第17話 作成 その1、2、3

ラストリアから王都まではそう遠くない。

 1日あれば着く距離だ。


 昨夕、ラストリアのアドレのパン屋にレナを送り届けてから、久しぶりにあの坂の上にある家に寄った。


 継母である王妃に命を狙われ続けた皇太子継承騒動の後、この生母の別荘には数えるほどしか来ていない。


 いや、数えるほどしか来れなかった。


 兄は執務に追われ、俺は騎士団に入り、昼は騎士団、夜は勉強に追われた。

 レナがもしかしたら、ここを訪ねて来るかも知れないと考えたこともあり、居ても立っても居られないこともあった。


 今朝、あのバルコニーから見る朝焼けに輝く湖や朝日を浴び白い頂きがオレンジ色に染まる遠くの山々はいつもに増して美しかった。

 この景色を再び、レナと一緒に見れる日が来るなんて…


 このバルコニーで美味しいお茶を淹れ、お菓子を食べながら、ふたりであの絵を仕上げていく。


 もう楽しみでしかない。


 しかもレナがこのラストリアのいれるのはあと3週間ちょっとしかない。

 それまでにレナに俺を好きになってもらわなければならない。


 一分一秒でも早く王都の騎士団の寮に帰って、あの絵を持って再びラストリアに来なければ…


 レナが待っていてくれると思うとそれだけで気持ちが急く。

 出来るなら空を飛んで帰りたいぐらいだ。



 「ディカルト殿下、ちょっとは休憩しましょうよ〜 急ぎ過ぎですよ。これだと馬も疲れてしまいますよ〜。」

 ザックが横でうるさい。


「…ザックはゆっくり帰っていいよ。」

「恋する男は冷たいですね。俺はお茶でも飲みながら作戦会議をしたいんです!」


 作戦会議?


「ほら!楽しいことばかり考えてなにも考えていなかったでしょ!ディカルト殿下はいま相当浮かれていますから。」


 いや、頭の片隅には騎士団になんて言って休暇を延長しようかとは考えていたが…

 

 浮かれている。

 本当にそうだ。

 何年も変わらなかった事態がいま動き出したんだ。


 しかもレナを手に入れる千載一遇のチャンスなんだ。


 浮かれないわけがないだろう!


「…騎士団の訓練と思えば、作戦会議はこのまま馬を走らせながらでも出来るぞ。」



 一度こうと決めたら真っ直ぐなディカルト殿下。こんなところで発揮しないでくれ。

 ザックは心の中で呟く。




 ザックの額の眉間の皺が深くなっているのがわかる。

 そうだよな。ザックは金髪で長身で女性にもモテまくっていて若く見えるけど、もう30歳目前だよな。

 労らなければ。


「…わかった。俺が悪かった。ちょっと急ぎ過ぎた。俺のわがままで朝早くに出発してもらっているし体力的にキツいよな。次の街か村で休もう。」


「…殿下。いま年寄り扱いしたでしょう。」

「…………。」





 昼過ぎには王都に着いた。

 寮のある王城に着いた途端に陛下である兄に呼ばれる。

 ザックも用件は聞いてないようだ。



 執務室にザックと行くと騎士団長もいた。


「「失礼します。」」

 2人がなにか深刻そうな顔をして話していたのを止めて、こちらを振り返った。


「陛下も団長もお疲れ様です。休暇をいただきありがとうございました。」

「ディカルト副団長もザックも明日からの出勤なのに悪いね。」

 団長が申し訳なさそうだ。


「「いえ、大丈夫です。」」


 全然大丈夫じゃない。

 ザックと考えていた作戦が…

 その1 仮病。

 その2 仮病。

 その3 忌引。(俺の寮の部屋によく来くる野良猫の…猫はピンピンしているけどね)


 こんな元気な姿を団長に見られたら早速、作戦1、2は失敗だ。

 仕方ない。もう作戦、その3か…


 チラッとザックを見ると同じことを思ったのだろう。2人にわからないように肩をすくめた。


「大変な報告が入った。魔獣が出たらしい。」

 年季の入った団長の眉間の皺がさらに深くなる。


 団長は6年前に王城が荒れた時も、俺達兄弟を守らない父に代わり、ずっと本当の親父のように守ってくれた人だ。


「「魔獣?」」


 ザックと顔を見合わせる。


 フラップ王国で魔獣が出るなんて物語の話でしか聞いたことがない。

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