異世界お姉ちゃん~異世界転生したけど、『お姉ちゃん』がいっぱいいるのでオッケーです!!!!~

水本隼乃亮

プロローグ

 俺は、『お姉ちゃん』という存在に憧れている。おっと、誤解しないで欲しいのだが、ここでいう『お姉ちゃん』とは血の繋がった実の姉ではない。

 ほら、よく漫画やアニメなんかにいるだろ?主人公の近所に住んでいる小さい頃からずっと一緒な、俗にいう幼馴染の女の子だ。彼女が主人公の同い年のパターンは多いが、年上の女の子の幼馴染っているだろ?そんな彼女を主人公はなんて呼んでいる?そう、『お姉ちゃん』だ。俺はそんな存在に憧れている。


 初めてその『お姉ちゃん』という存在を知ったのは小学三年生の時。一つ下の弟が買ってきた少年漫画を興味本位で読んだ時だった。まあ、よくある漫画だ。平凡な高校生である主人公が学園中で繰り広げる恋愛コメディ。もちろん、恋愛ものだから様々な女の子が登場する。転校してきた利発な少女、品行方正で同学年である主人公にも敬語な風紀委員、主人公を先輩と慕う小柄で天真爛漫な後輩。

 だが、俺の心を奪ったのは彼女たちでは無かった。主人公を小さい頃から知っている隣の家に住んでいる年上の幼馴染である彼女。彼女こそが、俺の心を奪い俺に『お姉ちゃん』に対する憧れを抱かせた人物だ。彼女は、最初の方はヒロインではなく、主人公を「弟クン」と呼び、主人公からは「お姉ちゃん」と呼ばれるだけのチョイ役だった。しかし、回を重ねるごとに段々と存在感を増していき、読者が必ず涙を流すと言われるシーンを生み出す。

 最終話、いよいよ主人公がヒロインに告白するシーンだ。主人公は、ヒロインを近所の公園に呼び出し、告白する。ヒロインが涙ながらにその告白を受けるというシーンだ。しかし、その場にはなんとその「お姉ちゃん」がいたのである。彼女は、そう、偶々その場に居合わせてしまった。告白を遠目に見てしまった彼女は、その時、「弟クン」と呼んでいた彼に恋愛感情を持っていてしまったことに気づき、一人でその場で泣いてしまう、というシーンだ。

 俺はそのシーンで確実に彼女に落ちてしまった。そこから、俺は『お姉ちゃん』好き…いや、『お姉ちゃん』狂いになってしまった。


 当時俺は小学三年生。その時には幼馴染のお姉ちゃんなどいなかったが、これから出来るかもしれないと考えていた。隣の家に引っ越してきたりだとか、正月親族の所に行ったら実は二、三個上の親戚のお姉ちゃんがいたりだとか…。

 そんな風に考えていた俺だったが、そんなイベントは起こらずにどんどんと年を取っていってしまった。高校生になった俺は『お姉ちゃん』という存在をほぼ諦めていた。そんな時、同じクラスの少しオタクが入ってるやつに、ギャルゲーというモノを教えてもらった。どうせ二次元だろ…とあまり前向きでは無かった。 

 が、思いっきりはまってしまったのである。そのギャルゲーにも、完璧な『お姉ちゃん』がいたのだ。俺は他のヒロインになんて目もくれず彼女を攻略しまくった。だが、彼女は俗にいうサブヒロインというやつで、他のヒロインと比べると少し物足りなかった。そこで俺はまたクラスメイトに相談した。すると奴は、年上ヒロインしか登場しないという、俺にとっては垂涎もののギャルゲーを紹介してくれた。俺は教えてもらったその足でそれを買い、プレイした。寝る間も惜しんだ。弟妹にすごく心配されてしまう程やりこんだのだ。

 全てのルートをクリアし、半ば賢者モードだった俺はそのゲームのパッケージをふと見た。その瞬間、俺はそのソフトのメーカー名に目が吸い込まれた。「お姉ちゃんプロジェクト」。まさに俺のためのメーカーだと思った。俺はすぐにそのメーカーのHPを開いた。すると画面いっぱいにお姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん…。その時の俺は人生で一番輝いていただろう。俺がオタクになった瞬間だ。


 それから俺はラノベやアニメなんかにも手を出した。無論、『お姉ちゃん』が登場する作品がほとんどだったが。それらを網羅した俺の感想だが、『お姉ちゃん』であるキャラが報われる作品は、少ない。大体の『お姉ちゃん』は主人公に恋愛感情が無いと言ったり、主人公にアドバイスする役に収まってたりしていて、主人公に恋愛感情を持たれていないというパターンもたくさんあった。

 俺だったら彼女たちを選ぶのにな…。なんて、気持ち悪い考えを持ちながらラノベを読んでいたものだ。


 そんな俺ももう28歳。今では会社に勤務しているただのサラリーマンだ。だが、今でも「お姉ちゃんプロジェクト」のギャルゲーはやっているし、アニメやラノベも読んでいる。今では異世界転生なんてもんが流行っていて、これが中々面白い。


 ありきたりな言葉だが、この時の俺はまだ知らなかった。

 そんなラノベやアニメの登場人物のように異世界に転生し、そんな『お姉ちゃん』に囲まれ生活するなんてことを。

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