第22話 精霊

◇◇


この世界には、魔法が存在する。

正確に言うと、魔法を使うのは精霊であり、精霊は生命の持つ魔力を糧としている。

人は魔力を放ち、魔法を使った気でいるが、実際は放たれた魔力を糧とした精霊が人の強い思いを叶え、魔法を行使しているのだ。


精霊は、火・風・水・土より生ずる。

人の放つ魔力量が多いと、精霊の力も増す。


火・風・水・土の精霊たちが満足する魔力量になる魔法を極めると、

鋼・雷・氷・樹の魔法を精霊たちが使ってくれる使えるようになる。


精霊の中には、特殊な能力を持つ者もいる。

特殊能力は【癒やし】【浄化】【心眼】【創造】【空間】【鑑定】など、様々だ。

特殊能力を持つ精霊に愛されたものは、その能力を使えるようになる。


精霊の加護を授かることを【祝福ギフト】と称している。

【祝福】により、魔力を【隠密】することも出来る。


【癒やし】は心身を正常な状態に戻す治癒能力。

周囲にいるだけで心地が良いので、いろいろと寄って来る。

本当に、いろいろと。

死者を生き返らせることは出来ないが、【創造】との合わせ技で欠損部位を再生することも出来る。


【浄化】は清浄能力。

洗濯や掃除しなくても、清潔に暮らせる。

だが、魔獣を普通の獣や聖獣に浄化することは、出来ない。


【心眼】は相手の真意を知る能力。

嘘偽りは通じない。

本人すら気付かない本質や能力を見極める事が出来る。


【創造】は見るだけで全く同じものを創り出すことが出来る能力。

道具や料理だけでなく、技術さえも習得出来る反則技。

だが、素材は必要。

無から有は創れない。


【空間】は時間が存在しない異空間収納のような能力。

容量は精霊の力によって様々。

収納した時の状態を永久に保つ。

なので、熟成させたいものを入れてはいけない。


【鑑定】は見た物の性能や成分が判る能力。

真贋もお見通し。


【隠密】はステルス能力。

他者の記憶を曖昧にすることも出来るし、完全に認識されない状態にも出来る。


◇◇


 精霊が姿を現すことはなかった。

 精霊が声を発することはなかった。


 今、シルヴィアは手の平や両肩の上にいる精霊の姿を愛で、会話を楽しんでいる。恐らく誰も知らない、魔法の真理に目を輝かせている。


「精霊様、ありがとう存じますわ。知らぬ間に、精霊様の恩恵に与っておりましたのね。我が物顔で魔法を使っていたのが、恥ずかしゅうございますわ」

『ふふふ』

『任せて!』

『魔法は得意なの!』

『得意なの!』

「まあ!ふふふ。左様でございますわね。これからもよろしゅうお願い致しますわ」


 マリーには見えないが、シルヴィアの視線の先には、あの精霊たちがいるのだろう。

 まるで御伽噺のようだわ。シルヴィア様は生来の与える者。神の加護を授かるに相応しい清き魂の持ち主ですわ。

 

 マリーは夢見心地でシルヴィア我が君を見つめている。


 病魔にシルヴィアを奪われそうになった恐怖は、今もマリーを脅かしている。深夜に悲鳴を上げるシルヴィアの事が心配で、眠りの浅い夜を過ごしていた。あの日以来、初めて、今朝は安らか気持ちで目覚めることが出来た。


 シルヴィア様はようやく悪夢から解放されたようですわ。これも神力の御陰なのかしら。


 マリーはルフとの出会いを有り難く思った。


 シルヴィアは、前世の記憶が蘇ったあの日以来、突如襲ってくる記憶に苛まれ、気を失ったことが幾度もある。深夜に悲鳴を上げ、マリーにも家族にも散々心配をかけていた。あの日以来初めて、今朝は、幸せな気持ちで目覚めることが出来た。


 ルフの御陰で、シルヴィアは悪夢から解放された。


◇◇◇

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