらいつでも頼りにしてくれ」

「うん、またね! ヒナタお姉ちゃん!」


 昨日の夜にサーシャが私のことをヒナタお姉ちゃんと呼んでいいか聞かれたので快く承諾した。


「はい。何かあったら相談に参ります。サーシャちゃんもまたね」

 

 そして私もサーシャちゃんと呼ぶことになった。

 昨日一晩一緒に過ごしたことで心の距離がグッと近づいたよ。

 これからもサーシャとは仲良くしていきたい。……いや、むしろ結婚したい。


 冗談はこれくらいにして、2人への挨拶も終わったので私は屋敷を後にした。




「冒険者ギルドはここだね」


 フィリップに冒険者ギルドの場所を教えてもらい、住民に教えてもらいながらもやっとの思いで辿り着いた。

 ファンタジー世界の定番、冒険者ギルドに期待を膨らませ、扉を開けた。


 ……うぅ〜、すごい見られてる。

 入った瞬間むさ苦しい男どもがこっちを睨んでるよ。そんな場違いな格好してるかな。

 とりあえず、周りのことは無視して受付に向かう。


「あの〜、冒険者ギルドの登録ってここでしょうか」

「はい、冒険者の登録ですね。私はセレナと言います! それではこちらの登録シートにお名前、年齢、職業を記載してください」


 しまった、文字が書けない。

 日本語で書いても大丈夫なのかな。

 この世界の文字は見たこともない字ばかりだけど、なぜか読めるからね。

 試してみてダメだったら、私の故郷ではこの文字を使っていたとでも誤魔化そうか。

 嘘は言っていないからね。前世の故郷での文字だから。


「こ、これでいいですか……」

「……はい、大丈夫ですよヒナタさん。年齢は15歳、職業は魔法使いですね。登録まで少しお時間がかかりますので椅子にかけてお待ちください」


 お〜、よかった。日本語で書いても大丈夫そうだ。

 これならこれからの生活にも支障はなさそうだな。

 この年で新しい文字を学ぶのも面倒だしね。


 それにしても登録に待ち時間があるのか。

 それなら魔物の買取りをしてもらった方がいいかな。


「それでしたら、解体していない魔物も持っているので、引き取ってもらうことってできますか?」

「魔物ですか……。それでしたら裏にある解体場になりますね。案内しますのでついてきてください」


 手に何も持ってないから怪しむよねー。

 セレナは私の冒険者登録を別の受付の女性に任せて、解体場へと案内してくれた。

 解体場には30歳くらいのおじさんが一人でオークの解体をしていた。


「こちらの机に魔物の素材を提出してください。解体はギルドに任せると手数料をいただきますがよろしいですか?」


 なるほど、無料ではないんだな。

 いや、言われてみればそれが普通か。

 っていうか、この机じゃ大蛇が乗らないんだけど。

 私が大きな魔物を持っているって思ってないんだな。

 そりゃそうか、手ブラ……間違えた。手ぶらだしね。


「分かりました。でも、ここの机じゃ収まりきらないので他に置く場所ってありませんか」


 セレナがきょとんとした表情で私を見てくる。


「はぁ〜……。でしたら外にお願いします」


 全く信用されてない。

 まぁ見せれば分かってくれるよね。

 案内されたのはギルドの裏側にある庭のような場所だった。

 どうやら魔物が多くて解体が間に合わなかった時や大きな魔物用に仮置きとしてここに置いているらしい。

 ここなら大蛇も余裕だな。

 でも、セレナがびっくりして叫んだりしないよね。


「では、出しますね。それとセレナさん、びっくりして叫ばないでくださいよ」

「え? あ、はい」


 私は無限収納から大蛇を出す。

 他にもたくさんの魔物がいるけど今回は見送ろう。

 目立ち過ぎると危険だからね。


「え……! むぐっ!」


 私はすぐに叫びそうになったセレナの口を押さえる。危なかった。

 しばらく押さえていると、落ち着いたのか私を見てくる。


「……これをヒナタさんが討伐したんですか?」

「はい、洞窟にいるときに遭遇して……。死にそうになりましたがなんとか……」


 あの時のことを思い出すと、本当によく生きているなと思う。

 しかし、2ヶ月の森生活で分かったことだけど、無限収納に入れてても素材が腐らないということが分かった。

 本当に便利なスキルだよね。女神様ありがとうございます。


「これ、Bランクのポイズンスネークですよ! 初めて見ました……」


 そんな貴重な魔物だったのか。

 Bランクって結構高難易度みたい?

 つまり私は転生直後にそんな魔物に襲われたと……。

 本当よく生きていたな……。


「そうだったんですか。それでこのポイズンスネーク? って売却できますか?」

「はい、大丈夫ですよ! それと先程の収納スキルはかなり貴重なので人前で見せない方がいいですよ。悪用される可能性がありますからね。なので収納用のアイテム袋とかを購入して偽装したりするとおすすめです。それでは、受付に戻りましょうか!」


 おぅ、無限収納は貴重なのか。

 丁寧に教えてくれるセレナさんマジ天使。

 これからは私の専属受付嬢にしよう。

 セレナに連れられて受付に戻り、数分待っていると受付から私の名前を呼ばれた。


「お待たせしました。こちらがギルドカードです。ヒナタさんはポイズンスネークを討伐しておりますので、特例でEランクからスタートになります!」

「私が倒したっていう保証もないのにそんな特例認めても大丈夫なんですか?」

「収納スキルも持っているのでそこは私が信用します。ギルドマスターにも許可をいただきました!」

 

 そんなんで大丈夫なの。

 私が偶然拾ってきた可能性もあるのにね……。

 まぁ、倒したのは事実だから私としては信用してくれた方がこれからのセレナとの付き合いにも繋がる。

 うん。これはこの厚意を受け取ろう。


「そうなんですか。それなら有り難く頂戴します」

「これからよろしくお願いしますね。それでは冒険者についてご説明させていただきます。まずランクについては高い順からS、A、B、C、D、E、Fランクまであり、ランクによって受けられる依頼が変わります。依頼は自分のランクの一つ上のランクまで受けることができます。ランクを上げるのは、ギルドで最終判断しますのでご承知おきください。それと依頼を複数回失敗し続けるとランクも下がりますのでご注意ください」


 なるほど。大体、前世で私が知っている内容と同じみたいだ。

 あまり目立ちたくないから、Cランクくらいまであげればいいかな。

 何年かかるか分からないけど。


「それと冒険者同士の争いにはギルドは基本不干渉です。また犯罪行為を行った場合は除名処分となりますのでよろしくお願いします」

「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」

「いえ! それと冒険者は敬語を使わない方がいいですよ! 舐められるかもしれませんからね。貴族の方と接する場合は気をつけた方がいいですけど」

「……わ、分かった、ありがとね」

「最後にポイズンスネークの換金額は金貨30枚と銀貨60枚です。ギルドカードにお金を振り込むのもできますが、どうしますか?」

「え、多くない……」

「そんなことはありませんよ! 貴重な魔物ですし、状態も良好なので!」

「そ、そうなの。ならギルドカードに振り込んでもらえる?」


 予想外の金額にびっくりしつつも、正直まだこの世界の金銭価値が分からない。

 ちゃんと調べておかないとね。


 さてと。とりあえず今日は依頼を受けるつもりはないけど、どんな依頼があるのか確認するため依頼ボードで依頼内容を確認しよう。

 受付を離れ、依頼ボードへと移動する。


「うーん。薬草採取にゴブリン討伐、オーク討伐があるのか」


 なんかありきたりな依頼ばかりだな。

 でも私は冒険者として生計を立てていく訳だから、好き嫌いで依頼を拒むことはできないな。

 まぁ、とりあえず今日は市場に行こう。この世界の食材事情や物の価値を把握したい。

 私は依頼ボードから離れ出口へと向かおうとした。……が身長180センチくらいのおっさんが私の前に立ち塞がった。


「おいおい、姉ちゃん。俺と一緒に夜の冒険にでも行かねぇか?」


 テンプレ通りか。

 ってか意味のわからない誘い方だな。キモ過ぎるだろおっさん。

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