第9話 ホワイトなホワイトラブリー王国

『ホワイトラブリー王国にモンスターを寄せ付けぬ結界を展開したまえ』


 聖なる力を右手に集め、同時に手を伸ばしてから一応詠唱した。

 この国では最初だし、久しぶりにゼロから始めるわけだから念入りにした。


 だが、聖なる力を放った感覚はあるのだが、疲労感がまるでない。

 もしかして、無意識に威力を弱めてしまったのか……。


「すごすぎです~!!」


 聖女の一人が私に向かって目をギラギラさせながらそう言ってくる。


「これだけの力を放ちながら平然とした状態でいられるなんて……私が同じことをしようとしたら気絶しちゃいますよ~。むしろこんな膨大なエネルギーの放出すらできません」


 自分では気がつかなかったが、ちゃんと力は放出できていたらしい。

 だが、だとしたらどうして疲労感がないのだろう。

 ずっと休養させてもらった効果なのだろうか。


「ふむ、我が国一番の聖女マリアがそう言うのだ……。どうやら我々が想定していたよりも、更にとんでもない力をイデアは持っているのだろう」

「たまたま調子が良かっただけだと思います……」

「聖女様は~、今まで毎日限界まで放出していたと聞きましたが……」


 マリアが不思議そうな表情をしながら視線を向けてくる。

 口調ものほほんとして可愛らしくて顔も可愛い。

 思わずギュッとしたくなってしまうが、自重しておく。


「毎日ですかっ!? ホワイトラブリー王国では一週間に三回だけですよ……!?」

「むしろそんなに継続していて身体が無事だったことに驚きです」

「どうやったらそんなに莫大な力をつけられるのですか!?」


 聖女たちからの質問責めが続く。

 今まで比べる相手がいなかったから、私は気がつかなかったのかもしれない。

 みんなが口を揃えて驚いていることから察するに、私の聖なる力は結構ある方なのだと初めて知った。


「毎日発動しないと生きていけなかったからね……。休めばその分年俸下がっちゃうし」

「「「「「「「ひどっ!!」」」」」」」


 聖女たちは私に同情してくれているようで、それだけでも救われたような気分だった。

 重要なのは、私がしっかりと結界を作れていたかどうかだ。

 これで薄っぺらい結界が出来上がっていたとしたら笑いものだ。


 確認しに行こうと思った矢先、部屋の外からバタバタと走る足跡が聞こえてきたと思ったら、勢いよくドアが開いた。


「陛下!! 会議中申し訳ございませんが、一大事です! 今まで聖女様たちが展開してくださっていた結界の内側に更なる結界が!」

「ほう……宰相がここまで驚くとは……」

「しかも、非常に分厚く、それなのに光をしっかりと通すような不思議な結界です! 一体誰が……」


 全員が私に視線を向けてきた。


「彼女、聖女イデアだ」

「おぉ……では噂は本当だったのですね……」


 また噂か。

 一体、この国では私の噂がどんだけ広がってるんだよ……。


「これでイデアの実力も証明された。ところで念のために聞くが、これだけの力を放ったのはありがたいが身体は大丈夫なのか?」

「はい、全然。私自身でも不思議だなと……。ブラークメリル王国にいた頃より気合いが入っていて、むしろ力を使った気がしたのですが、それでも元気なんですよ」

「だから言ったであろう。休む時は休む。休暇という仕事がどれほど大事な仕事なのかを……」


 陛下は自信満々にそう告げてくるが、私にはイマイチ理解ができないままだった。


「だが、イデアばかりに負担をかけるわけにはいくまい。平等に作業を与えたいのだ。そこでイデアに問いたい。聖なる力というのは訓練次第で上昇させることは可能なのか?」

「可能ですね。私もブラークメリル王国の前国王陛下から極端にしごかれましたからね……」


 あの訓練は思い出したくない……。

 いかにも嫌だったことが顔に出てしまったようで、聖女たちが怯えはじめた。

 クラフト陛下が聞いてきた意図は理解していたため、私はすぐに弁明をする。


「あ、でも私の場合は無茶振りを強要されていただけで……。本来の訓練の仕方であれば死にそうになるようなことはないですよ」

「「「「「「「死……」」」」」」」


 全く弁明できていないじゃないか。

 最初に出した嫌な顔で深い印象を与えてしまったのかもしれない。


「ふむ……。イデアよ、彼女たちに聖なる力を向上させるよう指導することは可能か?」

「私がですか?」

「我が国では残念ながら聖女の力について理解あるものがいない。むしろブラークメリル王国の情報網が素晴らしいからあの国の元王は知っていたのだろう。つまり、現状イデアにしかできないのだよ」

「わかりました」


 聖なる力の解放と、聖女たちへの訓練か。

 まぁ少し過密スケジュールになるかもしれないけれど、ブラークメリル王国にいたときよりは比べ物にならないほどマシだ。

 それに、今の私は仕事云々と言うよりも、助けてくれた恩返しとして協力したい気持ちの方が強い気がする。

 クラフト陛下が望まれるのであれば、喜んで引き受けたい。


「では、イデアは週に二日聖なる力で結界の維持、週に二度彼女たちへの指導を頼みたい」

「はい? 残りの三日は?」

「……むろん自由に決まっているだろう……」


 自由。

 こんな言葉を聞けたのは生まれて初めてかもしれない。

 嬉しさのあまり、ニヤけた表情を抑えることができなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る