第344話 目覚め

 ボクは、妻たちに手を引かれるように光の元へと向かって歩き出した。


「リューク!」


 目を開いたボクを抱きしめたのはシーラスだった。


「シーラス? おはよう。朝から元気だね」

「ふふ、のんきなことを言うのね。随分と寝ていたのよ。もう目を覚まさないかと」

「リューク様!」「リュークにゃ!」


 ミリルとルビーが、抱きついてきた。


 全く、二人とも朝から、元気だね。

 ボクは久しぶりに体から倦怠感が抜けて、清々しい気分だ。


「二人ともおはよう。凄くゆっくりと寝た気分だよ」

「それはそうよ。あなたは二週間も眠りっぱなしだったのよ」

「えっ? 二週間?」

「そうよ。みんな心配していたのよ」


 シーラスは呆れた様子で、ボクを嗜める。


「そうか、色々と迷惑をかけたね。それで? 迷宮都市の事件は解決したのかい?」

「それが、今はノーラが裁判官となって、犯人探しをしているところよ」

「裁判?」


 ボクは状況がわからなくて、これまでの二週間で起きた出来事について説明を受けた。


 重要参考人として、召喚された。


 聖女ティア。

 教皇ジェルミナス・アッカーマン。

 ディアスポラ・グフ・アクージ。


 三人が重要参考人として召喚された。

 そこから、ノーラを中心に尋問を初め、事件を解決しようとしているそうだ。


「なるほど、クロマの働きで教皇にたどり着いたんだろうね。だけど、今のままでは聖女ティアが勝つことはできないだろうな」

「そうなのですか?」

「ああ、聖女ティアは裏がない人間なんだ。腹黒いことをしようとしても、底が浅く。良い意味で正直者でしかない。逆に教皇は海千山千の策士だ。姿を見せたと言うことは、全ての準備を終えてきているのだろう。クロマによる調査すら、逆手に取られている恐れがあるな」


 爽快感を感じる頭は、いつも以上にスッキリしていて頭の回転もスムーズだ。


「リュークなら、どうにかできるのかしら?」

「うーん、ボクの予想では、アイリス姉さんが動いていると思っていたんだけどね」

「アイリスさんですか?」


 この状況を覆せるほどの策略家は、アクージ家の手綱を握れるアイリス姉さんだけだ。

 ボクがやるとすれば、状況を掻き回すことぐらいだろう。


「それも面白いかもしれないな。服を用意してくれるかい?」

「行かれるのですか?」

「ああ、少しだけノーラやエリーナの手助けをしようと思う」

「かしこまりました」

「待っているにゃ!」


 シーラスが、主として会話をしてくれていたが、ボクが服を求めると、ミリルとルビーの二人が動き出した。

 こういうところはメイド時代の習慣があるのだろう。


「主人様!」


 代わりに入ってきたクウが驚いた顔を見せる。


「おはよう、クウ。お茶を淹れてくれるかい? 君のお茶が飲みたいんだ」

「よっ、喜んで」

 

 クウは瞳に涙を浮かべ、お茶を淹れてくれる。


 ミリルとルビーが服を用意してくれた。


 本日は正式な場に出るために、真っ白なスーツに袖を通す。その上から白いマントを羽織って、バルニャンに髪の毛すらも覆い隠せる白い仮面に変身してもらった。

 ボクという存在が完全にわからなくなるように印象を変える。


「ふふ、リュークに白は珍しいわね」

「本当にゃ! いつもは、紫か、黒っぽい衣装が多いのにゃ!」

「だっ、だけど、素敵です! 凄く似合っています!」

「ご主人様は、いつもカッコいいのです!」


 四人から絶賛され、廊下へ出ればヒナタが待っていた。


「リュッ、リューク様! お目覚めになられたのですね」

「シーラスから事情は聞いた。ノーラを励ましてくれたそうだね。ありがとう」

「いえ! かっ、家族ですから」

「ああ、ボクはノーラの夫だ。ヒナタの義従兄妹になる。よろしく頼む」

「はい!」

 

 満面の笑みを作って返事をしてくれるヒナタの頭を撫でてやり、ボクは屋敷を出た。


 空を飛び上空から広場へと向かう。


 広場では、迷宮都市ゴルゴンで起きた一連の事件を解決するために、大勢の人々が集まっていた。


「あそこだな」


 空から見れば、大広場で集まった今回の重要参考人たちの顔が見えた。


 エリーナが反論しているようだが、教皇がのらりくらりと言葉巧みにかわしている様子が窺える。

 アクージは、不適な笑みを浮かべ。アイリス姉さんは腕を組んでタイミングを見計らっているようだ。


 顔をハッキリとは覚えていないが、十二使徒の三人は各々が表情を作っている様子も見える。


 だが、肝心の人物であるクロマの姿が見えない。


「どうやら、何か仕掛けを施しているようだな。今はまだ、ボクが掻き乱すタイミングではないようだ。アイリス姉さんのお手並み拝見だね」


 上空から見ても、現在は教皇陣営が優勢であり、聖女ティアが明らかに犯人になりそうな雰囲気が作られていた。

 だが、アイリス姉さんに焦っている様子は全く見えない。


「どんな手立てを考えているのか楽しみだね」


 ボクはワクワクした気持ちで、一観客に徹することにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき。


どうも作者のイコです。


書籍の発売日が決まりました。

2023年、11月10日に書籍発売決定です!


レーベルは、『本好きの下剋上』で有名な《TOブックス様》から出して頂くことになりました。

カバーイラストなどは、近況ノートに載せたいと思います。どうぞ見てみてください。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!!!

書籍化も最終巻まで出せるように、WEB版を頑張って書いていきますので、今後もよろしくお願いします(๑>◡<๑)


いつも応援ありがとうございます!!!!

感謝感謝感謝です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る