サプライズパーティーをはじめましょう
「あの、私からもいいですか」
発した私に、正純さんと菜々さんの目が向く。
「私、沙雪さんのご依頼で派遣されてきた、家政婦の白菊茉優と申します。急にあやかしだなんて言われて、混乱されるのもよくわかります。私も、そうでしたから。けれどどうか、沙雪さんの言葉を信じてあげてください。そしてどうか、怯えないでください。私の知るあやかしは皆、優しくて頼りになる方々ばかりです。あやかしでも、人間でも。どちらなのかなんて、その人を形作るひとつの要素でしかないと思っています」
正純さんと菜々さんが、私と沙雪さんを交互に見る。
と、正純さんが沙雪さんの両手を握りしめた。
「沙雪、大変なことを話してくれてありがとう。いっぱい悩ませちゃって、本当にごめん」
今度は菜々さんが沙雪さんの肩を抱き、
「ずっと近くにいたのに、沙雪が苦しんでいるの、気づいてあげられなくてごめんね。沙雪は私が落ち込んでたり悩んでたりしたら、すぐに気づいてくれるのにさ」
「二人とも……信じてくれるの?」
「だって、嘘をつきたいんなら、わざわざこんな"嘘かも"って思えるような話にしないだろ。あやかし……妖怪ってことだよな? 俺は今までお化けすら見たことがないから、ちょっとまだ実感が沸かないけれど……。沙雪がこんなにも泣いて話てくれたんだから、俺はそのまま、受け止める」
「正純さん……」
「先祖がなんだろうと、沙雪は沙雪だってことに変わりないよ。冬でも寒くないとか、ちょっと羨ましいなんて言ったら、気分悪い?」
「菜々……ううん。私もね、寒くないのは楽だなって思うこと多いもの」
くすくすと笑い合う二人に、正純さんが目元を和らげる。
(うまく和解できたってことで、いいんだよね)
よかった、と安堵の息を零した刹那、ピンポン、と部屋に呼び鈴が響いた。
不思議な顔で立ち上がった菜々さんがインターホンを操作すると、
『開けてくれ~~』
『あーけーてー!』
「マオ!? 風斗くん!?」
気づけばいつの間にか、二人の姿がない。
上がってきた二人はガチャリとドアを開けて入ってくると、
「その様子だと話はまとまったみたいだな。んじゃ、始めるぞ!」
「はじめるって、なにを」
戸惑う菜々さんに、風斗くんがビニール袋を抱えながら、
「ママのおたんじょうびパーティー!」
「え……?」
「飾り付けはある、ケーキもある。プレゼントだって揃ってるんだ。なら今すぐ"サプライズパーティー"をしても問題ないだろ? ということで、風斗と一緒にコンビニで適当に買ってきたから、いい感じに並べてくれ」
「菜々ちゃーん、つくえのこれどかしてー」
「え!? あ、うん! って、風斗ちょっと待って乗せないでっ!」
バタバタと風斗くんに駆け寄った菜々さんが、一緒に飾ろと風斗くんとカーテンに装飾を付け始める。
マオは「これもな」と唖然としている正純さんにビニール袋を押し付けて、隣で立ちすくむ沙雪さんに視線を向けた。
「風斗はなにも、聞いてないからな」
「!」
「言うも言うわないも、今度は二人で決めればいい。あの子は、キミたち二人の子なのだから」
虚を突かれたような顔をして、正純さんと沙雪さんが顔を見合わせる。
それから二人は示し合わせたように深々と頭を下げ、
「そうします。何から何まで、ご迷惑をおかけしました」
「本当にありがとうございました。お二人とも。この御恩は一生忘れません」
「そんな、私は大したことは……! 頭を上げてください」
「なーに言ってんだ、茉優。茉優がいなきゃ、今頃この二人は大修羅場の離婚騒動だったんだぞ」
そんなこと、と反論しようとした刹那、
「茉優さん」
沙雪さんが、そっと私の両手を掴み上げる。
「茉優さんにとっては普通のことなのかもしれませんが、私にとって、茉優さんという"人間"の方に秘密を打ち明けられたというのは、長いことせき止めていた川を通したも同然でした。茉優さんが真摯に寄り添ってくださって、背を押してくださったから、二人に向き合おうと思えたのです。……臆病なままだったなら、たとえ呼ばれても、来ることなど出来ませんでした」
「沙雪さん……」
「勇気をくださって、ありがとうございました」
微笑む沙雪さんの顔は、これまでになく晴れやかで。
見上げたマオが同意するように頷いてくれたのを見て、私も託してくれた想いを、受け止めようと。
「ありがとうございます、沙雪さん。それと……少し早いですが、お誕生日、おめでとうございます」
「! ありがとうございます。忘れられない誕生日になりました」
そう言って微笑む沙雪さんの顔は、これまでにないほど幸せに満ち溢れていた。
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