第14話 かみなりしいたけ



「かみなりしいたけってなんだ?」


「この辺りでは雷が落ちた木から、しいたけがすごい取れるという言い伝えがあるんだ。」

「しいたけが?」


「そう!しかもいつもより成長が早いんだ。」

 他の少年がうれしそうに教えてくれる。


「昨晩は嵐で雷がいくつも落ちていたし、どっかの木に雷が落ちたんじゃないかと思ってみんなで探しにきたんだよ。」

「あったのか?」

 少年全員が指をさす。

 指す方を見ると、ぱっくり割れているクヌギの木が崖スレスレに生えている。


「あれか?」

「あれを見つけて、木を切って持って帰ろうとしたんだ。」

 確かに木のそばにノコギリが落ちている。


「力を入れて過ぎて、バランスを崩したんだな。」

「うん。」

 少年達がバツが悪そうに俯いた。

「もう一度、あの木を切るといっても、すぐ横は崖だし危険極まりないな。」

 ディルが木を見ながら腕組みをする。少年達がしょぼんとした。


 木と雷…

 雷…


「ディル、出来るかも知れない…。」

「なにを?」

「木に落雷!!」

「はぁ?」


 わたしはその辺に落ちていた50センチぐらいの長さのある木を拾って、みんなの前に転がした。


「少し危ないから、だいぶ離れていて!だいぶよ!」


 ディルも少年もわたしがなにをするのか理解が出来なくて、怪訝な顔をしながらノロノロとわたしの後方に移動する。


「やるわよ!!」

 

 詠唱を始めるとディルがハッとした。


「みんな、耳を塞げ!」


 この魔法だけは得意。

 頭の中でイメージを作る。

 すると稲妻のような光がバリバリと音を立てて転がしていた木に落ちた。


 ドスン!!!


 ちょっぴり、やり過ぎたかな…


 木から、少し煙が上がった。



 少年たちは両耳を塞ぎながら唖然としている。


「それはなんて魔法だ?」

 ディルは6年前にも一度見たことがあったからなのか、落ち着いている。


「ディルは覚えていてくれたのね。名前はわからないけど、この魔法だけは得意なの!」


「覚えているもなにもザックを助けてくれた魔法だ。忘れるわけがないよ。」

「上手くいったと思うんだけど、どう?これなら、落雷があった木と同じ条件だと思うんだけど…」

「そうだな。同じ条件になったと思う。」


「お姉さん、すごいね。ありがとう!お兄さんもお姉さんも魔法が使えるなんて、物語の王子やお姫さんみたいだ!」


 一瞬、ドキッとする。


「うれしいこと言ってくれるな。俺たち、格好いいだろう。」


 ディルがわたしの方を見ながら目くばせをした。


 えっ? ディル… なに?


 ぎこちない笑顔を返した。




「これを君たちの集落に運ぶから、本当にしいたけがたくさん出来るのか観察して欲しいんだがいいかい?」


「「「もちろん!」」」

 少年たちがディルの提案に元気よく答えてくれる。


「お姉さん、出来たらでいいんだけど、あともう少しこれを作ってくれない?もしかしたら、しいたけがいっぱい出来るかも知れないだろう。」

 少年のひとりがわたしに頼んでくる。


「もちろんいいわよ!山のように作るわ!」

 うれしくなって、とびっきりの笑顔で応えた。



 少年たちと集落に向かうことになった。


 ザックさんは自分がいない時にディルが風魔法を使ったり、わたしが雷のような魔法を使い音だけはしっかり聞こえていたらしい(そりゃそうだ!)ので、だいぶ心配したのかムクれ顔だった。




 集落に着くと、大人たちが何事かと出てきて、少年3人が事情を説明してくれると、大変歓迎をされた。


 少年たちと約束どおり「落雷に遭った木」をたくさん生産することになった。

 薪用の割る前の木をたくさん、それこそ山のように積み上げ、魔法の落雷を落とすことにした。


「みんな、耳を塞いで!」


バリバリバリバリ、ドスン!!!!


 次は力加減が上手くいったのか、煙は出なかった。


 わぁぁぁ!!と歓声が上がる。



「レナ、お疲れ様。やっぱりその魔法はすごいな。俺、レナだけは怒らせないようにしないとな!」

 ディルがクスクス笑っている。


「わたしを怒らせるとこれで攻撃しますから。ディルがわたしにあまりベタベタすると本当の雷を落としますからね!」

 わたしが戯けた表情でディルに釘を刺す。


「わかったよ。だから、落雷は手加減して!」


 ザックさんがそのやり取りを始終見ていて、困り顔だ。

 まわりの少年たちや大人もクスクス笑っている。



「では、俺たちはこれで失礼します。」

 ディルが集落の長であろう人に挨拶をした。

 まわりの大人や少年たちは名残り惜しそうだ。


「泊まっていってくださればいいのに。」

「ありがたいお話しなのに少し先を急いでいて申し訳ないです。」

「しいたけの結果は王都の騎士団に報告すればよろしいですか?」

「そうしてもらえると助かります。俺からレナ嬢にも報告します。」

「わかりました。「ディル」さま。」


 集落の長が生温かい目だ。

 ディルがなぜか苦笑いだ。

 ザックさんに至っては無表情だ。


 別れを惜しみつつ、集落を後にした。


 道中、ディルが「あいつに貸しをつくってしまった…」とぶつぶつ言っていたが…。

 


 わたしが「しいたけが大量に採れて大変なことになっている!」と、報告を聞くのはラストリアに着いてすぐ後のことだった。

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