第79話 誘拐

《Sideアカリ》


 ウチはダーリンのお嫁さんになったんや。

 なんやろなこの気持ち……メッチャ嬉しいねん。


 ちょっと今日はアカンな。


 発明に集中できへんわ。


「なぁオトン。カアさんと結婚したときは幸せやったん?」

「なんや藪から棒に、そんなん幸せに決まっとるやん!」

「そうやろな。ウチ、メッチャ幸せな気分やねん」

「そうか……ホンマによかったんか?」


 オトンは心配そうにウチを見る。

 せやけど、この気持ちに不安はない。


「なんやねん。何が心配なんや?」

「お前もわかっとるやろ。お前には、ずっとブフ家のシータゲ・ドスーベ・ブフ伯爵様が求婚してたやろ?」


 あの巨漢の伯爵様は……生理的に無理やねん。

 別に見た目が嫌とか……うん。嫌やわ。

 見た目が嫌なんもあるけど、なんやろな信用できへんと言うか、気持ち悪いって言うか、近づきたくないねん。


「せやかて、ウチはダーリンが好きやねんもん。ダーリンの妾になれて、メッチャ幸せなんやで」

「ハァ~ワシもお前をリューク様と何事もなく結婚させてやりたい。幸せなお前を見てれば分かる。だからこそ、今の情勢の中でリューク様派に付く決心もした。だがな、ワシらは商売人や!勝ち馬には乗るが、尻尾捲るのもはやないとあかん」


 オトンは商売人として大成功した人や、だから話を聞く価値はある。

 だけど、ウチの気持ちはもう止められへん。走り出してもうたんや。


「わかっとる。だから情報は集めといてや」

「任せとき!情報こそが商売人の武器やで!」


 あと2年。


 ダーリンとカリン様の結婚が正式に決まったら、ウチも一緒に結婚する。それまではカリン様と協力して、商売や発明をバンバン成功させるんや。そしたら、ダーリンのために最高の環境を作れるはずや。


「それにしてもリューク様は罪な男やな。あんな綺麗な顔しとって、美女や美少女を侍らしとる」

「それがなぁ~ダーリン本人は、優しいだけやねん。優しいのに締めるところは締める。結構エゲツないとこもあるねん。エリーナ様の話は聞いたやろ?」

「そやな。まさか王女様の告白を断るとはな」


 これは極秘情報やけど、人の口に戸は立てられへん。

 当人達や立会人が言わんでも、知る術はあるっちゅうことや。それにウチも最初は断られたしな。


「ダーリンは、見た目や血筋では動かへん。ウチのときも恥ずかしい告白してもうたしな」


 アカン!思い出すと恥ずかしくて顔が熱くなるわ。


「そやな。ホンマにリューク様は貴族様やのに変わったお人やで」

「そこがええねんやん」

「惚気かいな」


 オトンとこうやって毎日家族として話すのも、あと二年やと思うと寂しくなるわ。

 まぁいつでも帰ってこれるやろけど、ウチは絶対に幸せになったる。


「まぁそろそろ寝よか」

「そやね」


 オトンと弟たちと夕食を食べ終えて、それぞれの部屋に向かう途中で、ガラスの割れる音が屋敷に響いた。


「なんや?」


 ウチを囲むように数名の黒衣装どもが勝手に上がりこんで来よった。


「貴様がアカリ・マイドだな」

「あんたら何やねん!人の家に勝手に上がり込んで迷惑や帰ってんか?ウチがアレシダス王立学園のアカリ・マイドと知って襲っとんのか?」


 ヤバいな。うちは魔法はそれほど得意やない。

 発明品も家の中やから持ってへん。

 ここまで来た言うことは外の護衛も倒されとるやろ。


「我々はプロだ。手荒な真似をせずに付いてきてくれるなら、誰も傷つけないと約束しよう」


 リーダーらしき男の声が、近くにおった屋敷や使用人をしてくれてるオバチャンを見る。


「やめ!」

「なんじゃ貴様ら!誰の家に押し入っとんのや!!!」


 オトンの怒声が響いて、数名の侵入者が吹き飛んだ。

 昔、冒険者でブイブイ言わしたオトンは強い。けど、アカン。


「オトン!」

「アカリ!やってまえや」

「オトン、やめ」


 怒りを表すオトンをウチは止めた。


「なんでや?」

「こいつらの狙いはウチや。従業員は家族やからな、ケガさせたらアカン」

「お前!」

「ウチが付いていけばええねんやろ?」

「そうだ」

「なら、そうし。だから誰も傷つけな」


 目の前の男はヤバい。啖呵は切ったけど、勝てる気がせえへん。

 オトンが強くてもアカン。裏の殺し屋やろな。


 なぁダーリン……ウチどうなるんやろな……


「あんたらブフ家のもんやろ」


 ウチの言葉は別に侵入者に向けたモノやあらへん。


「!!」


 オトンはウチが何を言いたいかわかってくれたようや。


「それは言えないな」

「そうか……ほな、行こか」

「失礼」

「やめ! 痛いのは嫌や。付いていくさかい」

「……わかった」


 ウチはオトンを見た。


 この後の事はオトンに頼むしかあらへん。


 今、ここでうちらが抵抗しても怪我人を増やすだけや。

 こいつらがブフ家の者なら、ウチを助けられる人間は一人しかおらへん。


「アカリ!」


 ウチは黒装束の男に抱き上げられた。


「眠っていてもらうぞ」


 魔法か、薬かわからんけど……ウチはそこで意識を失った。


 次に目が覚めたとき、醜い巨漢が私を見下ろしていた。


「ぶひひ、アカリ嬢! 私のマイスイートハニーよ。あなたがあまりにも私を待たせすぎるので迎えに上がりました。さぁ私の99番目の妻になって頂きましょう!!!」


 ダーリン……助けて……。



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