剣で成り上がりを目指すソロ冒険者

日比野 麻琴

第1話 初討伐クエスト

 俺、レオは、冒険者を目指すべく、今日も冒険者ギルドに向かっていた。

 と言ってもまだ、駆け出しの駆け出し、長袖のシャツに、胸と肩を守る革鎧、その上に革製のベスト、薄手の革手袋、腰に鉄製のショートソードを提げ、革製の長ズボンに革のショートブーツという出で立ちに、大きなバックパックを背負った、いかにも初期の冒険者らしい格好である。

 それもそのはず、12歳から冒険者登録をし、街の清掃活動、薬草採集などをして冒険者ランクを上げながら、読み書き、計算、剣術、投擲術、斥候技能、基本魔法等を習得した。

 そして、、昨日晴れて15歳の成人を迎えて、討伐クエストが受けられるEランク冒険者となったのだった。

 ここリーンの街の冒険者ギルドに着くと、今までの奉仕・採集クエスト掲示板でなく、討伐・護衛クエストの掲示板へと向かった。

 

 「うん、やっぱりこっちの掲示板は賑わっていて、改めて冒険者になったって感じがするな。」


 そう呟くと、冒険者の群がっている中に入っていった。

 そして掲示板の中のEランク向けクエストの中から、一枚のクエストを見つけ、受付カウンターに向かった。


 「おう、レオ。いきなり掲示板クエストか?最初は失敗のない常設クエストを勧めたいのだがな。」


 昨日、Eランク昇格の手続きをしてくれた引退冒険者で受付を行っているキャスパーが、受付に向かっている俺に気づいてそう声をかけて来た。


 「大丈夫だ。無理はしないつもりだ。」


 そう言って、俺は、キャスパーに依頼書を差し出した。


 「どれ、……。」


 キャスパーは、俺の依頼書を受け取り、目を通すと黙り込んでしまった。


 「なんだ、もう老眼か?代わりに読んでやろうか?」


 俺は、黙りこんでしまったキャスパーに親切心から声をかけてやった。


 「まだ、そんな年じゃねぇ、おい、何が無理をしない依頼だ。確かにEランクのクエストだが、こりゃ6人程度のパーティー向けの依頼だ。一人じゃ厳しい過ぎるぞ。」


 「そうか、俺は、ソロで冒険者をやって行こうと、12歳の頃から、ずっと鍛錬を行ってきた。だから、これくらい問題ない。」


 「まぁ、冒険者は自己責任だ。護衛等の人様に迷惑が掛かる依頼以外は、俺ら受付が止める権限はないが、本当に受けるんだな。」


 「ああ、受理を頼む。」


 「お前が、ずっと頑張ってきたのは知ってるが、だからこそ、無理はしてほしくいのだがな。今更だが、本当にパーティーも組む気はないのだな。」


 「勿論だ。」


 「では、受諾だ。本当に無理はするなよ。若いのが死ぬとこっちも寝覚めが悪いからよ。」


 キャスパーはそう言いながら、依頼書の受諾者欄に俺の名前と受理者欄に自分の名前を記入し、受諾中の棚に依頼書をしまい、受付票を渡してくれた。


 「じゃぁ、行ってくる。またな。」


 俺は、それを受け取ると、そう言い残してギルドを後にした。


 


 リーン街の西の城門をくぐって、外に出ると、依頼の目的地ラナス丘陵へ向かった。

 徒歩でも2時間ほどの位置にあるラナス丘陵地帯は雑木林に覆われ、街の者が余暇に枯れ木やキノコを採集する場所だ。

 そこにゴブリンの群れが現れたため、その駆除(最低5体)及びコロニーの捜索とその報告若しくは排除が今回の依頼である。 


 あの辺りだとはぐれ個体の一団でなく、新たにコロニーが造られたと考えた方がいいな。するとゴブリンを見つけた場合、すぐ殺さず、後を付けるのが賢明だな。

 俺は、その地域の状況等を考慮しながら、ゴブリンへの対処方法等を考えながら街道筋を歩いて行った。一時間も歩くとこの道は大きな町につながるでもないため、道幅が狭くなっていき、路面も一部草が生えるなど荒れ始めて来た。

 ここまで来るのに出会ったのは、街道を警らしている兵士の一団だけであった。そんな寂れた街道をさらに進んでいくとやがて、目的地の丘陵地帯が左手に見えて来た。


 「うん、そろそろ街道を外れて、丘陵へ向かうか。」


 そう、独り言を呟くと、街道を外れ、丘陵地帯の雑木林の手前まで歩みを進めた。そこで、俺は、探索魔法を唱えてみる。


 「サーチ。」


 本来、魔法名は発声する必要はないのだが、レオは、発声することで、魔法のイメージが明確になり、魔法の威力、魔力消費等を上げることが出来るため、発声をしている。

 この魔法は、周囲500メートルの魔力反応を感知できる優れものの魔法だ。左手400メートルと言ったところに、三つの魔力反応、丘陵の奥へと向かっている。


 「一発で当たりを引くとはついているな。」


 そう言うと、この距離をなるべく維持するように、途中確認のため、何度か探索魔法で向かう方向を確認しながら、魔力反応を追いかけた。今回は知能の低いゴブリン相手なため、こちらの魔力は察知できないであろうと考え、無理に近づかずに、この方法を選択した。

 6度目の探索魔法を使った時、今までの魔力反応とは別の魔力反応を6つ確認した。

 無地に気付かれることなく、コロニーにたどり着いたようだな。

 さて、相手の数を確認して、突入か報告か判断するか。

 常識的に、初級冒険者が、ゴブリンを相手するのは、一対一が基本で、コロニーを発見した場合、待ち伏せで必要討伐数を稼いだら報告で終わらせるのが普通だ。

 だが、俺は、ソロ冒険者として成り上がるため、様々な事象に対処できるように様々な技能を身に着けた自信から、30匹程度のコロニーなら行けると踏んでいた。

 

 コロニーは、丘陵の斜面に人一人がやっと入れるくらいの大きさの入り口造られる形で形成されていた。俺は、ゴブリンに見つからないよう、隠密スキルを発動させ、慎重にコロニーの入り口に近づくと、再度、探索魔法を唱え、内部の魔力反応を確認した。

 反応は、全部で18体、十分行ける数だ。しかも反応は、3つに分かれており、それぞれ5体、6体、7体と固まっていた。多分中に、部屋のようなものが3つあるのだろう。

 俺は、コロニー内部に足を踏み入れた。スキル夜目を発動させる。夜目は、冒険者になるために必須とも言われているスキルで、冒険者になるのであれば必ず習得しているスキルである。

 コロニー内部は入り口と違い、多少天井は低いが、剣を振り回すことができるほどの作りになっていた。ゴブリンもすれ違えないと不便だろうから、こんなものか。そんなことを考えながら、剣を鞘から抜き、片手で構えながら、中に進んでいった。

 途中に分かれ道があり、俺は、魔力反応から、突き当りになっているであろう、8体の反応があった方向にまずは、進んでいった。

 ゆっくり先を確認しながら進んでいくと、広場になっている入り口に1体のゴブリンが見張りで立っていた。

 扉等はなくその後ろで他のゴブリンの騒がしい声が聞こえてきた 。数も多いし、ここは確実に行くか、残りの魔力量から、この方法はこれで使えなくなるが、数も多いし、恐らくこの先は行き止まり、これ以上の援軍も来ないと判断して魔法を唱えた。


 「スタンクラウド。」


 するとゴブリンのいる部屋に靄のようなものが充満し、稲光のような光が行くとか発生して消えた。

 ゴブリンの叫び声が、いくつか聞こえ、入り口に立っていたゴブリンも倒れこんだ。だが、まだ不快な声が聞こえることから、恐らく何体かは、レジストしたようだ。

 俺の魔法はやっぱだめだな。

 ゴブリン程度にもレジストされるか。そんな考えをすぐに消し去り、ゴブリンが居る部屋に突入をした。

 そして、まだ、何が起きたは把握しきれていない気絶を免れた1体にゴブリンに切りかかった。

 一閃。

 ゴブリンの首元に剣を叩き込み。碌な抵抗もなく、1体のゴブリンを切り捨てると、逃げようと後ろを向いたゴブリン2体も背中から切り捨てた。残りのゴブリンは、気絶をしていたため、抵抗もなく、胸に剣を突き立て息の根を止めた。


 「まずは、8体。」


 残り少なくなった魔力で、探索を行い、他のゴブリン達がこちらに気づいていないのを確認すると、元来た道を戻り、今度は、7体のゴブリンの反応がある方向に向かった。気づかれないように先の様子を伺うと、こちらの部屋は、隙間だらけだが、一応扉があり、2体のゴブリンが部屋の前に立っていた。

 見張りが2体か、少し厄介だな。

 そう頭の中で思考すると、すぐにこの状況での最善策を考え、行動に移した。

 剣を鞘にしまうと、ベストの裏に忍ばせてる投げナイフを4本取り出し、3本を投げやすいように剣先を摘まむ形で左手に持ち、右手に1本を握ると、それをゴブリンに投げつけた。 そして、間髪入れずに2投目も投じる。

 1投目は、扉の左に立っているゴブリンの肩口に、2投目は、右のゴブリンの喉元に命中させ、これを殺した。すかさず3投目を仕留めそこなった左のゴブリンに再度投げつける。

 だが、これはゴブリンの血糊で錆びついている剣で弾かれて、奇声を上げられた。

 しまった。自分の技量のなさに舌打ちしつつも、残りのナイフを投げて、剣を構えながら、ゴブリンのいる方向に駆け出した。

 このナイフは、ゴブリンが剣で受け損ない、右目に命中し、そのまま倒れ込み絶命した。

 そして、中から4体のゴブリンがそれぞれ武器を構えながら、飛び出してきた。残りの1体は、恐らく仲間を呼びに奥に向かったのだろう。

 5体とも後ろに下がられたら、奥で8体と正面からぶつかることになったが、前に4体出てきてくれたことで、4体ずつで対処できる可能性が出て来た。

 さらに狭い通路に出てきてくれたことで、一度に相手するのが多くて2体となった。実際には武器をふるうことを考えれば、ほぼ一対一で戦える。

 よし、増援が来る前にこの4体を仕留めるぞ。

 なるべく部屋から距離を取るべく、足を止めて迎撃の構えを取った。

 一体目のゴブリンが木の棒切れを振り回して近づいて来た。

 それを剣で勢いを殺さないよう、横に反らし、すれ違いざまに剣を胴体に叩きつけた。

 ゴブリンは、剣に切り裂かれ、そのまま体勢を崩しながら、前に倒れこんだ。次のゴブリンは、短槍を突かずに、上下に叩きつけるように動かしながら、突進してきた。武器を正しく扱う知能まではないか。

 この2体が連携し、慎重に懸かってきたら厄介であったが、何の考えもなく、敵を叩きに来たので、短槍を跳ね除けて、肩口から袈裟懸けに切り倒した。

 2体があっけなく倒されると3体目は、臆して足を止めようとしたが、勢いを殺せず、棒立ちになるように俺の前に躍り出たため、そのまま首を刈るように剣を振り抜いた。

 4体目は、3体目が倒される前に踵を返して、元の方向に逃げ帰ろうとしたため、逃がさないように魔法を使った。


 「アースニードル。」


 するとゴブリンの足元に土の突起が生え、それがゴブリンの足に突き刺さり、転倒させた。

 これで、魔法は使えて単体向けの攻撃魔法一回くらいか。

 もう探査魔法を使うと、それも攻撃魔法も使えそうにないか。俺は、魔力残量を気にしつつ、倒れて暴れているゴブリンに近づき止めを刺した。

 魔力を回復したいが、外からゴブリンが戻ってくる可能性も捨てきれない、やはり、コロニーの制圧を先にするべきだ。


 さて、あと4体、どう戦うか。

 先程の部屋の扉の前に立つと隙間から中の様子を確認し、中に気配がないのを確認する。

 特に気配は感じられないので、先程投げたナイフを回収し、部屋の中に入っていった。

 中には、薄汚れた木箱の上にゴブリン達の食べ残しが置いてあり、床にも腐臭がする古い食べ残しが散乱していた。そして、入り口の反対側には、入り口の扉と同じように隙間だらけの扉があった。そちらからは、ゴブリンがこちらに来る気配はなく、恐らく奥で待ち伏せをしているのだろう。

 奥の連中は、多少頭が回るか。だが、数は残り4体、落ち着いてかかれば、やれるはず。俺は、自分を落ち着かせるように一呼吸し、腐臭に不快感を抱きながらも、慎重に反対の扉から奥に続く通路に足を踏み入れていった。

 通路は、すぐ突き当りになり、そこに人が作ったものを持ってきたのだろう、先程の扉とは比べ物にならない頑丈そうな扉が設えてあった。

 向こう側の空間の大きさは不明、魔力に余裕があれば、突入前に探索魔法とスタンクラウドを撃ち込むところだが、…。そう考えてる途中に扉に目をやると扉自体は丈夫だが、備え付けはいい加減なことに気付いた。

 よし、これを使おう。そう考え、扉に手を掛けると、体を扉にぶつけて、扉を盾代わりにするよう突入した。

 扉を盾にしたまま中に突撃すると扉に数発、石のようなものがぶつかる音がした。

 投石の準備をしていたのか。

 咄嗟に一度立ち止まり、扉に体を預け覗き込み、中の広さを確認する。

 ゴブリンは奥に広がるように4体、そこまでの距離は意外と広く5メートルくらい。

 よし、このまま扉を盾代わりに進む、途中また、数発石が投げつけられるが、すべて扉で防ぎ切った。

 あとゴブリン達まで、2メートルくらいの所まで近づくと、扉をそのまま正面に突き放し、自身は、右斜めに体を向けた。

 中央に居た2体のゴブリンは、扉をよけるように左右に避ける。左右にいたゴブリンも扉に目が行き、避けた中央のゴブリンが自分たちの方に来るのを避けようと体を動かす。右にいたゴブリンは、丁度俺の前に立ち塞がるように体が投げ出された。そのまま剣を一閃、そのゴブリンを切り捨てると、中央から右に避けて来たゴブリンの正面に回り込み、剣を突きさすように突っ込む。ゴブリンは、投石のため、武器を手にしておらず、その剣を防ぐ手段がないまま、剣の餌食となって息を引き取る。

 そのゴブリンを足で蹴り倒しながら、剣を抜き、残り2体のゴブリンと対峙する。

 残りのゴブリン達は、慌てて壁に立てかけてあった武器を手にしてこちらに身構える。それぞれの武器は手斧と棍棒、小柄なゴブリンには適切な武器だ。

 手斧を持ったゴブリンがこのコロニーのリーダーなのだろう、何か騒ぐと、棍棒を持ったゴブリンをこちらに突き飛ばして来た。

 近づいて来たゴブリンが、大振りに振りかぶった棍棒を、俺は、体を横にして躱すと、剣を下から上に振り上げるようにして、ゴブリンの体に叩きこんだ。

 そして、次のゴブリンに対処すべく、そちらに目を向けると、手斧を投げつけてくるのが見えた。俺は、大きく体制を崩しながら倒れこんで、その一撃を躱し、倒れこんだ勢いを利用し、体を2回転させ、距離を取って剣を構え直した。


 だが、ゴブリンは、こちらには向かってこず、敵わないと判断したのか、出口に向かって走り出していた。

 おい、こんな最期じゃ、リーダーとして締まらないだろ、俺は、逃げ出したゴブリンに悪態をつきながら、ゴブリンを追いかけた。

 魔法で仕留めることも考えたが、外からまだゴブリンが戻ってくる可能性も考慮して、投げナイフを、動きを止めるべく、投げつけた。お互い走っているうえ、相手は、体を大きく左右に振りながら体を動かして移動しているため、最初の2投は、当たらずに壁に突き刺さった。

 投げナイフの腕をもっと上げないと、ゴブリンのような格下でなく、もっと強い敵だったら、苦戦するな。当たらないナイフへの苛立ちを抑えるようにするため、そんなことを考えつつ、更にナイフを投げた。

 3投目にして、やっとゴブリンの背中に命中した。その頃には、2戦目にゴブリンと交えた通路まで来ていて、逃げたゴブリンは、ナイフに当たって、態勢を崩し、倒れているゴブリンにつまずいて倒れこんだ。

 俺は、そのままゴブリンとの距離を詰めるべく、走っていった。ゴブリンは、俺が近づいてくるのに気づくと背中のナイフを抜くのを諦め、通路に落ちている小石を手あたり次第に投げつけて来た。そして、地面に落ちている短槍に手が当たり、それを手に取ると、倒れたままの姿勢で、それを身構えた。

 しかし、倒れたままでは、足の踏ん張りも利かせられない、剣で、切っ先を払うと簡単に短槍が明後日の方向に向いてしまった。ゴブリンは、俺を見開くような目で睨みつけるが、最早対抗手段はなく、そのまま喉元に剣を突き立てられ、絶命した。


 俺は、コロニーのゴブリンを倒し切ると、入り口近くまで一度戻り、探索魔法を唱え、周囲に敵がいないのを確認すると、倒したゴブリンから魔石を剥ぎ取り、皮袋に入れ、背負い袋から、背負子を取り出し、金属製の武器を乗せた。くず鉄でも、売ればいい金額になる。金属特に鉄は貴重なのだ。

 他にも物色したが、結局金目のものは見つからなかった。

 ゴブリンも、1日かけて張り込んだが、他に戻ってくることもなく、本当にできたばかりのコロニーだったのだろう。特にお宝もなく、魔石とくず鉄と言った最低限の収穫ではあったが、コロニーを潰すと言う戦果を引き下げ、街に戻ることにした。


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