第3話転生するとは言ったけど、赤子とは聞いていない
約束の二日目。
私は身を隠すために人が最も多いと言われている市場へやって来た。
(木を隠すなら森の中ってね)
まあ、神様相手に無駄な抵抗だとは思っているけど、最後まで抗いたい。
そう思いながら人混みに紛れていたが、ふと、前から歩いてくる男が気になった。
ここは市場。周りは平民ばかり。なのに前から歩いてくる男は平民とは似つかわしい装いをしていてるが貴族とは違う。不思議な感じがした。
「……神様……?」
自然に言葉が出てきた。
その言葉を聞いた目の前の男は「ふっ」と微笑んだ。
「よく私の姿が分かったな」
「いや、分からなかったけど、自然と出た」
近づいてみると、やはり普通の人間とは違う雰囲気を纏っている。けど、それよりも気になるのが……
(顔がいい!!)
「……なんで今日はスズメじゃないの?」
「サービスだ」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべながら言ってきた。
これをサービスにする意味がわからない。
「──で?答えは出たか?」
「答えなんて出すまでもないでしょ。選択肢がないんだもの」
神だと言ってはいるが、実は悪魔なんじゃないのか?と疑ってしまうほど悪い顔をしている。
「選択肢は二つ出してやっただろ?どっちだ?」
この男は私が転生を選んでいる事を知っていても尚、答えを聞いてくる。
「……転生……するわよ……」
消えそうな程小さな声で言った。
「は?何だって?聞こえんぞ?」
耳に手を当て、聞こえないアピールをしてきた。絶対聞こえてるのにだ。
(この男!!)
「転生するって言ってんの!!」
男の耳を引っ張って大声で言ってやった。
「~~~っ!!──お前な、私は神だぞ?少しは敬うという言葉を知らんのか?」
耳を抑えながら文句を言われたが、元はと言えばお前が悪い。
罰当たり?上等よ。こちとら長年悪霊やってきた経歴があるの。神様ごときに屈しないわ。
「あっ、でも転生するにあたって一つだけ条件いい?」
「内容にもよるがな」
「今の記憶を持ったまま生まれ変わりたい」
転生先でも同じ事態が起こるかもしれない。今の記憶がなければ同じ事の繰り返しだ。
どうせ転生するんなら、人生楽しく過ごしたい。
私の願いを聞いた神様はしばらく考えた後「いいだろう」と了承の言葉が返ってきた。
これで心残りなく転生ができる。
「じゃあ、サクッとやってちょうだい」
両手を広げ、転生されるのを待つ。
「──……お前、私が受け持った中で一番の問題児だぞ?」
神様が大きな溜息を吐きながら言うと、私の足元が光りだした。
『生命の守護神モイラが命ずる。汝、カロリーナに新しい生命を授けることをここに承認する』
ツンと神様様の人差し指が額に当たった瞬間、私の体は光の中に包まれた。
「──いいか、転生先ではくれぐれも大人しく、上品に過ごすんだぞ!!」
私の体が消える前に、神様が叫んだ。
(……あの人は、私の保護者か?)
そう思いながら光に包まれた……
こうして、楽しかった悪霊生活に終止符を打った。
◇◇◇
「──あぁ、可愛い女の子だ」
転生したであろう私の目の前には、優しく微笑みかけてくる髭を生やしたおっさんがいた。
横を見ると、ベッドの上で額に汗を浮かばせこちらも優しく微笑みながら涙を浮かべている女性がいた。
「あうっ、あう?(あんた達誰?)」
あれ?喃語?
自分の手を顔の前に近づけて見たら、ちいちゃな可愛いお手手が見えた。
(んな!?)
あの神様、赤子まで戻したの!?
適当な奴の身体に入れてくれれば良かったのに!!
(あっ、そう言えば『新しい生命』って言ってたか……?)
正直、この中身でもう一度赤子をやるのは耐え難い。
思わず「おぎゃぁ!!」と泣いてしまった。
「おいおい!!急にどうしたんだ!?」
「あらあら、お父様に抱かれるのが嫌なの?」
どうやらこの二人が今世での親らしい。
急に泣き出した私をどうすることも出来ず、ただあたふたしているお父様を尻目に、お母様が「貸して」と私を抱き上げた。
やはり母親。安心感が半端ない。
(暖かい……)
忘れていた温もりを感じ、赤子でもまあ、いいかと思ってしまった。
そして、その温もりを感じつつ眠りについた。
これから始まる新しい人生が素晴らしいものになるよう願いつつ……
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