第81話 マイドの覚悟
朝早くに扉が叩かれて、屋敷に来客が来たことを告げる。モーニングルーティーンをしていたボクの元へ、シロップが慌てた様子で駆け込んできた。
「主様!マイド様がいらっしゃいました」
「マイド?アカリか?」
「いえ、アカリ様のお父上様です」
「モースキー・マイドが?」
「はい」
ボクはバルに休息を言ってシャワーを浴びてからマイドの元へ向かった。
汗だくで行くのも悪いと言うこともあったが、急いで来たマイドにお茶を飲む時間を与えるためだ。
「すまないな。待たせて」
「いえ、こんな朝早い時間にお邪魔してしまい……すみません」
落ち着く時間を与えたはずなのに、マイドの顔色は青白い。
「何があった?」
「娘が……アカリが攫われました!」
落胆した様子で声を漏らしたマイドに、ボクは深々とソファーに座り込む。
シロップは顔を青白くして、口元に手を当てている。
「そうか……」
「なんでや!なんでそないに冷静でおれんねん!」
ボクの態度を見たマイドが立ち上がって怒りを表す。
先ほどまでの青白い顔よりか幾分かマシになった顔でこちらをにらみ付けていた。
「あんたはウチの娘を嫁にもろてくれるんやろ!なんでそないに冷静でいられるんや!ワシは、ここに来るまで気が気やなかった。
一晩経ってない言うても、今頃どんなヒドイ目に合わされているかわからへんねんで!アカリはあんたなら、リューク様なら助けてくれる。そんな目をしてたんや」
「大丈夫だ」
「はっ?何がや!何が大丈夫って言うんや!」
うるさい。というか説明がめんどうだ。
「マイド!」
めんどうなので、ボクは魔力を込めて威圧した。
「ひっ!あっ、すっ、すんません。アカリのことになると……せやかて、ホンマに何が大丈夫って言うんですか?」
「アカリに何かあればボクに分かるからだ」
「へっ?」
「アカリは髪飾りを付けていただろ?」
「……ああ、確かに最近お気に入りの髪飾りを付け取ったな」
「それが起動していない限り、大丈夫だ」
「すっ、すいません。もう少し詳しく説明してもらえへんやろか?」
ボクがクリスマスプレゼントした髪飾りには、ボクが付与した魔法があるため、アカリが本当に拒否をしているならその身を守るはずだ。
それが起動していないということは現在、アカリには何も起きていない。
「なるほど!アカリのこと思ってそこまでしてくれてはったんですね!!!すいません。そんなリューク様の気持ちを知らんとワシは一人で慌てて……決めた!ワシは決めましたで!」
「うん?」
来たときの元気の無さはどこにもなくなり、生き生きとしたマイドの瞳は決意が込められていた。
「今までは、アカリがなんぼリューク様のことを好きでもワシは商人として、負け戦には乗らんと決めとった」
うん?なんだか変なことを言い出したぞ。
負け戦?ボクは誰とも戦っていないぞ。勝ちも負けもない。
「せやけど……ワシは全身全霊をかけてリューク様をお支えさせて頂きます!!」
「いらん」
ボクは即答で断った。
完全な面倒事を持ち込んできているような気がしたからだ。
「ニシシシ。アカリに聞いとった通りや!!!リューク様。あなたは欲深い貴族社会で欲が薄い。
本来の貴族様やったら、ワシのような平民が貴族様の屋敷に明け方に頼み事にきてもうたら、代償を払う覚悟を持って来るんが普通ですわ」
貴族への頼み事は大商人であっても、その財を投げ打つ覚悟を持って行わなければならない。
それは、どうしようもない貴族と平民という身分の違いがあるからだ。
「リューク・ヒュガロ・デスクストス様」
椅子から降りて床に膝をついたモースキー・マイドが頭を下げて、頭の上で手を組む。
「あなた様は、我が娘を受け入れてくれた。
それだけでなく、自らの才覚を持って娘を守る手立てを与えてくださっていた。その最上の扱いに、このモースキー・マイド感服いたしました」
うん。なんだか凄く勘違いされている気がする。
カリンに作るついでに作っただけなんだよな。
しかも、カリンに付与するのを失敗しないように練習として……ハァ~成功はしているからちゃんとしたものではあるんだけどね。
「モースキー・マイドの名において、私はリューク・ヒュガロ・デスクストス様に全幅の信頼と忠誠をここに誓います。例えあなたが政敵に敗れることあろうと共に果てる道を選びましょう」
重い!全幅の信頼と忠誠ってマジでいらん!!!
政敵ってなんだ?敗れるも何も勝ちがないぞ!
責任とかしょいたくない。てか、さっき断ったよな?
「ボクは」
「皆まで言わなくても結構!!!もうワシの気持ちは決まりましたよって!!!リューク様の気持ち一つですわ!!!アカリのことはお頼み申します。ワシの力を存分に使ってくださいませ。道具でも、資金でも、人でも、全てご用意してご覧に入れましょう!」
うん。アカリの父親だよ。
啖呵も、人の話を聞かないとこも……強引さも……ハァ~まぁ嫌いじゃないけど……
「なら用意してほしいものがある」
「なんなりと」
「少しばかり綺麗で便利な道具。
それと奴の支援者を集めてくれる?出来るだけ多くお願い。
それとカリンが用意してくれている施設は知っている?」
「それは……なるほど……承知しました。大役を頂きこれ以上無い誉れにございます」
「はいはい。ボクはそのときが来たら動くから、後始末もお願いね」
「かしこまりました!それでは失礼!」
慌ただしい男だ。
指示を聞くと部屋を飛び出していった。
「アカリ様は本当に大丈夫なのですか?」
「まぁ、今はどこにいるのかはわからない。だけど、必ずそのときは来ると思うよ」
ボクはめんどうなことをしないといけないので、深々と息を吐いた。
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