第105話 本能

今宵

天空に

満ちた月が煌めいたなら


あたしはひとり

あの山の頂きに上がり

満月の光を

からだいっぱいに浴びよう


そうして

今夜だけは

隠していたあたしに戻るの


心の奥の奥に眠らせていた

白銀の狼に戻るわ


そして

思い切り遠吠える

力の限り

心のままに




この声が


どうか


あの人に届きますようにと




あの人には

この声は言葉には聴こえない


だから

あたしは

今夜だけは思い切り

愛を叫ぶわ



狼に戻って

ほんの少しの間だけ

あたしを解放するの



夜空を

月の光とあたしの恋心で

いっぱいに満たすわ


本能のままに


ああ、

あたしの本能が求めるままに

隠していた欲も発しておこうか




『きみが欲しい』と







月が姿を隠して

朝になったら


足元に落としていた

ニンゲンの皮を


すっかり冷えてしまった皮を

また

被らなくちゃね




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