第12話 翌朝
翌朝、目が覚めるとディルは部屋にいなかった。
昨晩から部屋に戻ってきている様子もない。
とりあえず身なりを整えて食堂に行くと、ディルは同じような年若い男性と着席して談笑していた。
「レナ、こっち!」
前からの知り合いのようにあたかも当たり前のように名前を呼ばれ、ディルが満面の笑みで手招きをしている。
「レナ、おはよう。昨晩はよく眠れた?」
「おはようございます。ぐっすり寝れましたよ。ディルは昨晩、部屋に帰ってきてないようだけど、どこで寝たの?」
「レナは俺が帰って来なくて淋しかった?」
「いえ、全然。全く。今朝気づいたぐらいよ。」
真顔で答えたら、ディルが困ったように笑った。
金髪の男性が小声で「Don't mind」と囁いた。
その男性がディルとわたしのやり取りを食い入るように見ている。
「昨晩はザックの部屋で寝たんだ。あの後、談話室でザックと偶然一緒になったからね。」
ザックさん!!!
「えっ?えっ?あのザックさん?」
「そうそう。あのザック。これがザック。」
ディルが目の前に座っている男性に視線を移す。
6年前の記憶より長い金髪でスラリとした男性だけど、確かに記憶通りその落ち着きぶりがザックさんだ。
「ザックさん、ご無沙汰しております。レナです。その節は大変お世話になりました。」
慌てて一歩さがりカーテシーをする。
「ご無沙汰です。レナ嬢もお元気そうですね。」
気づけば、ディルがドヤって顔でザックさんを見ていた。
3人で朝食をいただき、ラストリアのアドレのパン屋までふたりが送ってくれることになった。
「レナ、部屋に戻って鞄を取っておいで。玄関で待っている。」
「わかったわ。少し待っていてね。」
転移魔法でラストリアに行くことに不安を感じていたのでふたりがラストリアまで送ってくれるのは正直ありがたい。
急いで部屋に向かう。
「な、ザック。レナだろ。」
俺の言ったとおりだろ。
見まごうことなく、あのレナだろう。
「…… 双子だったりしないんですか?」
「それはどこかの国で流行っている恋愛小説。それ、レナも言ってたな。おまえも柄にもなくあの恋愛小説読んだんだ。」
「そう言うディカルト殿下も読んだんですね。わたしの場合は知見を広げるためです。世間を知っておくためですよ。」
「…俺も勉強だ。」
なんの勉強だっ!ザックはツッコみたくなる。
「それにしてもあれは間違いなくレナだろ。」
「そうですね。6年前よりかなり美しく成長されましたね。」
「さすが、俺の聖女様だよな。」
何気にうっとりした表情すると、ザックが眉間に皺を寄せる。
「ディカルト殿下のうっとりはキモいからやめてください。」
「もう少し、オブラートに包んだ表現にしてくれよ。心に刺さる。」
なかなかザックは俺に対して辛辣だ。
「とにかく、レナの前では「ディル」と呼んでほしい。俺がこの国の王弟であることは伏せておこう。レナには騎士だと伝えている。嘘じゃないだろ。」
「よろしいんですか?」
「レナには王弟の俺ではなく俺自身を見て、俺を好きになってもらいたいんだ。レナのひとり旅の時間は1ヵ月しかない。1ヵ月でレナを落とす。」
「恋愛初心者で女性不信で男色の噂がある、初恋拗らせ殿下が?」
「恋愛小説を読んでいるから心配ない。」
「…… 左様で。」
まったく、どんな自信だ。
「レナ自身もダズベル王国のレナリーナ姫とは明かさないだろう。もちろん俺たちが気づいているとも思ってないだろうし。だからこのまま「レナ」として扱おう。」
「わかりました。ディル。レナ嬢を落とすのに協力は惜しみませんよ。」
お互い、半歩ずつ歩み寄り同時に右手を差し出し固く握りあった。
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