第7話夜会という名の拷問……
18歳当日。本日も晴天なり。
私は今、夜会という名の拷問会場へとやって来ています。
朝から侍女達に磨かれ着飾られ、それはそれは美しく化けました。周りの男共が振り返るほどには化けた。
(まあ、元がいいからね)
「……孫にも衣装……」
ふふんっと胸を張って歩いていると、肩に乗ったスズメがボソッとつぶやいた。
「──あらあら?ライさんはお料理の仲間入りしたいのかしら?いいわよ、手伝ってあげる」
すぐにスズメを握りしめ、毛を毟る仕草をすると「すみません!!調子に乗りました!!」と必死に謝ってきた。
本当に毟ってやろうかと思ったが、ピーピー煩かったので仕方なく離してやった。
(神様のステーキなんてシャレにならないし)
そして、本日の主役らしく来てくれた人一人一人に挨拶して回った。
──が、会場を見渡してもアイザックの姿は見当たらなかった。
イアンは何処ぞの令嬢と話をしている所を目撃したが、アイザックはいなかった。
私は心の中で大きくガッツポーズをした。
(よしよし、奴がいなきゃこんな夜会楽勝よ)
そう思ったのも束の間、令嬢達の黄色い悲鳴が聞こえてきた。
何事かと入口を見た瞬間ギョッとした。
何十本あるんだ?と思ってしまうほどの真っ赤なバラの花束を抱えたアイザックがそこにはいた。
あまりの衝撃的な登場シーンに動けずにいる私の元へと奴はやって来た。
「シンシア嬢、お誕生日おめでとうございます」
「あ、ありがとう……ございます」
渡された花束を受け取ろうとした際にアイザックの手に触れてしまった。
その瞬間、ボワッ!!と全身の鳥肌が立った。
「頑張れ!!抑え込むんだ!!負けるんじゃない!!」
耳元でライが励ましてくれている。
グッ!!と気持ちを落ち着かせ、その場で深呼吸──うん。堪えた。
「──昨日は急に倒れて驚きましたが、元気そうで安心しました」
今すぐこの場から消えたいのに、目の前の男は簡単には離してくれない。
礼装服姿のアイザックは、色気のある美男。
それに付け加え役職は副団長、爵位は公爵ときた。
周りの令嬢達は一目でもお目にかかろうと必死でアピールしている。
流石は孫。ダロンも人気はあったけど、アイザック程では無かった……気がする。
「ご心配おかけして申し訳ありません。お詫びと言っては何ですが、本日は楽しんで行ってください」
ザ・社交辞令。
とりあえず、ライの『アイザックと一日一言』のノルマはこなした。これ以上アイザックと一緒にいれば私の精神がもたない。
「では、これで……」と頭を下げ、その場を後にしようとした。……──が、アイザックが私の前に立ちはだかり先に進めない。
「……あの……まだ何か?」
こっちは精神ギリギリなんだよ!!と心の中で叫びつつも平静を装た。
「ええ。病み上がりのシンシア嬢が無理をしないよう私がお側に付いていようと思いまして」
ニッコリ微笑む姿は気を抜いたら絞め殺してしまいそうな程ダロンに似ている。
「マジでやめてくれ!!」と叫びたいところをグッと堪えた。
偉い私。やればできる子。
「……副団長様にそのような事をさせる訳にはいきません。私は本当に大丈夫ですので、他のご令嬢達と楽しんでくださいませ」
「そうはいきません。私は貴方を祝う為にやって来たのです。他のご令嬢と話す為ではありません」
「いいから早くどっか行けよ!!」なぁんて言いたいのに言えないもどかしさ……
なんだこの男?ダロンの孫でしょ?
言っちゃなんだが、ダロンは爵位の低い貴族には無関心だった。恋は盲目と言われている通り、あの当時の私はそれが普通だと思っていた。
だから、悪霊になってからそれが蔑視なんだと気付かされた。
(私も馬鹿よね。気付こうと思えば気付けたのに……)
悪霊になって気付かされたことも沢山ある。
だから、悪霊になってたのもいい人生勉強だったってことだよね。
まあ、それはさておき、この場をどう乗り切ろうか……
アイザックを見れば見るほどダロンを連想させる。
そして、見れば見るほど心の奥底の闇が湧き出てくるのが分かる。
(これ以上は無理だ!!)
また暴走させてしまう!!そう思った瞬間。
「……まったく。私に何度手間を掛けさせれば気が済むんだお前は?」
そう言いながら、私の肩を抱き寄せたのは……
「……ライ……?」
「ああ」
いつもの神様の姿ではなく、礼装服を着た見目麗しい男がそこにいた。
ライは私の肩を抱きながら闇の部分を抑え込んでくれているようで、気持ちが軽くなった。
(助かった……)
そう思ったのも束の間。ライの美しさに矢を打たれたご令嬢達がこぞってライを取り囲み、何処の子息か婚約者はいるのか根掘り葉掘り聞きだした。
その令嬢達に揉みに揉まれ、ようやく抜け出せた時には髪と服はボロボロ。とても夜会にいられる状態ではなくなった。
(丁度いいからこの騒ぎに乗じて逃げてしまう)
という事で、会場を抜け出した私は夜風に当たろうとボロボロの格好でいつもの木の上へ。
「昼間の景色もいいけど、夜は夜で素敵ね」
町の光があちらこちらから見えて、ちょっとした夜景を楽しめた。
「──やっぱりここでしたか」
木の下から声がかかった。
姿を見なくても分かる。アイザックだ……
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