48話。幼馴染、村のみんなにロイの貢献を訴える

【聖女ティア視点】


「まさかまさか、新しい聖女が見つかったの? って、ことは【聖竜機バハムート】の主は……」


 私は嫌な予感がした。

 下級悪魔を全滅させた聖なる炎──それは、紛れもなく私より、はるかに格上の聖女の力だった。

 ヘルメス様の【ドラウプニルの指輪】を使っても、私じゃ絶対にこんな威力を発揮できないわ。


「聖女であることが、私の最大の価値だったのに、もっとスゴイ聖女が現れたら、私は無価値になっちゃうじゃないの……」


 私は密かに唇を噛んだ。

 機神ドラグーンが地上に降り立ち、開いたハッチからヘルメス様とふたりの少女が降りてくる。ヘルメス様が抱きかかえているのは、妹のシルヴィア。もうひとりは……


「て、天使だ……!」


 村人たちが老若男女問わず、その少女に魅力された。後光が差すような美少女だわ。

 単に容姿が整っているのではなく、何か魂が惹きつけられるような不思議な魅力を感じる。

 ……って、完全に負けているんじゃないの、私!?


「【オール・ヒール】」


 その少女が声を発すると同時に、神聖な光があたりに満ちた。これは強烈な回復魔法の輝きだわ。

 疲弊しきった私の身体に、一気に活力がみなぎる。

 重傷を負って地面に転がっていた人々が、呆けた顔をして身を起こした。


「ああっ! 父ちゃんの怪我が治った!?」

「あれっ? お花畑が見えていたはずじゃ……」


 まさか、この場の全員に回復魔法をかけたの?


「奇跡じゃ! みなの傷が癒えておる! ワシの長年の腰痛も治ったぞぉおお!」


 村長がその光景を見て、感涙していた。

 す、凄すぎるわよ。


「マスター、やはり問題はありません。王都での不調は、魔法を使い慣れていなかったための一時的なものだったようです」


 少女に話しかけられたヘルメス様は、なにやらホっとした様子だった。

 彼は鞄からシルヴィアの魔導車椅子を取り出す。あれは別空間に通じていて、いくらでも物が収納できる鞄だわ。


 まるで、お姫様でも扱うように、ヘルメス様はシルヴィアを車椅子にそっと乗せる。

 あーっ、あんなに抱き合っちゃって、うらやましぃいいい!


「ありがとう、お兄ちゃん! へぇ、ここがお兄ちゃんの……」


 もの珍しそうに周囲を見渡したシルヴィアの声は、大歓声に掻き消された。


「悪魔を払う聖なる力に、回復魔法! あなた様は、聖女様では!?」

「聖女様ばんざーい!」


 みんなが少女を褒めたたえる。

 ……いや、私も聖女なんだけどね。一応、私もこの村を守るのに、貢献したんだけどね。

 あっちの娘の方が、かわいくて力も上だけど……


「肯定です。私はマスター・ヘルメスによって創造されたホムンクルス。【人造聖女】ルーチェです」

「ホムンクルス……?」

「人の母より生まれたのではなく、マスターの錬金術よって生み出された人工生命体です」

「え、えっと、何をおっしゃっているのか……とにかくありがとうございました。聖女様!」


 村人たちはルーチェの言葉の意味が分からず戸惑っていた。

 私は錬金術の知識が多少あったからわかったけど……もうビックリ仰天だわ。


 ヘルメス様ってば、生命どころか聖女を錬金術で創り出してしまったというの?

 それはもう完全に神様の御業だわ。すごすぎるわよ。


「ティア、みんなをよく守ってくれた。ありがとう。さすがは聖女だな」

「えっ、あっ……ありがとうございます!」


 憧れのヘルメス様に突然褒められて、私は動転してしまった。嬉しくて、心臓が跳ね上がる。


「そうだ。ティアちゃんもすごかったぞ!」

「まさに聖女。万年Eランクのロイなんかとは違って、俺たちの誇りだな!」

 

 それを切っ掛けに、村人たちが口々に私を賞賛してくれる。


「そういえば、ロイとは別れたんだって? まあ、アイツとティアちゃんとじゃは釣り合わないよな!」

「ち、違うわよ! ロイがヘルメス様を呼んでくれたから。ロイがスゴイ魔導具をくれたから、みんなを守れたのよ!」


 私は決まりが悪くて思わず叫んでしまった。

 みんなを守りきれたのは、ロイのおかげなのに、アイツが正当に評価されないなんて、おかしいわよ。


「あの、ヘルメス様、私の幼馴染にロイって、錬金術オタクがいるんですが……ソイツはいつも陰ながら私を守ってくれたスゴイ奴なんです!」


 いきなり、何を言うのかとヘルメス様が、仮面ごしに驚いたのがわかった。

 私は捲し立てる。

 ロイがすごいヤツだってことを、ヘルメス様やみんなに分かってもらうのよ。


「壊しちゃったけど、魔法の効果を高めるトンデモナイ指輪も作っていて! ロイはきっとスゴイ錬金術師になりますから、ヘルメス様のお仲間に加えてあげてくれませんか!?」

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