休日の迷子

 あまりにも天気が良かったので、散歩をしていたらいつの間にか迷ってしまった。どうやら適当に歩いているうちに、近所から離れた場所に出てしまったらしい。取り敢えず進んできた方向から戻ろうとして、踵を返す。少し歩いたところで、見覚えのある景色が見えた。その方へ歩いていくとさっきの場所に戻る。どうやら辺りを一周してしまったみたいだ。おかしいなあ。

 どうしようか考えている時にふと、携帯を持っていたことを思い出した。ここからマップアプリを使えば家まで戻れるんじゃないだろうか。まずは今居る場所を確認するべきだ。アプリを開いて「現在地」と打つ。なるほど、どうやら私は自宅からニ駅近く離れたところにいるようだった。現在地から家までの経路を検索すると、意外と分かりやすい道が続いてそうだ。駅も十分程歩けばあるらしいが、ここまで歩いてきたんだから帰りもきっと大丈夫なはずと信じて歩いて帰ることにした。

 とはいえ、一人寂しく帰るのも嫌なので先輩に電話をかけることにする。休みの日なのできっと家で読書に勤しんでいるだろうけど、多分出てくれるはずだ。先輩はなんだかんだ優しいので。コール音が数回鳴ると、電話が繋がった。

「もしもし。先輩ですか?」

「うん。珍しいな、どうした?」

「家に帰るまで電話してもらってもいいですか? 迷子になりました」

「お前、また迷子か」

 呆れている先輩に、好きで迷子してるわけじゃないですと言いながら通話を続ける。そもそも私が道に迷うのは月に一度あるかないかの話で、いつもなら迷ったら人に道を聞いたりなんなりするけれど周りに誰も通らないんじゃ仕方がない。そもそも、今日だって迷うとは思っていなかったのだ。近所をぐるっとまわって帰る予定だったんだから。

 他愛も無い話を重ねながら、アプリが案内する道を進んで行くと見覚えのある景色にやっと辿り着いた。うちの近所に着いたらしい。この調子だとあと数分で帰れそうだ。しかし、先輩と話していると時間が過ぎるのが早い。もうちょっとだけ話していたいという気持ちを抑えつつ、お礼を言うことにした。

「じゃあそろそろ切りますね。ありがとうございました」

「ああ、気を付けて帰れよ」

 その言葉を聞いて電話を切る。突然掛けたのにも関わらず、文句も言わないで付き合ってくれた先輩に心のなかでもう一度お礼を言う。優しい人だよなあと思いながら、歩き慣れた道を進む。そしてようやく家に辿り着いた頃には日が暮れ始めていた。

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