第334話 いざ、塔のダンジョン 6

 ボクがノーラの攻撃を受け流していると、ダンが突っ込んできた。さすがは聖剣の力だな。回復も早い。


「オラっ!」


 今まで見たこともないほど眩い光を放った聖剣をダンが振り下ろした。


「くっ!」


 ノーラの《闇》の属性魔法が、ダンの聖剣によって切り裂かれて吹き飛ばされる。

 相性と言えば良いのだろうか? ノーラの《闇》とボクの《怠惰》は同じような性質を持つ。


 そのため、ぶつかり合っても均衡してしまっていた。

 互いの魔力量で優劣が決まりのだが、今のノーラは暴食の腕輪から受ける影響によって、魔力量が無限に近い。


 それはボクが編み出した魔力吸収と近い作用だ。


 だが、ダンの聖剣は、《聖》と《光》の性質を持つ。


 それは闇の正反対であり、大罪魔法に対抗する力を持つ。


「どうんなもんじゃい! それなとな、リューク!」

「なっ!」

「お前が死んでなくて、俺はスッゲー嬉しい! 初めて本気のお前と共闘することができることは、もっと嬉しい!」


 ふん、やっと気づいたのか。


 ハヤセを見るが、首を横に振る。

 どうやらボクの戦い方を見て、ボクにたどり着いたということか? バルのことも見せているんだ。

 

「もっと早くに気づけよ。単細胞」


 ボクは空中でダンの肩を足場に、ノーラに向かって飛来する。


「うぉおおおおお!!!!」


 ノーラがすぐさま体を修復して、ボクを迎え撃つ。


「ノーラ、最初ほどの脅威を感じなくなってきたぞ。随分とエネルギーを消費してきたんじゃないか?」


 闇の爪を突き刺してくるが、ボクはそれを避けてノーラの着物を掴んで投げ飛ばした。


「ガハッ!」

「一度で終わると思うなよ!」


 今のノーラを甘く見てはいけない。

 攻撃を与えられるだけ与えないと効果がない。


「バル! ボクと変わって攻撃を続けろ」


 体力が減少すると、どうしてもボクの集中力を鈍らせる。なら、頭を休ませるためにバルに体を預けて、ラッシュを続ける。


「うぉおおおお!!!」


 叫ぶ、ノーラの俄然に真っ黒な球体が現れる。


 全てを飲み込む堕天使を倒した魔法から飛び退く。


「何かを飲み込むまで、終わらないっていうならこれでも食っていろ!」


 闇の太陽にボクは《怠惰》をぶつける。

 動きはバルに任せて、魔法に集中すれば、これぐらいは他愛ない。


 それにボクが正面から意識を奪っていれば。


「オラっ! 俺を忘れるなよ!」


 ノーラの片腕をダンが切り裂いた。

 今までは、攻撃をしてもノーラの腕を切り裂くことはできなった。

 明らかにノーラの動きに精彩を欠くようになってきた。


 それは、ノーラのエネルギーが安定し始めているということだ。


 ノーラはすぐに腕を再生させる。

 ボクが研究の上に編み出した再生魔法を簡単に行われてしまう。


「つくづく出鱈目な強さだな」

「マジもんの化け物じゃねぇか!」

「ダン、極大魔法を使う。時間を稼げるか?」

「任せろよ。1分でも一時間でも稼いでやる!」

「いいだろう」


 ボクは初めて《怠惰》の枷を外す。

 大罪魔法は、今まで初歩の魔法しか使ってこなかった。

 それは、ボク自身が大罪魔法を使うことに恐怖していたからだ。


 魔力を高めていく。



《sideダン》


 やっぱりリュークだった。

 リュークが生きていたんだ。

 必死に喰らいつけ。


 置いてかれるな。


 俺はタシテみたいに賢くない。

 なら、どうする?


 戦いで示すしかない俺の価値を。


 リュークが俺に戦場を任せてくれた。

 これほど嬉しいことがあるかよ。


「グハッ! 強ぇえな!」

 

 ゴードン先輩は俺よりも遥かに強い。

 絆の聖剣がなければ何度も死んでた。

 だけど、俺はリュークと一緒に戦えているんだ。


「1分耐えてやったぞ! ブハッ!」


 腹に突き刺さる爪がイテェ!

 顔も体も、傷だらけだ。


「うぉおおおおおおお!!!」


 クソがボコボコだな、俺!

 それでも耐えてやるよ。


 俺らの世代は優秀だって、学園長が言っていた。

 それなのにいつも中心にはあいつがいたんだ。

 

 今の王国を、他の世界を動かしているのは、俺らの四年前の世代から俺たちだ。


 その中で俺はやっぱりお前がナンバー1だって思ってるぞ。


「リューク! ぶちかましてやれ!」


 全身から禍々しい魔力を放出するリュークに俺はゴードン先輩に抱きついて動きを止める。



《sideリューク》


《よう、主人様! やっと俺を使う気になったのか》

「黙れ!」

《くくく、お前は《怠惰》だ。つまりは俺自身だ》

「違う!」

《違わねえよ。いつも俺との戦いだ。お前の体は俺に飲み込まれるようになるんだ。次第に蝕まれていく感覚はどうだよ》

「うるさいって、言っているだろ! 今はボクに従ってもらうぞ」

《くくく、いいぜ。その分、お前は俺に削られることになるがな》

「……やってみろよ。これはお前(怠惰)とボクの戦いだ。ボクがお前を従わせてやる」

《それをしようとして飲み込まれた奴しかいねぇけどな。ああ、唯一いたな。そんなバカが》

「もう黙れよ」

《いいぜ。くれてやる! 俺様を召喚しやがれ!》


 ボクはごっそりと魔力が抜け落ちて、体が脱力する感覚を覚える。

 バルに体を預けていなければ、倒れてしまっていたかもしれない。


「ヌー」


 現れたのは、丸まって眠るクマだった。


「お前はどこまでも怠惰だな!!!」

「グオオおおおおお!!!!!」


 目覚めた悪魔がダンに動きを止められたノーラを吹き飛ばした。

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