最終章:佳奈と哉太
1・現在の佳奈
佳奈は、久々に友人女性と例の喫茶店で待ち合わせをしていた。
近況報告を兼ねての食事会だ。
「佳奈、ひさしぶり」
遅れてやってきた彼女は、相変わらず美人で元気そうに見えた。
「忙しいのに、ありがとう」
「ううん。アイツとやっと終われたって聞いたら、お祝いするっきゃないでしょ?」
彼女は仕事が忙しい中、わざわざ佳奈の為に時間を作ってくれたのだった。
「今日はゆっくりできるの?」
と佳奈が問うと、彼女はピースサインを作って見せる。
「そっか、良かった。ところで、この店の店員さん変わった?」
佳奈には先ほどから気になっていたことがあった。
「え?」
彼女は佳奈の質問に明らかに動揺したように感じたが、すぐにその表情も消える。
「全然気づかなかった」
という言葉に佳奈は違和感を持った。
しかし触れられたくないことなのかと、それ以上その話に触れることは出来なかった。
「で、あの彼とはどうするの?」
彼女は某メッセージアプリでのやり取りで、哉太のことも知っている。
「どうもこうもないわ。あれからもう一年以上経っているんだし」
哉太とは喧嘩してから一方的に連絡を絶った。
互いに酷いことを言い合い、すれ違ったまま。
せめて酷いことを言ってしまったことについては、謝罪したいと思ったこともあったが。一方的に連絡を絶った上、今さら謝罪されたところで相手も困るだけだろう。
「そっか。佳奈はもうその彼のことは好きじゃないの?」
「うーん。前にも言ったけど、彼の変わり方は怖いなって思う。わたしが好きだったのは、わたしに対して恋愛感情を持っていなかった彼、だったんじゃないかなって思う」
好きになった途端、態度の変わる人はたくさんいる。
それは、当たり前のことなのかもしれない。
その心理の中には、好きだから大切にしたいという陽の気持ちもあれば、好きだから嫌われたくないという、どちらかと言えば陰の気持ちも。
ただ、その時人がどう動くかが問題なのだ。
嫌われたくないから相手に合わせるのか、自分の思い通りにしようと支配しようとするのか、ただ自分の本当の姿を隠すのか。
誰しも好きな人には好かれていたいものだ。
だが間違った方向に行けば、確実に相手の心は離れていくだろう。
最悪、我を見失いストーカー行為に走ってしまうこともある。
恋とは人を簡単に狂わせてしまうモノなのだ。
「意外と相手のほうは、今でも佳奈のこと好きかもよ?」
「え?」
ちゃんと終わった関係は、その時は辛いかもしれないが引きづることはない。しかし、曖昧なまま終わった恋はいつまでも深く心に残り引きづってしまうモノだと彼女は言う。
「もし、そうだったらどうする?」
彼の幸せは願っているが佳奈は、その選択肢について考えたことはなかったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。